Photo Recipe(フォトレシピ)
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野鳥撮影をはじめよう
~その2 秋の野鳥の出会い方~
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撮影・解説 : 写真家 菅原 貴徳
Official Home Page:Field Photo Gallery
2022年9月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
秋は渡りの季節
暑い夏が過ぎ、外を歩くのも気持ちが良い秋。鳥たちにとって、秋は渡りの季節です。渡りというのは、春と秋に起こる鳥たちの移動のことで、秋は北から南へ、あるいは高地から低地へ、という方向に移動します。夏の間に涼しいところで子育てを終えた鳥が、温暖な場所で冬越しするために移動するのです。
平地に暮らすバードウォッチャーにとっては、夏の間は山へ遠出しなければ会えなかった夏鳥たちが、日本を去る前に身近な場所を通過していくという、とてもワクワクする季節です。都市公園でも、コツさえ掴めば、キビタキやサンコウチョウなどの夏鳥を発見することができます。もちろん、環境が変われば鳥も変わるので、例えば干潟ではシギ類やチドリ類が見られますし、河川敷の草原ではノビタキが定番です。
この時期、SNS等では種々の鳥たちの情報が流れてくることでしょう。しかし、似た環境があれば、鳥たちは利用します。インターネットの情報だけに縛られず、身近な場所にも通うことで、季節の変化を感じることもお勧めです。
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ノビタキ
秋、平地の草原で定番のノビタキ。高い草の上に止まり、虫を探す習性があります。広めの草原をみていると、草の天辺付近をひらひら飛ぶ姿を発見できます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当※
Aモード F5.6 1/500秒 ISO 250 -0.7EV
シジュウカラの群れに気をつけよう
一年を通して大きな移動をせず、同じ場所に留まる鳥を「留鳥」と言いますが、秋の平地で夏鳥を探す時には、その代表格であるシジュウカラを目印にします。渡りの途中、短期間だけその場所に滞在する渡り鳥たちは、その土地のことをよく知る留鳥と行動を共にすることがよくあるからです。秋にシジュウカラの群れを見かけたら、しばらく観察してみると、同じく留鳥であるヤマガラやコゲラに混じって、センダイムシクイやキビタキ、サンコウチョウなどの夏鳥が姿を現すことでしょう。このような、複数種が混ざる群れを「混群」と呼びます。群れのメンバーは日々、変化しますから、継続的に観察すると、季節の変化や発見する楽しさを感じられることでしょう。
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シジュウカラ
シジュウカラを頼りにして、秋の渡り鳥を探してみましょう。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO + MC-14
840mm相当※
Aモード F5.6 1/400秒 ISO 250 -0.3EV
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サンコウチョウ
シジュウカラの群れを見ていると、一際目立つヒラヒラとした飛び方で発見できました。秋の渡りの時期には、都市公園でもよく見かける鳥です。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
800mm相当※
Aモード F4.5 1/200秒 ISO 640 +1.0EV
待ち伏せてみよう
鳥たちは、その場所に来る理由があれば、一度そこを去っても繰り返し戻ってきます。例えば、よい見張り場である、好物の木の実がなっている、水場になっているなどが該当します。そのような場所を見つけられたら、じっくりと待ち伏せてみましょう。携帯椅子も便利です。ただし、近くまで様子を見に来るけれども、引き返してしまうようであれば、観察者の存在が、鳥の「自然な行動」を妨げてしまっている可能性があります。もう少し離れたところで待つようにするか、物陰に身を隠すなどの対応をしてみて、それでも効果がなければ撮影はあきらめましょう。
予想通りに鳥が戻ってきても、焦りは禁物です。実を食べにきたのであれば、実を食べ始めるまでは警戒心が強いので、レンズを向ける動作は避けます。水場であれば、水飲みや水浴びを始めるまで待ちます。そうすることで、鳥も目的を果たすことができますし、結果的に撮影のチャンスも失わずに済むのです。
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アオバト
森の中、キハダの実がたくさん生っていたので、近くに腰掛けて持っていると、このアオバトのほか、シロハラ、マミチャジナイなどが入れ替わり立ち替わりやってきました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当※
Aモード F5.6 1/400秒 ISO 400 +0.3EV
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スズメ
最初の1羽が水浴びをはじめても、しばらくレンズを向けるのを我慢したことで、群れの他のスズメたちが安心して降りてきて、集団で水浴びするところを撮影できました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
632mm相当※
Aモード F5.6 1/800秒 ISO 320 -0.7EV
晴れた日はタカ類を探そう
晴れた日には、タカの仲間が空を渡っていく様子を見ることができます。西へ伸びた岬や、上昇気流のおきやすい山間などのポイントでは通過する数も多く期待できますが、実は身近なところでも、ふと見上げた空に渡るタカを見つけることも少なくありません。
タカ類を見つける時には、ほかの鳥の反応を気にすると良いでしょう。多くの鳥たちにとって、タカ類は天敵であり、怖い存在ですから、何かしらの反応を見せます。もっともわかりやすいのは、カラス類の反応で、大きな声で鳴きながら、テリトリーから追い出そうと攻撃を仕掛けにいきます。シジュウカラ などの小鳥類は、鋭く短い声を出して、群れの仲間に危険を知らせます。上述したような「混群」でも、種類の垣根を越えて警報を共有します。
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ハイタカ
秋晴れの日、気流に乗って渡る姿が見られます。渡りのルートになっている場所では、1日に数百を超えるタカたちを見送ることもあります。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当※
Mモード F5.6 1/800秒 ISO 500 ±0.0EV
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ハイタカを追いかけるハシブトガラス
タカ類を発見するには、ほかの鳥の反応を参考にするのも有効です。特にカラス類は、タカ類が出現するとよく騒ぐので、そのような時に空を見渡すくせをつけると良いでしょう。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
800mm相当※
Mモード F4.5 1/2000秒 ISO 400 ±0.0EV
渡りの安全を祈ろう
なかなか実感が湧きませんが、例えば身近なツバメも、あの小さな体で海を越えていきます。シギ類に至っては、日本を飛び立ったらそのまま一気にオセアニアまで海上を渡っていくものもいます。秋の渡りで、日本に立ち寄るのは、そんな壮大な旅の途中、体力の回復と、旅の準備をするためなのです。
ですから、撮影の際には、休息や採餌の邪魔をなるべくしないよう、無闇に追い回さないようにしたいものです。そうすれば、渡りがうまくいき、また来年、出会えるかもしれません。いつまでも野鳥撮影が楽しめるよう、思いやりを持って撮影させてもらいましょう。
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オオソリハシシギ
シギ類の渡りは、8月初旬にはすでに始まっています。オオソリハシシギは、時に1万キロ以上の長距離を休まずに一気に渡ることが知られています。秋の日本へは、主にその年生まれの幼鳥が栄養補給のために立ち寄ります。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
890mm相当※
Mモード F5.6 1/1600秒 ISO 320 ±0.0EV
※35mm判換算焦点距離
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菅原 貴徳(すがわら たかのり)
1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持ち、11歳で野鳥観察をはじめる。東京海洋大学、ノルウェー留学で海洋学を、名古屋大学大学院で海鳥の生態を学んだ後、写真家に。様々な景色に調和した鳥たちの暮らしを追って、国内外を旅する。近著に『散歩道の図鑑 あした出会える野鳥100』(山と渓谷社、写真担当)、『図解でわかる野鳥撮影入門』(玄光社)などがある。日本自然科学写真協会(SSP)会員。
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記事内で使用した
レンズをご紹介
野鳥撮影のマナー
野鳥撮影時の注意点
- 撮影のために餌付けなどの環境の改変をしたり、録音した野鳥の声を流して誘引することはやめましょう。
野鳥たちの自然な行動や生活を妨げてしまいます。 - 営巣中の野鳥たちはとても敏感です。
大勢で巣を囲むことや、巣やひな、巣立ち直後の幼鳥などの写真の撮影・公開は控えましょう。 - 撮影地周辺の住民や、他の公園利用者への気遣いも忘れないようにしましょう。
- 撮影地の情報の取り扱いは慎重に行いましょう。特に巣やねぐらのように、逃げ場がない状況では注意が必要です。
(画像に付加されたGPS情報は、OM Workspace で現像時に削除することが可能です。) - 野鳥たちは自然の中で暮らす生き物です。彼らの生活を邪魔しないよう、ゆとりをもって撮影しましょう。
また、双眼鏡などを使ってよく観察することが、よりよい撮影に繋がります。 - 野鳥撮影でフラッシュを使用すると、野鳥たちを驚かせてしまいます。
暗い場所では、フラッシュ使用を避けて、ISO感度を上げて撮影しましょう。