Photo Recipe(フォトレシピ)

人生にもっと写真を ~第一回/テーマを持とう~

撮影・解説 : 写真家 萩原 史郎
2022年8月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
風景写真の楽しみ方は十人十色、そして千差万別です。いろいろなスタイルや方法論があって良いのです。昨今では、旅先で気になった風景にレンズを向けたり、散歩中に出会う日常の瞬間を記録する。そうして撮った写真をSNSなどにアップして楽しむ…、そんなライトな感覚で写真に親しむスタイルがあります。
その一方で、もう一歩踏み出して写真との距離を縮め、「作品作り」に挑戦するスタイルがあります。例えば、週末は山野に出かけて朝焼けから始まり、夕焼けまでを狙う。あるいは近所の公園を訪ね、四季折々の花を撮影する。そうして蓄えた写真をセレクトし、レタッチをして作品に仕上げ、写真コンテストに挑戦する。あるいはフォトブックを制作する、写真展に挑戦する…。
今回から4回にわたってお話しするのは、写真を楽しむ様々なスタイルがある中で、よりアクティブな姿勢で写真に取り組むことによって、人生をもっと豊かにしていくためのご提案です。
では、写真コンテストやフォトブック、写真展を目標にすると、自分自身にどんな変化がもたらされると思いますか?おのずと写真や写真にまつわることを考える機会が増えます。当然のことですが撮影頻度は増え、その結果自然に親しむことになり、自然への知識が深まります。仮に写真クラブなどに入れば写友ができ、同好の士との交流が増えます。目的に向かって活動し、僥倖(ぎょうこう)にも結果に結びつけば、強い達成感が得られます。たとえそれが結果に結びつかなくても、様々な経験はあなたの人生にとって大きな糧となります。
私の周りでは、一歩写真に踏み出すことで、こうした経験を重ね、豊かな人生を送っておられる方がたくさんいらっしゃいます。そんな事実を目の当たりにしていることから、今回の提案をしてみたい、そのように思うようになったわけです。
それでは、一歩先へ進むための手がかりをお話しましょう。その1つ目は「テーマの決定」です。すでに先へ進もうとしている方は、テーマを決めるという話は耳にしているでしょう。この記事を読み、これから始めてみようと思っている方は、初めて聞く話かもしれません。
「テーマ」とは、目標を達成するための土台となる方向づけのようなもの。言葉にして説明すると小難しくなりますが、「作者が伝えたいこと」と考えてもよいでしょうし、例えばフォトブックにおいては「全編を通して貫かれている主張」と言っても良いかもしれません。
次に具体的に説明しましょう。実は風景写真におけるテーマはそれほど難しいものではありません。簡単に取り組めるものとしては、以下の2つを上げることができます。
特定の被写体を追う
もっともイメージしやすいテーマだと思います。一歩外へ足を踏み出し、興味を持った対象をテーマとする、そんな考え方でよいと思います。
花・花マクロ・桜・渓流・滝・木・森・ブナ林・岩礁・雲・朝焼け・雲海…
テーマ:桜
家から3分ほどの公園で、毎年のように撮り続けているクローズアップ系の桜写真。白バックに桜の枝で線画をひくような日本画のイメージです。通いやすい場所を選ぶことで、テーマを追いかけやすくなります。

2本の枝を対比して見せる構図。左手前の枝と、右奥の枝が呼応しているような雰囲気を醸すようにアングルを選んでいます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
212mm相当※
Aモード F4.0 1/250秒 ISO 400 +3.0EV

1本の太い枝から幾筋もの枝が垂れ下がり、美しいリズムを奏でているように見えるアングルを探しています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
92mm相当※
Aモード F11 1/80秒 ISO 1600 +3.0EV

太い幹に寄り添う枝と、すっと垂れ下がる枝を対照的に見せています。シンプルな構成であることを意識して被写体を選んでいます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
220mm相当※
Aモード F5.6 1/160秒 ISO 1600 +2.0EV
特定の地域を撮り続ける
自分がよく出かける場所や好きな場所、こんなところで写真を撮ってみたい、そういった特定の地域をテーマとする考え方です。
カヤの平・志賀高原・奥多摩・吉野山・大台ケ原・上高地・富士山・富良野美瑛…
テーマ:志賀高原
4年ほど、毎月のように訪れている志賀高原。何度も通うことで、次第に見える内容が深まり、新しい発見もあります。特定のエリアをテーマとすることは風景写真においては、基本的な考え方です。四季の写真を揃えることを意識して取り組んでください。

坊平シラカバ園地の桜。志賀高原内に桜は少ないだけに、春を彩る写真としては貴重な1枚。画面いっぱいに桜を入れ、背景の白い白樺を添えて、優しげな雰囲気を醸すように画面を構成しています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
58mm相当※
Aモード F4.0 1/60秒 ISO 320 -0.3EV

渋池の夏。爽やかな雲が広がり、青空と絶妙なコントラストを描いた空と、緑が充満する森、空を映す池をバランスよくまとめています。夏らしさにこだわった1枚です。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
16mm相当※
Aモード F11 1/160秒 ISO 200 ±0.0EV

蓮池の紅葉。湖畔を彩るモミジを、手前と奥で対比して立体感を醸すように構成した写真です。夕方の撮影なので、青みが感じられるところは狙いの1つです。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
108mm相当※
Aモード F5.6 1/25秒 ISO 800 -0.3EV

石の湯の霧氷。氷点下10度程度に気温が下がり、美しい霧氷が出現した朝に、川の黒い流れを強いポイントにして撮影したもの。画面手前に見える木の影も意識した構図です。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
26mm相当※
Aモード F8.0 1/640秒 ISO 200 -0.3EV
イメージ
少々高度なテーマとしては、作者が持つ内的なイメージを表現していこうとするものがあります。発想力や構想力が問われるともいえます。
色・風・水の揺らぎ・原始の世界・生と死…
テーマ:ゆらぎ
アメンボが作る波紋。雨粒が生む波紋。風が作った波紋。このような水面に発生する波紋を心象的に捉え、テーマとする方法もあります。

あらかじめ決めておいた構図の中にアメンボが入り、動いた時に作る波紋を撮影したもの。追いかけながら撮影をしても撮れる被写体ですが、枝の影を利用するなら、構図は決めておいた方がベターです。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F11 1/3200秒 ISO 200 -1.7EV

雨が作る波紋を撮影していますが、よく見ると雨粒が跳ね上がった瞬間を捉えています。連写設定にして撮影すると、こういう瞬間を逃さず撮ることができます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F4.0 1/100秒 ISO 1600 ±0.0EV

風が渡ることで起きる波紋を捉えています。紫の色は前ボケのシガアヤメ。白い線は背景にある白樺。このような色を利用することで、画面が華やかになります。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
190mm相当※
Aモード F2.8 1/500秒 ISO 200 ±0.0EV
言葉
風景の美しさや本質を表す言葉がありますが、それを足がかりにしてまとめる、というテーマの持ち方もあります。
雪月花・花鳥風月・山紫水明・深山幽谷・晴好雨奇…
テーマ:雪月花
白居易の詩「寄殷協律」の一句「雪月花時最憶君」からの言葉。雪月花の時とは、四季折々を指す語と言われますが、手がかりとして雪・月・花を捉えることから始めると考えても良いと思います。

池にしんしんと降る雪。葉を落とし裸になった姿を晒した灌木をポイントに構成しています。「和」のテイストを付与しようと試みた写真です。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
40mm相当※
Aモード F5.6 1/320秒 ISO 1600 +1.0EV

月が煌々と照る状況に遭遇したので、形の良い木と重ね、1つの場面として構成しました。月だけが中天にある風景よりも、訴えかける力は強いと思います。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
68mm相当※
Aモード F8.0 1.6秒 ISO 800 -0.7EV

池畔に咲くアヤメ。一輪の花だけを捉えることによって、群落風景として見せる風景とは趣の違いを感じてもらおうと言う狙いがあります。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
220mm相当※
Aモード F8.0 1/250秒 ISO 800 +1.3EV
上のようにテーマを決めることによって得られるものは何でしょう。それは、例えばフォトブックや写真展の場合は、主義主張が明確な芯のある制作物になるということ。そして、テーマを持てば自らの制作意欲が高まり、ひいては表現力の向上につながるということ。作品1点1点の力が強くなったり、内容性が膨らむのです。なにも意識せず、場当たり的に撮っているときと、しっかりテーマを設定して取り組んでいるときとでは、結果が目に見えて違うのです。
もしもこの記事に触れて、いままでの写真との関わり方から一歩踏み込んで、その先の世界へ進んでみたいと思ったとしたら、まずはテーマを考えてみてください。場合によっては、ご自分が撮影をしてきた写真を見返すと、すでにそこにテーマがあるかもしれません。同じような被写体、同じ地域、似通ったイメージで撮っている写真があれば、それをテーマと決めてスタートしても良いと思います。。
大事なのは、始めることです。
※35mm判換算焦点距離

萩原 史郎(はぎはら しろう)
1959年山梨県甲府市生まれ。写真誌「風景写真」の創刊時メンバー。現在は写真誌寄稿、コンテスト審査員、写真教室講師、講演会講師、写真クラブ例会指導など幅広く行う。著書多数。最新刊は「風景写真まるわかり教室」(玄光社)。写真集「色 X 旬」(風景写真出版)。写真展は2015年「色 X 情」、2019年「色 X 旬」、2020年「志賀高原 -Whisper of the Scenery-」。
日本風景写真家協会副会長、日本風景写真協会指導会員、日本学生写真部連盟指導会員、石の湯ロッジ萩原史郎写真教室講師など。