OM-Dシステムの機動力を生かして、写真家・中野耕志が世界を旅しながら野鳥撮影を楽しむ本企画「OM-Dと旅する世界の野鳥」。第一回は、カメラグランプリ2019で「あなたが選ぶベストカメラ賞」を見事に受賞したE-M1Xを用いて、東南アジア、マレーシアのランカウイ島で撮影した野鳥をお届けする。
OM-Dとの探鳥旅行に出る前に、まずは野鳥撮影に必要な機材について確認しよう。野鳥は被写体としては小さい上に警戒心が強く接近しづらいため、撮影には超望遠レンズが欠かせない。野鳥撮影の標準レンズはフルサイズフォーマットで600mmとも800mmともいわれており、撮影システムの大型化は避けられない宿命だ。しかしながらカメラやレンズの性能が向上している昨今、すべての撮影ジャンルでフルサイズである必要はないと僕は考える。
フィールドでのフットワークを求められる野鳥撮影ではレンズの焦点距離はそこそこに、カメラのイメージセンサーを小さくすることで画角を狭めて、望遠効果を得ることで画質と機動性のバランスの取れたシステムを組むのが賢いといえるだろう。オリンパスOM-Dはマイクロフォーサーズ規格のイメージセンサーを採用しているので、得られる望遠効果がマスターレンズの2倍相当、つまり300mm F4が600mm F4相当の超望遠レンズとして使えてしまうのだ。
OM-Dのイメージセンサーは小さくてもレンズの描写力や手ぶれ補正能力が高いので、総合的にはフルサイズフォーマットに比べてさほど不利になることはない。軽量コンパクトかつ高画質。OM-Dは機動力を求められるネイチャーフォトに最適なシステムなのである。
さて今回訪れるランカウイ島はマレー半島の西のアンダマン海に浮かぶ島で、マレーシアの首都クアラルンプールから飛行機で約1時間程度。現地の言葉でランカウイの「ラン」は鷲、「カウイ」は大理石を意味するといい、鷲はランカウイ島の象徴ともなっている。ここでいう”鷲”は和名シロガシラトビ(英名:Brahminy Kite)のことで、頭が白く体と翼が赤茶色の美しい鳥である。ランカウイ島の平野部は集落や水田、河口にはマングローブ林、そして急峻な山岳地帯には原生林といった多様な環境があり、そこにはさまざまな野鳥が暮らしている。多様な環境があるということは、多様な撮影スタイルがあるということで、撮影機材にはそれに応じた対応力が求められる。
僕はランカウイ島へは何度も訪れているが、行くたびに撮影環境や野鳥の出具合が変わっているので、まずは島の主要探鳥スポットを巡り野鳥の生息状況を把握する。この最初のロケハン精度が撮影結果につながるので、はじめの段階でできるだけ濃密な観察をするよう心がけている。どんな環境にどんな鳥がいるのかはもちろん、光の周り具合などをざっくりと把握するのは基本中の基本。滞在時間が短いことに加えて日中はあまりに高温なのとトップライトになるため、撮影に適した時間は毎日の朝と夕方の数時間ずつに限られてしまうからである。
- E-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO
- 絞り値:F4.0
- シャッター速度:1/1500
- ISO感度:400
- WB太陽光
ランカウイの象徴であるシロガシラトビ。海岸やマングローブ林でよく見かけ、魚やカニなどの屍肉を食べるスカベンジャー:海の掃除屋さんだ。シロガシラトビの飛翔は素速く、動きに合わせてカメラを振るが、E-M1Xと300mmF4.0PROの組み合わせは小型軽量なので手持ちでも振り遅れることはないのがいい。またE-M1XのC-AF速度と精度が格段に進化しており、ランカウイの象徴を克明に記録してくれた。
- E-M1X + M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + MC-14
- 絞り値:F5.6
- シャッター速度:1/750
- ISO感度:400
- WB太陽光
こちらはシロガシラトビより大型の海ワシであるシロハラウミワシ。東南アジアからオーストラリアにかけて分布し、おもに魚類を捕食する。マングローブの林縁にとまる個体を揺れるボート上から撮影したが、手ぶれ補正効果の高いシステムのおかげで楽に撮影できた。
普段の野鳥撮影では300mm F4.0 PROに1.4倍テレコンバーターのMC-14の組み合わせが標準装備だが、今回の旅では新製品の2倍テレコンバーター、MC-20も使用した。300mm F4.0 PROにMC-20を装着すると600mm F8.0となり、フルサイズ換算では1200mm相当と、遠くの野鳥をより大きく写せるようになった。もちろんAF撮影はできるし手ぶれ補正も効くので手持ち撮影も可能だ。