岩合 光昭 Mitsuaki Iwago
1970年に訪れたガラパゴス諸島で、自然の圧倒的なスケールに触れ、動物写真家としての道を歩き始める。日本人写真家として初めて『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を2度にわたって飾るなど、見る者に驚きや安らぎを与え、想像力をかき立てる写真の数々は世界中で高く評価されている。『地球動物記』『生きもののおきて』など写真集、著書多数。近年は、猫を撮影した写真集が人気を集めている。
インタビュー:2014年7月29日
岩合 光昭 Mitsuaki Iwago
1970年に訪れたガラパゴス諸島で、自然の圧倒的なスケールに触れ、動物写真家としての道を歩き始める。日本人写真家として初めて『ナショナルジオグラフィック』誌の表紙を2度にわたって飾るなど、見る者に驚きや安らぎを与え、想像力をかき立てる写真の数々は世界中で高く評価されている。『地球動物記』『生きもののおきて』など写真集、著書多数。近年は、猫を撮影した写真集が人気を集めている。
写真家の岩合 光昭氏がタンザニア・ンゴロンゴロ自然保護区の撮影から帰国されました。この地域の魅力、そして動物との向き合い方についてお話を伺いました。
編集委員
岩合先生のアフリカの写真に憧れを抱く写真愛好家が大勢います。最近はタンザニアのンゴロンゴロ自然保護区に出かけたそうですね。
岩合
今年(2014年)の4月に行きました。時期としては、雨期の真っ只中です。昨年の乾期にも同じ場所に行ったのですが、そのときとは色彩が違いました。雨が降った翌日と翌々日ではもう緑の色が違うのです。やはり、雨が降った直後は美しいですね。
今回撮影したンゴロンゴロクレーターは、自然保護区の中にある、外輪山に囲まれた火口原です。標高は、低いところでも1600メートルくらい。火口底のクレーターは、約250平方キロメートル、日本で言うと東京23区の半分くらいの広さがあって、ヌーやシマウマなど、多くの草食動物が一生をその中で暮らします。
どういうわけか、ンゴロンゴロでは人と動物たちとの距離が近くなります。ヌーは尻を叩けるぐらいのところに来ることもありますし、シマウマも草を噛み切る音が聞こえるような位置に来ます。こちらが危害を与えないことを彼らが完璧に理解しているとしか思えないですね。
編集委員
現地での1日の撮影はどのように始まるのですか。
岩合
クレーターに入れるのは、朝6時から夕方6時までと決まっています。ですので、外輪山に泊まって、朝、ゲートが開くのを待っています。
1日で本当に光線の良い時間は、午前6時半から8時頃までの1時間半ほど。本当に短いです。それ以降になると、光の色も強さも違ってきます。写真家にとって、光はとても大切です。「今日は雲が多くて光が来ないな」と思った瞬間に雲間から光が差してきたりすると、これを生かさなければと思って撮影場所まで大急ぎで車を走らせたりします。
ンゴロンゴロは、外輪山が背景になるため、写真にコントラストを付けられます。ほかの場所だと背景は必ず空なので、そうはいかないですね。引き締まった、迫力のある写真を撮りやすいのがンゴロンゴロの特徴ですので、外輪山が陰になるときは好んでそういう写真を撮るようにしています。
編集委員
ンゴロンゴロには、40年以上も前から通っておられると聞きました。
岩合
最初に行ったのは1971年です。83年には、2カ月と4カ月、合わせて6カ月間滞在しました。その後、10年単位で何度か訪れています。
間隔を空けて訪れることで、毎年行ったのでは見過ごしてしまうような変化にも気付きます。観光客が増え、道路の整備が進む一方で、車が道路を外れて走ることやゲートの閉門時刻に遅れることに対する罰則が厳しくなっていたりします。写真家としては残念なのですが、フラミンゴがいる湖畔まで人間が行くこともできなくなりました。これはフラミンゴ自体の保護というよりも、植生や水系の保護を考えているのではないかと思います。
そうした保護活動の成果かどうかはわかりませんが、今回、母子を含めた100頭以上のゾウの群れが、クレーターの下まで下りてきたのを見ました。これだけの数を見たのは初めてです。すごいですね。もともとンゴロンゴロはオスが多く、子を見かけるのは森の中までなのですが、今回の群れには草原で出合ったので驚きました。
編集委員
今回はどのような写真を?ライオンの狩りなども撮影されたのですか。
岩合
昔は、狩りの撮影にこだわった時期もありましたが、最近は、ライオンを撮るときも、ただライオンを見てみようって決めるぐらいですね。これを撮りたい、あれを撮りたいって自分のペースで動物の写真を撮ろうとしても、こちらの考えとはまったく違うところに彼らの暮らしがあるわけですから。それを無理矢理ねじ伏せようと考えても、それは不可能な話だなぁと思うようになりました。
今回テーマに据えたのは、動物の目線です。カメラが対象を非常にシャープに写せるようになったので、動物がどの方向を見ているのか、何を見ているのか、その目線を追いかけました。望遠レンズでアップを撮っても、目がシャープに写ることによって、目線の先とか空間が写る。その立体感を通じて、写真を見てくれる人に何を見ているのだろうと想像してもらうことができるのではないかと考えました。
編集委員
シャッターを切るときにどのようなことを大切にしていますか。
岩合
見る人の心を揺り動かす写真を撮るには、ファインダーの中でポイントを絞ることが重要だと思います。その写真家が何を見ているかが伝わるかどうかで、写真が与えるインパクトが大きく違ってきます。動物の生活は、本当に瞬間、瞬間がドラマ。そのドラマに対して、自分の準備ができていて、シャッターが押せるかどうかが勝負だと考えています。
今回の「PHOTO GALLERY」で紹介しているカバの写真は、湖岸でカメラの位置を水面ギリギリまで下げて、ライブビュー機能[※]を使って液晶モニターで被写体を確認しながら撮ったものです。これはオスですが、実はこの下にもう一頭いて、交尾しているんじゃないかな。雨期になると、鳥も美しく賑やかになります。繁殖期を迎えるので、動きが盛んになるんですね。だから、今回は鳥もたくさん撮りました。
※ 撮像素子に写った像をカメラ背面のモニターに映し出す機能。
編集委員
自然に身を置いて撮影を続けてこられて、感じていることをお教えください。
岩合
ンゴロンゴロは観光客も多く、バタバタと西へ東へ走り回る車が目につきます。気持ちは分からないこともないのですが、あれもこれもと欲張らず、自分の感覚を信じて、例えば、「今日はカバの日」と決めて1日見ていても、得られるものはたくさんあると思います。ひと所に留まり目の前の動物と同じ大地の匂いや風を感じて過ごす、数にまさるような気がします。
ここ2〜30年の間にキリマンジャロの頂上付近にある氷雪が急速に溶けています。地球温暖化によるものなのか、森林伐採によるものなのか。人間は、自分たちが暮らしている環境をそのままいろいろなところに持ち込もうとして、地球環境を変えてしまっているのではないでしょうか。本当は、どの土地にもその土地なりの良さがあるので、それを感じて添うことが出来たら、と思います。
喉をかくと舌まで刺激を受けるのでしょうか。
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小さな存在が気になって仕方ありません。
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キバが重なり合うアフリカゾウを見るのは久しぶりです。
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左から3番目のヌーが「グヌー」と低い声で鳴きます。
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夜明けの外輪山の印象です。
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ヒメハチクイが空中で捕らえたハチを食べています。
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サバンナヒヒの家族が朝食を終えて倒木の上で寛ぎます。
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元祖、ネコのポーズのストレッチ。
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雨季は局所的に雨がよく降ります。
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雨中はエネルギーの消耗を防ぐのでしょうか動きません。
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子にとって母親はすべてにおいて大きな存在でしょう。
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カバの交尾中と思われます。
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母親が砂浴びをしている時、何故か子はじっとしています。
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雨季、100頭以上のアフリカゾウが火口原に降りて来ます。
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ツキノワテリムクの囀りです。
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ハタオリドリが巣材を探しに舞い降りて来ます。
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若いアフリカゾウの遊びと見たり。
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喉の乾きを覚えたのでしょうか、水場へと移動します。
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クロサイの親子。気になることへ集中しています。
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長い鼻をキバの上に乗せて休ませます。
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