Photo Recipe(フォトレシピ)
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人生にもっと写真を ~第四回/挑戦するということ~
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撮影・解説 : 写真家 萩原 史郎
2023年2月公開
「人生にもっと写真を」の第四回は「挑戦するということ」についてお話をいたします。
第一回はテーマを持つことの重要性
第二回は撮影した写真の選び方
第三回では写真をどのように仕上げるか
ということについてお伝えしています。
今回が連載「人生にもっと写真を」の最終回にあたりますが、本稿の理解を深める意味で、そしてこの記事の全体像をつかむためにも、過去三回分の記事に目を通した上で、お読みいただくことをオススメいたします。
まず「挑戦する」とは何を意味しているのか、それを簡単にお話ししましょう。これは、「写真を撮る」だけの楽しみから、「写真を利用する」ことへと一歩進め、さらにその利用範囲を様々な方向へ広げていくことを指します。写真を利用するとは何か、利用範囲を広げるとは何か、少しずつ解き明かしていきましょう。
さて、この記事をお読みいただいている方は、すでに「写真を撮る」ことは人生の中において楽しみの1つになっていると思います。風景写真を例にとりましょう。自然の中へ分け入り花を愛で、森の匂いに触れ水の音に耳を傾ける。そんな現場でようやく撮れた一枚、自分だけが見つけた風景には、自分自身が感動し癒されるに違いありません。そうして撮った写真から選りすぐった一枚を自分なりに仕上げ、パソコンのモニターに表示したときの"幸せ"はかえがたいものであることは想像に難くありません。
とはいえ、そこまでなら自己満足の世界です。もちろん、そこをゴールにして楽しむ方法もありますが、そうして出来あがった写真を、自分が一歩踏み出すことで、もう一段も二段も楽しみを増やせたらなお幸せなのではないかと思うのです。
概念としては、踏み出す先は3つ。
1つ目はパーソナルスペースとしての個人の範囲での楽しみ方をより強めるもの。
2つ目はソーシャルスペースとしての社会距離の中への発信。リアルで人と人が関われる距離感に対する発信と言ったほうがわかりやすいでしょうか。
3つ目はパブリックスペースとしての不特定の公衆に対する挑戦。インターネットを使った世界に向けての発信です。
これら3つは「自己を中心に少しずつ世界が広がっていく」というイメージです。
パーソナルスペースへの挑戦
それでは1つ目の自己を中心としたパーソナルスペースへの挑戦についてお話をします。わかりやすく言えば、自分の部屋や家の中で写真を活用するということです。現在ではWebを使えば、プリントはもとより様々なグッズを作ることができるので、やろうと思えば今この瞬間から始めることができます。
ところが写真は撮影しても、なかなかプリントをするまでに至らないという例は少なくありません。写真の完成形はプリントにあると言っても過言ではありません。とくにデジタル写真の時代になったいま、実体の見えないデジタルデータというものはあやふやな存在と言えるのかもしれず、そうだとすれば見えるカタチにすることは大事な行程なのです。
プリントを作って自室の壁に貼れば、いつもその日の感動が蘇ります。12枚綴りの卓上カレンダーを作ってダイニングに置いておけば、家族の話題にもなるでしょう。自分がいつも使うカップや、家族が使うトートバッグにお気に入りの写真をプリントするということも今では簡単な作業です。
自分だけ、あるいは家族の目に触れるだけなら、それほど躊躇することはありませんよね。せっかく撮った写真が目に見えて活用されるための第一歩として、パーソナルスペースに飾ってみるという挑戦をぜひ試してほしいと思います。
この一歩があなたを変えることになるかもしれません。
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たんにプリントをするだけではなく、壁掛け用に台座付の加工を施したプリントがあります。プリントした用紙をピンで壁に貼るよりもはるかにインテリアとしての体裁が高まり、高い満足感があります。
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玄関にモノを置けるスペースがあるなら、なにか飾ってありませんか。そこにあなたの写真で作った小さなカレンダーを置いてみましょう。出かけるときも、帰ってきたときも、心があたたまるはずです。
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写真はあなたが普段使うためのカップやトートバッグなどにも印刷できる時代です。自分への贈り物のつもりで、気に入った写真で、こういったグッズを作ってみませんか。思いのほか楽しいものですよ。
ソーシャルスペースへの挑戦
人と人がリアルに会える距離はどのくらいでしょうか。交通網がどれだけ整備されているかによっても違うと思いますが、気軽に行き来できるのは、例えば関東圏、関西圏といった括りの範囲かもしれませんね。2つ目の挑戦は、出合える範囲にいるリアルな相手を想定した写真の発信です。
2つ目のソーシャルスペースへの挑戦としては、具体的に言えば写真展を思い浮かべるとよいでしょう。現実に会える相手に対して、自分の写真を披露することは、考えようによってはかなり勇気がいる行為です。実際、自分の写真を活用するという発想の中で、もっともハードルが高い挑戦が写真展ではないかと思っています。
「写真を用意する」、「会場を手配する」、「案内を出す」、「展示構成を考える」、「プリントを作る」、「作品の飾りつけを行う」、「ホストとして在廊する」...。少し挙げただけでも手間と時間がかかることがわかると思いますし、出費もあります。自分の写真など、見に来てくれるのだろうかという心配もあるに違いありません。
そういうものを乗り越えたうえで実現できた写真展は生涯に残る経験と記憶になるに違いありません。
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展示風景
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会場風景
これは2020年にOM SYSTEM GALLERYで行った「志賀高原 -Whisper of the Scenery-」という写真展の模様です。集中して撮影した2年ほどの成果を見ていただく内容でしたが、ここで一度、自分自身を振り返ることによって、何を表現できたのか、何が足りていないのか、さらに先へ行くにはどうしたらいいのか、など知ることができ、大変有意義なものになっています。
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2022年12月に行った合同写真展のDMハガキです。志賀高原にある石の湯ロッジで行っている写真教室と撮影会プラスに参加された方々と一緒に行ったものですが、こういった合同展に出品するところから始めるとよいでしょう。自分が所属している写真クラブや、仲間との合同展は、最初のきっかけとして最適です。
パブリックスペースへの挑戦
3つ目はパブリックスペースへの挑戦です。世界に存在する不特定の相手に対する発信ですが、実はこれは多くの方々がすでにトライしているのではないでしょうか。FacebookやInstagram、TwitterといったSNSがそれです。
実際に発信している相手は不特定なのですが、パソコンやスマートフォンが扱えるなら、今すぐにでも挑戦できます。ここでは実際の使い方の説明はしませんが、案外気軽に始めることができるものとして、今回ご紹介した3つの中で、まだどれも挑戦したことがないという場合は、ここからスタートしてもよいのではないかと思います。
実際、私の友人や知り合いはプロアマ問わず、FacebookやInstagramのユーザーが多いのが実情です。気に入った写真のお披露目はもとより、日々の日記のような使い方もあります。Instagramは写真の閲覧がしやすいことから、ご自身のポートフォリオのような使い方をしている方も見られます。自由な時間を使い、自由な発想で誰にも気兼ねなく運営できるメリットが、こうしたSNSにはありますので、ぜひ挑戦してみてください。この挑戦が、あなたの写真ライフを豊かなものにするきっかけになるかもしれません。
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私自身、もっとも活用しているSNS。告知をしたり、最新の写真を掲載するなどしていますが、写真の発表の場として利用するユーザーも多いという印象があります。「友達」申請をして、同好の士を増やし、切磋琢磨する使い方もあります。
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写真を閲覧しやすいレイアウトになっているので、ユーザー側としてはお気に入りの写真をどんどんアップしたくなります。気に入った写真を自身で眺めることも楽しめければ、誰かがこれを見てくれていると思うだけでもワクワクします。
自分が撮った写真の最大の理解者は自分自身です。
その写真をプリントにして身の回りに飾ったり、グッズにして使ってみませんか。その写真を見るたびに、あの日の記憶が呼び起こされ、次の撮影のモチベーションにつながるでしょうし、部屋も家も華やかなものになるに違いありません。
その写真を友人や知り合いに見てもらうための写真展に挑戦しませんか。直接もらえる感想は新たな気づきになるかもしれませんし、交流がより深まることにも繋がるでしょう。
その写真を世界へ発信してみませんか。日本の誰かはわかりません。どこの国の誰かはわかりませんが、あなたの写真を見てホッとしたり、感動したり、話題にしれくれるかもしれません。どこかで写真が役に立っているかもしれないと考えると、写真をやっていてよかったと私は思うのです。
大事なのは、挑戦してみることです。
おわりに
「人生にもっと写真を」は本稿をもって終了いたします。写真には人それぞれに生かし方、付き合い方があります。4回にわたってお送りした本稿が、あなたなりの生かし方、付き合い方を見つけるための一助になるとしたら、これほど嬉しいことはありません。
大きな一歩ではなくても、小さな一歩から始めたことが、いずれあなたの人生を大きく左右するほどの歩みにならないとも限りません。写真はハードディスクにしまっておくだけなら宝の持ち腐れですが、それを生かすための一歩を踏み出し、次の世界へ進んでください。
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写真家 萩原 史郎(はぎはら しろう)
1959年山梨県甲府市生まれ。写真誌「風景写真」の創刊時メンバー。現在は写真誌寄稿、コンテスト審査員、写真教室講師、講演会講師、写真クラブ例会指導など幅広く行う。著書多数。最新刊は「風景写真まるわかり教室」(玄光社)。写真集「色 X 旬」(風景写真出版)。写真展は2015年「色 X 情」、2019年「色 X 旬」、2020年「志賀高原 -Whisper of the Scenery-」、2022年「色彩深度」開催。
日本風景写真家協会副会長
日本風景写真協会指導会員
日本学生写真部連盟指導会員
石の湯ロッジ萩原史郎写真教室講師など。