薬師 洋行 Hiroyuki Yakushi
スポーツ写真家。1969年にアルペンスキー・ワールドカップを初めて取材した後、オリンピック、世界選手権など世界トップクラスの競技会でアルペンスキーを撮影。2007年からは10年以上にわたって、京都・祇園祭の撮影を続けている。薬師洋行 写真展「京都・祇園祭『神輿渡御』」を、2018年6月15日~6月20日にオリンパスギャラリー東京、6月27日~7月3日に京都・ぎゃらりぃ西利、7月6日~7月19日にオリンパスギャラリー大阪で開催。
インタビュー:2018年4月8日
薬師 洋行 Hiroyuki Yakushi
スポーツ写真家。1969年にアルペンスキー・ワールドカップを初めて取材した後、オリンピック、世界選手権など世界トップクラスの競技会でアルペンスキーを撮影。2007年からは10年以上にわたって、京都・祇園祭の撮影を続けている。薬師洋行 写真展「京都・祇園祭『神輿渡御』」を、2018年6月15日~6月20日にオリンパスギャラリー東京、6月27日~7月3日に京都・ぎゃらりぃ西利、7月6日~7月19日にオリンパスギャラリー大阪で開催。
毎年7月、京都では祇園祭が行われます。祇園囃子が鳴り響く宵山、趣向を凝らした『山』や『鉾』と呼ばれる山車が京都の中心街を巡る山鉾巡行、花傘娘が華やかな花傘巡行など、さまざまな行事が目白押しです。中でも写真家・薬師洋行氏が特に力を入れて撮影しているのが神輿渡御(みこしとぎょ)。17日の神幸祭と24日の還幸祭では、中御座(なかござ)、東御座(ひがしござ)、西御座(にしござ)という三基の神輿が京都の町を練り歩きます。薬師氏が今年の祇園祭を前に京都を訪れ、神輿の担ぎ手の方々とともに、神輿にかける思いを語り合いました。
編集委員
2年前に、三若神輿会の近藤浩史会長に、中御座の指揮・運行についてお話をうかがいました(『神輿の伝統を守る人々を撮る』参照)。今回は、実際に中御座の神輿を担いでおられる倉橋正司さんと清水直生さんにも加わっていただき(後に、清水さんの父・武夫さんも参加)、どのような思いで神輿を担いでいるのか、そして薬師さんがどのように撮影を進めていらっしゃるのかお聞きしていきたいと思います。倉橋さんは、神輿を担ぐようになってどのくらいになられますか。
倉橋
50年くらいですね。私、京都の北の大原から丁稚に出てきましてね。そのとき知りおうた人に担ぎにいかしてもろうたんです。それから10年くらいして、兄弟2人が突然亡くなったんですわ。それから1年くらいは(神輿も)どうしようかなと思っていましたが、その後で三若神輿会の前の名誉会長さんのところに「担がしてもらえへんやろか」とお願いに行ったら「ほんなら来なさい」と誘ってもらったんですね。それから10年くらいして『奉三会』という名前をいただいてみこし会を発足し、20年ほどは会長をやっていました。
編集委員
清水さんは『次朗会』の会長をなさっていますが、いつから会長をされているのですか。
清水直生
僕が会長になったのは15年ほど前、30歳のときです。次朗会は親父が作った会で、僕は二代目になります。
編集委員
ということは、子どもの頃から神輿を見ながら育ってきたわけですか。
清水直生
親父が法被を着て神輿の前で毎年写真を撮るんですが、赤ちゃんのときから僕も一緒に写ってますね。7月17日と24日は恒例の家族行事のような感じで、必ず参加しています。実際に担いだのは16歳、高校のときからになります。
近藤
三若には奉三会、次朗会をはじめとして10のみこし会があって、全部で850人くらいの輿丁(よちょう)、つまり担ぎ手がいます。10のみこし会全体の集まりとして『三若みこし連合会』があって、倉橋さんはそこの副会長、清水さんのお父さんは会長をされています。
編集委員
みこし会に入るには、京都在住などの条件があるのですか。
倉橋
そういうものはありません。ただ、私らのときは人数が少なかったのですっと入れましたけど、今はちょっとのことではなかなか参加できないです。
近藤
ここ10年くらいは担ぎたいという人が非常に多いです。ただ、指示をきっちり通して担いでいくことを考えると、うちの神輿でしたら全体で850人が限度なんです。だから、誰かが抜けないと新規の人は入れないという状態になっています。昔みたいに「おい、ちょっと担ぎにこいや」「ほな、いきまひょか」というふうにはなっていないですね。
編集委員
清水さんのところも、入会をお待ちの方がいらっしゃいますか。
清水直生
後輩がだいぶ増えてきているのですが、入会を待っている20代の子らが何人かいます。ただ、20代はいかんせん人間として未成熟なところがあるので、会の空気や考え方、神輿に対する姿勢といったものを徐々に理解していってもらう。それがわかってない人はどうしても後回しになりますね。
編集委員
どういう人に来てほしいですか。
清水直生
神輿に熱い気持ちをぶつけられる人ですね。神輿担ぐのは痛いし、肩から血が流れることもあります。やってみて、あかん人は何か理由をつけてすぐ辞めますね。「我が我が」という自分本位の人も駄目です。みんなでやっていることなので、ルールをしっかり守って奉仕できる精神がある方でないと。ただ、最初若い人は格好ええとか目立ちたいとかなんですよ。それがだんだんやっているうちに変わってくるんですよね。
編集委員
清水さんご自身はお父様の存在があるから、早い段階から責任感をお持ちでしたか。
清水直生
いや、若い頃はなかったですね。それこそ「我が我が」という感じで、やんちゃでした(笑)。入った頃は周りが怖い人ばっかりで、こんなところで担ぐのはちょっと堪忍してという感じでしたし、20代前半はまだ本腰が入っていなかったです。それがだんだんやっていくうちにいろんなことがわかってくるし、連帯感とか責任感とかが出てきました。
(ここからしばらくの間、三若みこし連合会の清水武夫会長にも会の集まりを中座して参加していただいた)
編集委員
清水さんは、三若みこし連合会の会長として、どのようなことに一番気を配っておられますか。
清水武夫
まずは怪我がないこと、それから争いごとがないことが一番ですね。みんなが笑って終われるようにということを言うてます。素戔嗚尊(スサノオノミコト)をお乗せした神輿を担がしてもろてるという気持ちを忘れたらあかん。俺が担いどんのや、という人は駄目です。毎年6月からは日曜に練習会もしています。「元気やったか」「今年もやるぞ」と言いながら顔合わせをして、そこがスタートですよ。金持ちはいないですけど、みんなハートがいいんです。
編集委員
当日は、八坂神社の石段下に、三基の神輿が勢揃いして出発式が執り行われます。神輿を高々と掲げる『差し上げ』のときは、担ぎ手を別の方が後ろで支えていらっしゃいますね。
倉橋
手を添えてる人間もやっぱり参加したいからね。担ぎ手は800人以上いますが、一度に担いでいるのは80人くらいです。そうしたら、あとの720人は何してんねやということになります。一体になってやっているという気持ちを伝えるということですね。
編集委員
神幸祭、還幸祭ともに、4時間あるいは5時間を超える長丁場になります。相当な体力が必要になるのではないですか。
倉橋
神輿は2トンあります。1人1人が歩けるのは数十歩、よく行って10mくらいです。それでどんどん人が入れ替わっていく。そうしないことには、そら身体が持たんと思います。
清水武夫
今は後ろ蹴りをやってますけど、昔は前蹴りもやっとったんですよ。
[ 清水直生さんに前蹴り、後ろ蹴りを実演していただく。前蹴りでは片足を後ろに跳ね上げ、その足を前に蹴り出す。後ろ蹴りでは片足を後ろに跳ね上げ、それを軸足の斜め後方に振り下ろす。いずれも、浮き上がった軸足が着地するときにバシッ、バシッと小気味よい音が鳴る ]
清水武夫
ええ格好でしょ。前蹴りはやっぱり人がいっぱい見てるときにやりよるんですよ。ただ、前で踊りよったらね、胴に入っとる人がしんどい。胴というのは、神輿の真下とか横のへんです。2トンのものがゴリゴリきますから、痛いんです。
薬師
(後ろ蹴りを捉えた写真を見ながら)だけど、全員の呼吸が相当合わないと、こんなに神輿が浮き上がるくらい跳ねられないでしょうね。
編集委員
薬師さんにうかがいます。作品を拝見して感じるのですが、担ぎ手のごく近くというよりも、むしろ担ぎ手の中に入り込んで撮影されているのではないかと思います。ここまで入り込むのは、大変なことではないですか。
薬師
蹴飛ばされないようにとか、踏みつけられないようにとか、いろいろ気を遣うので、入っていくのは難しいです。神輿渡御を撮影するようになって去年で11年目でしたが、最初はどういう担ぎ方をされるのかもわからないし、なかなか近寄れなかった。中御座は4年ほど前から撮影しているのですが、本当に1年に1歩ずつという感じですね。近寄っていくと面白くなって、どんどん引き込まれていくんです。
倉橋
こんだけ中に入ってきてもろてるとは思わなかったです。こんな写真はないもんね。ほんま素晴らしいです。色がきれいやし、躍動感がある。神輿を知ってはる人が撮るとこんなふうになるんやなあと思います。
清水直生
祇園祭というと鉾と思うてる人が多いですけど、神輿のことをもっと知ってほしいですね。今年は僕が先導して奥の奥までご案内しますよ。神輿の真下に4,5人いるんです。神輿の下ということで『ねこした』と言うんですけど、ここが結構神輿をコントロールできるんですよ。ふらふらっとしたときもピタッと止められる。スピードを遅くもできるし、速くもできる。
近藤
勢いよく神輿を動かしていると、神輿の下は空気が薄くなって酸欠状態になります。だけど、周りにいっぱい人がいるので、ねこしたの人は交代できないんです。だから、ある程度進んだら、中の人が休めるように神輿を止めるんです。
編集委員
今回、清水直生さんを捉えた作品がいくつかありますね。
薬師
やっぱり目立つんです。見てて、ぱっと目に留まる。いい担ぎ方をしていないとそうはならないです。目線も来ています。スポーツもそうですが、やっぱり目線が来ていないと写真としては駄目なんです。
清水直生
足下ばかりを見て、頭を下げて担ぐ人が多いんですけど、目線は落とさずやらなあかんです。そうしないと、神輿が下がってしまうんです。
編集委員
神輿は担いでいるうちに、どんどん集中力が高まってくるのですか。
倉橋
いや、最初から最後までずっと一緒ですね。
清水直生
一緒のことをみんなでしているので、なんて言うんでしょうか、集団覚醒みたいな感じになって、気持ちよくなってくるんですよね。
編集委員
最後は八坂神社の拝殿に神輿が戻って、ずっと担ぎ回るとか。
清水直生
そうそう。最後はクライマックスですから。みんな思いっきり担ぎたいし、名残惜しいけど、時間もあるしというね。
倉橋
ほんで、「よしっ、もう終わり」と会長が言わはったときに、みんなボロボロと泣きますからね。やっぱり熱いね。ほんと、涙してるもん多いね。
清水直生
もう汗なんか涙なんかわからないですよね。「みんな、ありがとう」と言うて、何人と握手したかわからないくらい握手しますよね。やりきったという気持ちと、終わってしまったなあという2つの気持ちが急に来ますわ。(終わった瞬間を捉えた写真を見ながら)空を見上げて、「ありがとうございました」って言いますね。このへんに会長も居はりますしね。
近藤
このときは役員かて、感謝、感謝ですね。ここまできっちり担いでくれはって、おおきに、おおきに、ということでね。
薬師
今年もまたお邪魔するつもりでいます。どうぞよろしくお願いします。
文:岡野 幸治
Copyright © Hiroyuki Yakushi
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