自然写真家
海野和男
Tough×海野和男
使用カメラ:STYLUS TG-4 Tough
自然写真家
海野和男
自然写真家、海野和男氏がSTYLUS TG-4 Toughを持ってボルネオへの旅に出た。この地域は、ここ数十年で開発が進み、熱帯雨林の減少が心配されている地域でもある。
途中、道に迷いながらも貴重な生態系の撮影に成功した数々の写真を、海野氏の語りとともにご覧ください。
STYLUS TG-4 Tough
朝食のあとはポーリン温泉に行くことにした。ポーリンは標高が低いので、熱帯の一般的なチョウが多いところだ。標高の高いところよりはチョウはたくさんいたが、人の方が多かったかもしれない。ここにはバタフライガーデンのようなものがあるが、中にはたいしたチョウは飛んでいない。けれどケージの外の庭にハイビスカスやサンタンカが植わっていて、楽しく撮影ができる。次の泊まりは150kmほど移動して、ケニンガウという内陸部の盆地にある町だ。その後は何処に泊まるかは決めていない。まずは下見の感じでケニンガウまで移動。ホテルは郊外にあったので、車で町の中心部に食事に行くことにした。
何処で食べようかと車を流していて、たいへんな光景に出会った。町の一角の電線にツバメがびっしりととまっている。日本にいるのと同じツバメである。日本のツバメは冬は熱帯アジアに移動して、春に又戻ってくる。移動の前に町に集まる習性があり、40年以上前にマレーシアのクラカンサーの町で見てびっくりした光景が、そこにはあった。カメラはTG-4だけを持っていた。まずはストロボで写して見たが臨場感が出ない。そうだ、明るいレンズなのだから、そのまま撮ればよいのではと手持ちで撮影した。夜なので露出を変えたりと、いろいろ撮ってみたが、なかなか良い雰囲気の写真が撮れた。今回のボルネオ旅行で、最も興奮したことの一つである。いつもポケットにカメラを入れてあるから撮影ができたのだ。TG-4は出っ張りがない薄い形なので、ポケットに入れるには最適だ。
キナバル山の西からケニンガウにかけて、クロッカー山脈と呼ばれる山塊があり、国立公園に指定されている。ポーリンからケニンガウに向かう道の南側にはトルスマディ山保護区と呼ばれる場所もある。この界隈は緑の島、残された最後の秘境といったボルネオのイメージを今なお残している地域だ。翌日はトルスマディ山に行ってみることにした。未舗装の道路が山の中に延々と通いている。車道は急坂を登り切ると尾根道になる。ちゃんとした地図を持っていなかったので、スマホにダウンロードしてあるGoogleマップが頼りだが、この道は表示されていない。一体何処まで続いているのだろうかと心配になる。人は住んでいないから、携帯の電波が届かない地域では、正確な場所を知ることができない。結局、山道を50km以上走ったが、どうやらまったく反対側に降りてしまったようで引き返すことにした。TG-4にはGPS機能が付いているから、あとで地図上で確かめることができるのはありがたいことだ。
景色は最高だし、林道のドライブも楽しかったけれど、お目当てのチョウにはこの日も出会えない。何も成果がないまま、いったいどうなっているのかと不安になる。川のある場所に行きたいと、途中一番自然が残っていたタンブナンに行くことにした。タンブナンには、インターネットで予約できるホテルがない。とりあえずはタンブナンの町へいって、看板などを頼りに探すことにした。そうして見つけたのが7ロッジという宿、モーテル風で庭も広く虫もいそうでいい場所だった。ここから北へ行けば、クロッカー山脈だ。ここでとりあえず2日間撮影することにした。タンブナンから山を越える道があって、今ではコタキナバルと内陸部をつなぐメイン道路になっている。世界最大の花を運が良ければ見られるラフレシアセンターがあったり、道路脇に滝があるところもある。タンブナンでようやくチョウがたくさんいる場所を見つけた。マフアの滝という場所で、なんと村がやっている宿泊施設もあった。帰りに泊まることにして、予約してから、またケニンガウに戻り、クロカー山脈の標高の高いところにあるロッジに宿泊することにした。今回は、車で気楽にまわれる場所で、次回のことも考え、撮影ポイントを見つけたいという思いもあった。その宿はケニンガウからコタキナバルに抜ける道路の峠の場所にあった。国立公園なので、宿泊するにも入場料を払わなければならないが、別世界の趣があった。
ジャングルに夕日が落ちたあと、刻々と変わる空の色、林越しに見える景色がたいへん美しい。あっという間に照度は落ちるが、明るいレンズなので手持ちで美しい風景も撮影ができた。夜に灯りに飛んでくる虫を期待した。ボルネオオカブトなど来たらよいなと思ったけれど、残念ながらほとんど何も来ない。林も乾燥しきっていて、異常気象を心配する。この地域の最後はマフアの滝での撮影。早めについて、午後にチョウの撮影をする。宿舎はドミトリーみたいな場所だったが、誰も泊まっていないので、すこぶる快適。ところで夕食は食べられるのだろうかと心配になって、レストランへ行ってみると、なんと5時までだという。宿泊客はバーベキューなどを自分たちで楽しむ施設にいるようだ。麺類しかなかったが、とてもおいしかった。今回のボルネオ旅行の麺では、ここが一番おいしかったかもしれない。
驚いたのが、夜。撮影に出てみると、真っ暗で、誰もいないのだ。国立公園の事務所にも人がいない。いたのはネコが一匹だけ。みんな村に帰ってしまったようだ。携帯もつながらない場所で、ちょっとびっくりしたが、安全でのんびりした国だから、心配することもないだろう。これで、夜は昆虫を探し放題と思ったけれど、やはり虫はとても少なかった。それでも明け方に見つけたキリギリスの仲間をスローシンクロモードで撮ってみた。背景が暗くならずにきれいな写真になったが、ぶれやすいので三脚を使った方が良さそうだ。
庭に小さな池があって、熱帯スイレンがあったので、スイレンの咲くところをインターバルタイマーで撮影。便利な機能がたくさんあるのだなと思った。川原に吸水に来るチョウを、結局は合計で3日間狙った。チョウのマクロ撮影では撮影領域の拡大したTG-4は随分と使いやすくなった。望遠と広角を使って30cmから1cmまでいろいろと撮影をしてみた。近づくことさえできれば、だれもが素敵なマクロ撮影ができるのだ。チョウに近づくにはコツがある。焦っていきなり近づいてしまったらチョウだってびっくりする。特に今回のようにチョウの数が少ないと、チョウも敏感になる。最初はなかなか近づけなかった。そこで川原に座って待つことにした。まずは遠くから撮影ということで、テレコンを使ったり、OM-Dの望遠ズームで撮影。だんだんチョウが逃げなくなる。そのうちチョウもカメラに慣れてきたので、顕微鏡モードに切り替えて、まずは30cmから撮影。こうして徐々に距離をつめれば、最後は1cmまで近づいてもチョウは逃げなくなる。深度合成モードを使ってみたり、いろんな設定で撮り放題ということになる。TG-4にはフイッシュアイコンバーターやテレ(望遠)コンバーターもある。防水・防塵だから、湿った川原にカメラを直接置いても全く問題ないのが嬉しい。
キナバル国立公園でまた1泊して、特産種のボルネオキシタアゲハを狙うが、雨が降ってきて敗退。コタキナバルに近づくと、あちこちの山林から煙が出ている。山火事らしい。聞くところによれば降雨不足で山火事が頻繁に起こっているらしい。そう聞くと、今日雨に降られたのがよかったなと思った。何しろボルネオ滞在中の初めての雨だったから。TG-4と共に過ごした10日間のボルネオ。どっぷりと自然につかり、心身共にリフレッシュした。今回は、天気が良すぎて、思ったような写真が撮れなかったけれど、これから何度も訪れて見たい場所の一つになった。
海野和男(うんの かずお)
東京農工大学の日高敏隆研究室で昆虫行動学を学ぶ。アジアやアメリカの熱帯雨林地域で昆虫の擬態を長年撮影。1990年から長野県小諸市にアトリエを構え身近な自然を記録する。著書「昆虫の擬態(平凡社)」は1994年日本写真協会年度賞受賞。2015年にその続編「自然のだまし絵 昆虫の擬態(誠文堂新光社)」を発刊。
日本自然科学写真協会会長
海野和男のデジタル昆虫記 http://www.goo.ne.jp/green/life/unno/
小諸日記 http://www.goo.ne.jp/green/life/unno/diary/
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