風景写真の楽しみ方は十人十色、そして千差万別です。いろいろなスタイルや方法論があって良いのです。昨今では、旅先で気になった風景にレンズを向けたり、散歩中に出会う日常の瞬間を記録する。そうして撮った写真をSNSなどにアップして楽しむ…、そんなライトな感覚で写真に親しむスタイルがあります。
その一方で、もう一歩踏み出して写真との距離を縮め、「作品作り」に挑戦するスタイルがあります。例えば、週末は山野に出かけて朝焼けから始まり、夕焼けまでを狙う。あるいは近所の公園を訪ね、四季折々の花を撮影する。そうして蓄えた写真をセレクトし、レタッチをして作品に仕上げ、写真コンテストに挑戦する。あるいはフォトブックを制作する、写真展に挑戦する…。
今回から4回にわたってお話しするのは、写真を楽しむ様々なスタイルがある中で、よりアクティブな姿勢で写真に取り組むことによって、人生をもっと豊かにしていくためのご提案です。
では、写真コンテストやフォトブック、写真展を目標にすると、自分自身にどんな変化がもたらされると思いますか?おのずと写真や写真にまつわることを考える機会が増えます。当然のことですが撮影頻度は増え、その結果自然に親しむことになり、自然への知識が深まります。仮に写真クラブなどに入れば写友ができ、同好の士との交流が増えます。目的に向かって活動し、僥倖(ぎょうこう)にも結果に結びつけば、強い達成感が得られます。たとえそれが結果に結びつかなくても、様々な経験はあなたの人生にとって大きな糧となります。
私の周りでは、一歩写真に踏み出すことで、こうした経験を重ね、豊かな人生を送っておられる方がたくさんいらっしゃいます。そんな事実を目の当たりにしていることから、今回の提案をしてみたい、そのように思うようになったわけです。
それでは、一歩先へ進むための手がかりをお話しましょう。その1つ目は「テーマの決定」です。すでに先へ進もうとしている方は、テーマを決めるという話は耳にしているでしょう。この記事を読み、これから始めてみようと思っている方は、初めて聞く話かもしれません。
「テーマ」とは、目標を達成するための土台となる方向づけのようなもの。言葉にして説明すると小難しくなりますが、「作者が伝えたいこと」と考えてもよいでしょうし、例えばフォトブックにおいては「全編を通して貫かれている主張」と言っても良いかもしれません。
次に具体的に説明しましょう。実は風景写真におけるテーマはそれほど難しいものではありません。簡単に取り組めるものとしては、以下の2つを上げることができます。
特定の被写体を追う
もっともイメージしやすいテーマだと思います。一歩外へ足を踏み出し、興味を持った対象をテーマとする、そんな考え方でよいと思います。
花・花マクロ・桜・渓流・滝・木・森・ブナ林・岩礁・雲・朝焼け・雲海…
テーマ:桜
家から3分ほどの公園で、毎年のように撮り続けているクローズアップ系の桜写真。白バックに桜の枝で線画をひくような日本画のイメージです。通いやすい場所を選ぶことで、テーマを追いかけやすくなります。
特定の地域を撮り続ける
自分がよく出かける場所や好きな場所、こんなところで写真を撮ってみたい、そういった特定の地域をテーマとする考え方です。
カヤの平・志賀高原・奥多摩・吉野山・大台ケ原・上高地・富士山・富良野美瑛…
テーマ:志賀高原
4年ほど、毎月のように訪れている志賀高原。何度も通うことで、次第に見える内容が深まり、新しい発見もあります。特定のエリアをテーマとすることは風景写真においては、基本的な考え方です。四季の写真を揃えることを意識して取り組んでください。
イメージ
少々高度なテーマとしては、作者が持つ内的なイメージを表現していこうとするものがあります。発想力や構想力が問われるともいえます。
色・風・水の揺らぎ・原始の世界・生と死…
テーマ:ゆらぎ
アメンボが作る波紋。雨粒が生む波紋。風が作った波紋。このような水面に発生する波紋を心象的に捉え、テーマとする方法もあります。
言葉
風景の美しさや本質を表す言葉がありますが、それを足がかりにしてまとめる、というテーマの持ち方もあります。
雪月花・花鳥風月・山紫水明・深山幽谷・晴好雨奇…
テーマ:雪月花
白居易の詩「寄殷協律」の一句「雪月花時最憶君」からの言葉。雪月花の時とは、四季折々を指す語と言われますが、手がかりとして雪・月・花を捉えることから始めると考えても良いと思います。
※35mm判換算焦点距離