Photo Recipe(フォトレシピ)
昆虫の撮り方~マクロ撮影をマスターする~
2022年3月公開
田中さん使用のカメラと
レンズをご紹介
はじめに
生きものの中でも昆虫はもっとも身近な存在のひとつ。子どもの頃から昆虫に親しんでいた人は多いと思います。昆虫を撮影する場合、より良い写真を撮るには昆虫の生態を理解することが大切です。また、小さな被写体を撮るには、独特なテクニックが必要になります。ここでは基本的な撮影方法を紹介しますので、是非、昆虫撮影を楽しんでください。
撮影場所について
私は子どもの頃から昆虫少年で、網で昆虫を捕まえて標本づくりを楽しんでいました。中学時代に写真を始めて、大学時代にフィルム現像のために入ったカメラ店のL判・2L判などのプリントサイズのサンプルが美しいカワトンボの写真で、子どもの頃を思い出してトンボの写真を撮り始めました。フィルム一眼レフと望遠ズームレンズでトライしましたが、なかなかトンボに近寄ることができず良い写真を撮ることはできませんでした。トンボ以外の昆虫も見つけたら撮るようにしていましたが、当時持っていた望遠ズームレンズの最大撮影倍率が低く、小さな昆虫をアップで撮ることはできませんでした。
社会人になってマクロレンズと単焦点望遠レンズを購入。単焦点望遠レンズはあまり寄れなかったので撮影倍率を稼ぐために2倍テレコンバーターを常用しました。本格的に昆虫を撮影できるシステムになりましたが、なかなか思うように撮ることはできませんでした。昆虫撮影の入門書を読んだり、昆虫撮影をしている知人からアドバイスをしてもらいながら、昆虫の生態と撮影方法を勉強しました。
昆虫の生態を理解すると、昆虫の生息地もわかるようになり、徐々にイメージ通りの撮影ができるようになりました。昆虫はどこでも見ることができますが、お目当ての昆虫を撮るには、昆虫の生態と生息地を知ることが大切です。最初は、蝶は花畑、トンボは水辺などの大雑把な知識でも十分出合うことはできます。簡単なもので良いので、昆虫図鑑を持っておくと良いでしょう。
撮影機材について
カメラ機材は“寄れるレンズ”が必要です。マクロレンズのほか、標準域や望遠域のレンズの最大撮影倍率を見て、“撮影倍率の高いレンズ”を選ぶことをおすすめします。撮影に慣れてくれば、フラッシュ撮影もトライしてみましょう。
撮影倍率とは、撮像センサー面に写された像の大きさと被写体の大きさの比率のことで、撮影倍率が高いほど被写体を大きく写すことができます。同じ撮影倍率であれば、撮像センサーの面積が小さいほど、より被写体を大きく写すことができます。例えば、最大撮影倍率が「等倍(1倍、1/1倍)」の場合、OM SYSTEMでは「2倍相当」(35mm判換算)で撮影できることになり、OM SYSTEMは小さな被写体を撮影するのに適したシステムと言えます。下の写真は、1cm強の大きさのカマキリの幼虫を等倍相当と2倍相当で撮影したもの。M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroの最大撮影倍率2倍相当(35mm判換算)で撮影すると、こんなに大きく撮れます。昆虫撮影のためにレンズを選ぶ場合、最大撮影倍率をチェックしましょう。
レンズ名 | 最短撮影距離 | 最大撮影倍率(35mm判換算) |
---|---|---|
M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro (35mm判換算:120mm相当) |
0.19m | 2倍相当 |
M.ZUIKO DIGITAL ED 30mm F3.5 Macro (35mm判換算:60mm相当) |
0.095m | 2.5倍相当 |
「小さな被写体を写すのはマクロレンズ」と思われているかもしれませんが、マクロレンズはかなり昆虫に近寄らなければ、昆虫を大きく写すことができません。昆虫に近寄るには経験とコツが必要です。蝶やトンボは離れたところから狙った方がより確実に撮影することができますので、望遠レンズとテレコンバーターがあると便利です。テレコンバーター対応レンズでは、望遠域をさらに拡大する別売の1.4倍テレコンバーター「M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14」、および、2倍テレコンバーター「M.ZUIKO DIGITAL 2x Teleconverter MC-20」を装着すると、同じ位置から撮影して、被写体をより大きく写すことができます。以下の表は、おすすめレンズとテレコンバーターの組み合わせの最短撮影距離と最大撮影倍率(35mm判換算)です。いずれもテレコンバーターを装着すると、超望遠レンズでありながら等倍(1倍、1/1倍)前後の撮影倍率になり、「超望遠マクロレンズ」と言えるでしょう。
レンズ名 | 最短撮影距離 | 最大撮影倍率(35mm判換算) | ||
---|---|---|---|---|
レンズ単体 | MC-14装着 | MC-20装着 | ||
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO (35mm判換算:80-300mm相当) |
0.7m | 0.42倍相当 | 0.6倍相当 | 0.84倍相当 |
M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4 PRO (35mm判換算:600mm相当) |
1.4m | 0.48倍相当 | 0.67倍相当 | 0.96倍相当 |
M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS (35mm判換算:200-800mm相当) |
1.3m | 0.57倍相当 | 0.81倍相当 | 1.15倍相当 |
下の写真は1cm強の大きさのヤマトシジミをM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PRO単体とテレコンバーターMC-14/MC-20を装着したときの最短撮影距離1.4mで撮影したもの。小さなシジミチョウを、少し離れた位置から、ここまで大きく撮ることができます。
マクロレンズと望遠レンズについて説明しましたが、OM SYSTEMは標準ズームレンズも寄れますので、昆虫撮影に最適です。標準ズームレンズで風景を撮りながら、目の前に昆虫が現れたとき、OM SYSTEMならレンズ交換することなく、そのまま撮ることができます。以下は3本のおすすめレンズの最短撮影距離と最大撮影倍率です。マクロレンズほどではないですが、ハーフマクロ(0.5倍相当)の撮影が可能です。
レンズ名 | 最短撮影距離 | 最大撮影倍率(35mm判換算) | |
---|---|---|---|
広角端 | 望遠端 | ||
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II (35mm判換算:24-80mm相当) |
0.2m | 0.21倍相当 | 0.6倍相当 |
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO (35mm判換算:24-90mm相当) |
0.12m(Wide) 0.23m(Tele) |
0.5倍相当 | 0.5倍相当 |
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO (35mm判換算:24-200mm相当) |
0.15m(Wide) 0.45m(Tele) |
0.6倍相当 | 0.42倍相当 |
下の写真は小さなモンキチョウをM.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROで撮影したもの。このレンズは広角端から望遠端まで、ズーム全域で最大撮影倍率が0.5倍相当(35mm判換算)という優れもの。広角端では背景に花畑の環境まで取り込むことができ、望遠端では背景を大きくボカした撮影が可能です。
おすすめレンズ
*35m判換算の場合
マクロレンズ
望遠レンズ
標準レンズ
カメラ設定と撮影の基本について
ISO感度
慣れてくれば任意でISO感度を決められるようになりますが、最初は、ブレないシャッター速度を得るために「ISO AUTO」にして、動きを止めることを優先することをおすすめします。
ホワイトバランス
美しい昆虫の色を再現するには、ホワイトバランスの設定がポイント。「AUTO」でも良いですが、屋外で撮る場合は連続で撮影したときに色を揃えるために「晴天」に設定しておくのが良いでしょう。
光
昆虫の色を忠実に再現するには「順光」のポジションから狙います。昆虫をシルエットにする等、ドラマチックに表現するには「逆光」がおすすめです。昆虫の場合、フラッシュによる光のコントロールも重要になります。
ピント合わせ
生きものの写真は、眼にピントを合わせるのが基本です。止まっている昆虫を撮るときは眼にピントを合わせましょう。
露出モードと絞り値/シャッター速度
露出モードは、止まっている昆虫を撮るときは、ボケ量をコントロールするため、「A(絞り優先)モード」にして、大きくボカしたいときは絞りを開けて(絞り値の数字を小さくして)、深度を稼いで昆虫のディティールを再現したいときは絞りを絞って(絞り値の数字を大きくして)撮ります。飛んでいる昆虫を撮るときは「S(シャッター優先)モード」に設定して、1/3200秒以上で撮ると、ブレは少なく昆虫の動きを写し止めることができます。
昆虫の姿をくっきり写すには、ある程度絞りを絞る必要があります。OM SYSTEMはフルサイズに比べて深度が2段分深いので、例えば、フルサイズのF16相当の深度を得るには、OM SYSTEMでは絞りF8.0で撮ればほぼ同じ深度になります。より速いシャッター速度を得られる、もしくは、より低いISO感度で撮れるというメリットがあるわけです。
深度合成
小さな昆虫を大きく撮ろうとすると、被写界深度は極端に浅くなり、絞りを絞っても十分な深度が得られないことがあります。機種によりますが、 OM SYSTEMでは深度合成が可能で、絞りを絞っても得ることのできない深い深度の写真を撮ることができます。昆虫のディティールを表現するためには必須の機能と言えます。
フォーカスモード
止まっている昆虫を撮るときは「S-AF」、飛んでいる昆虫を撮るときは「C-AF」をおすすめします。機種によって「S-AF+MF」「C-AF+MF」が選べる場合は、「AF+MF」を「ON」にしておくと、合焦後に自分でマニュアルフォーカスで調整できるので便利です。
プロキャプチャーモード
小さな昆虫を追いながら画面内に入れるのは難易度が高いため、プロキャプチャーモードを使うと、昆虫が飛び立つ瞬間を撮影できる確率が上がります。プロキャプチャーモードとは、シャッターボタンを半押ししている間、カメラの中にデータを蓄積。シャッターボタンを全押しした瞬間から、過去にさかのぼって記録される機能です。RAWデータ(2000万画素)も記録できます。プロキャプチャーモードで撮影する場合、UHS-IIタイプの高速SDメモリーカードの使用をおすすめします。
深度合成について
昆虫を撮るとき、そのディティールをしっかり再現したいもの。小さな昆虫をアップで撮ると、被写界深度が極端に浅くなります。マイクロフォーサーズのOM SYSTEMは、フルサイズに比べて、同じ絞り値で撮ると約2段分深い深度が得られるのですが、それでも深度は浅く、絵作りが難しい場合があります。深度を稼ぐために絞りを絞るという方法がありますが、絞り過ぎると回折の影響によって画質が劣化しますし、背景が煩雑になります。そんなときは深度合成モードで撮ると、昆虫全体にピントが合って、背景が程よくボケた写真を撮ることができます。機種によって、合成するための撮影枚数を選ぶことができますが、まずはデフォルトの「撮影枚数:8枚」「フォーカスステップ:5」から始めると良いでしょう。
下の写真は小さなベニシジミをマクロレンズで撮影したもの。作例1の蝶のディティールを写すために絞りF11で撮影した写真は、背景がうるさくなってしまっています。作例2は背景をボカすためにF2.8で撮影しましたが、羽根の先がボケてしまっています。作例3の写真は深度合成モードで撮影。蝶全体にピントが合って見えて、背景はきれいにボケています。
※深度合成モードで撮影された写真は、上下左右各7%ほど画角が狭くなります。
プロキャプチャーモードについて
昆虫が飛び立ったところを撮ったのに何も写っていなかった…という経験はありませんか?私も以前は、偶然でもない限り、飛び立ったところは撮れませんでした。OM SYSTEMでは、機種によりますが、プロキャプチャーモードを搭載しており、この機能を使うと撮れる確率が上がります。プロキャプチャーモードは、シャッターボタンを半押ししている間、カメラの中にデータを蓄積。シャッターボタンを全押しした瞬間から、過去にさかのぼって記録される機能で、RAWデータ(2000画素)も記録できます。OM-1は最大120コマ/秒、OM-D E-M1X/E-M1 Mark III/E-M1 Mark IIでは最大60コマ/秒の速度で撮ることができるという夢のような機能で、昆虫の微妙な動きを再現した一連の写真の中から最も羽根の形の良い写真を選ぶことができます。
※過去にさかのぼる最大枚数と最高連写速度は機種によって異なります。
フラッシュについて
光線状態によっては昆虫の体が陰になって、ディティールがつぶれてしまうことがあります。そんなとき、フラッシュで光を補うことで昆虫の体の色を再現できます。望遠レンズの撮影では、一部の機種に同梱されている小型フラッシュ FL-LM3では光が届かないことがありますので、大光量のエレクトロニックフラッシュ FL-900Rやエレクトロニックフラッシュ FL-700WRが必要になります。また、マクロレンズで撮影倍率が高い撮影の場合は、マクロフラッシュ STF-8がおすすめです。下の写真はアオメアブを望遠レンズで撮影したもの。フラッシュを使わないと体が黒くつぶれていますが、フラッシュを使うことでディティールが再現できています。
フラッシュ
OM SYSTEMには以下のフラッシュがラインナップされており、用途に応じて、お選びいただけます。