写真撮影レポート「OM-D E-M1Xで星空を撮る」

オリオン大星雲を赤道儀で撮る

肉眼では全く見えない、あるいはとても淡くしか見えない天体が、写真で撮ってみるとその本来の美しさを現してくれます。「見えないものが見える」これが星空写真のひとつの醍醐味です。
これは天体写真で人気のオリオン座大星雲M42。日周運動の方向を考えて4分ほど追尾撮影後に約2分間レンズを覆い赤道儀を止めて露出中断、その後8分ほど固定撮影をしてみました。星雲の描写と星の光跡の美しさのいいとこ取りです。

オリンパスカメラの「ライブバルブ」は、バルブ露出中に撮影されている画像を確認できるので、モニター上を西に伸びていくM42星雲の光跡を見ながら撮影終了のタイミングを見計らい、バランスの良い画面構成にすることができました。E-M1Xの星雲の発色を見てください。

オリオン大星雲の赤い光は、宇宙空間の水素が近くの星の強力な紫外光を受け電離して放つ光「Hα線」の色です。この光の波長は赤外線に近く、普通のカメラのもつ感光域のギリギリのところにあります。星雲に重なって見える縦の短い光跡は、固定撮影中に写った静止衛星の一つです。

オリオン大星雲は明るい星雲で、中心部と周辺部の明るさのレンジが非常に広く、一コマの撮影で全体の階調を出すことができません。そこで段階露出をした多数のコマを合成し、中心部から周辺部までの自然な階調を作ります。

  • OM-D E-M1X
  • ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8(フォーサーズレンズ)
  • 絞り値:F3.2
  • ISO感度:6400
  • シャッター速度2.1秒〜60.0秒で段階露出した33コマを合成
  • 光害カットフィルター使用
  • ポータブル赤道儀で追尾撮影

フォーサーズの300mm F2.8大口径超望遠レンズで撮影したオリオン大星雲です。この星雲は赤一辺倒ではなく、意外と青い色の成分が多いことがわかります。E-M1Xで撮影した画像に強力な処理をすることで、星雲の外に薄く広がる分子雲(ほとんどが発光していない水素分子)まで写し出すことができました。

星雲を見せるためにこのように非常に強力な階調調整を施す場合、レンズの周辺光量低下やセンサーに付着したゴミも強調されてしまうことになります。
このような星雲写真では、周辺光量低下のあるレンズだと、画面周辺部がほとんど真っ黒に落ちこんでしまいますし、絞り開放だと通常は気になることがない大きくボケたゴミの影も、非常にくっきりと強調されてしまうのです。ここまで行かない比較的普通な星景写真でも、コントラスト調整は強めにすることが普通で、やはり程度の差こそあれ、同じようなことが起こります。

しかし、マイクロフォーサーズカメラでは、そのような心配はほとんど要りません。センサーサイズに比してレンズマウントの口径が十二分に大きく(マイクロフォーサーズマウントは、センサーサイズ比でいうと、現行ミラーレスカメラ最大口径です)、周辺光量のたいへん豊富なレンズを実現しているからです。実際このM42の写真では、絞りを開放から1/3段絞り込んだだけですが、周辺光量の補正はまったく必要ありませんでした。また、気になるゴミの影の写り込みも皆無です。
E-M1Xではセンサーに新開発のコーティングを施すことで、ゴミが映り込む可能性を従来機の1/10まで軽減したとのこと。さらに安心して撮影ができることになりそうです。

厳寒の北海道で

2月「観測史上最強の寒波」が到来した北海道に、星空撮影に出かけました。この時期の晴天率の高い十勝方面を目指します。

まずは写真で有名な豊頃町のハルニレの木です。被写体として魅力的な樹形で、この夜も何組かの写真愛好家たちが撮影に訪れていました。有名な場所だけに、いろいろな人が来ます。
目が眩みそうな明るいLEDランプを照らしながら歩いてくる人。車のヘッドライトでハルニレを照らし出そうとする人。それでは他人の迷惑になってしまうかもしれないばかりか、自分自身でも肝心の星の光が見えなくなってしまうことに気づいてもらいたいものですが…。
残念なことに、星空撮影の明かりのマナーは、まだまだ知られていないと思います。星空撮影では、同好の人のためにも自分のためにも、必要最小限の光の使用に止めるようにしたいものです。
それはともかく、ほとんどの人がいなくなった明け方近くまでここで待ったのは、夜明けに昇ってくる木星・金星・月の三天体の競演があるからでした。
ハルニレの枝にかかった三つの明かり。それに並んで昇って来たさそり座の一等星アンタレス。マイナス19度の凍てつく空気の中、北の大地に降り注ぐ星の光をハルニレと共有したような気がして、少し特別な気分になりました。そしてこの気温の中、一晩中外気にさらしたままにもかかわらず、E-M1Xは何の問題も起きることなく正常に動作してくれました。

F1.2のPROレンズシリーズは、絞り開放から画面周辺で星像が崩れることが非常に少なく、星空撮影にとても使いやすいレンズです。F1.2〜F2.0くらいまでは輝星にほんのり上品な光のにじみが現れ、星の光を美しく味わい深く表現してくれます。

明治期から北海道十勝地方の開拓には馬が大きな役割を担って来たそうです。これは馬種改良や繁殖を目的として創設された十勝牧場の白樺並木。強い西風が吹き荒れる中、45分のライブコンポジット撮影で、見上げるような高い位置にある北極星を中心に巡る北の星々の光跡です。

同心円の光跡の中心に見える北極星の高さは、その土地の緯度と同じです。ここは北緯43度、いつもの東京で見慣れた北極星より7.5度も高く見えることになります。

撮影中は、天の川が見えているのに星が少なくて、ほの白く見えるなんとも不思議な星空でした。撮影を終え機材撤収で明かりを点けて見たら、その時なんと周囲一帯はずいぶんな地吹雪だったのです。空が白いのはそのためでした。写真の低い空が霞んでいるのは、吹き飛ばされた雪なんですね。
気温が低いうえ風が非常に強いので、雪がカメラやレンズに付着することはありませんでしたが、星空の撮影では、夜露や霜の付着があるのが普通のこと。時には霧の中で撮影することもあったりします。
OM-Dカメラの防塵防滴性能の高い信頼性にはすでに定評がありますが、E-M1Xは、リモートケーブル端子まで含めて、これまで以上の防塵防滴性能を備えているとのことです。レンズが曇ると撮影できないのでレンズヒーターで暖めますが、ボディーの方には結露や霜に気を使う必要がありません。
星空の撮影は静かに行われているようでいながら、低温や水分の付着など、想像以上に機械にとっては厳しい条件なので、この信頼性の高さはたいへん嬉しいものです。

このような厳しい環境に長年耐えてきた白樺。
並木の白樺の下から星空を見上げていると、星よりも、この土地の気候の全てを刻み込んだような樹皮の方にどうしても目が行ってしまいます。私の好きな25mmレンズの画角。手持ちで構えてライブビューブースト2、F1.2開放で枝にピントを合わせます。

手持ち5秒露出でも荒れた樹皮から繊細な枝先まで、きっちりシャープに描き出してくれました。入り組んだ枝もうるさくならず、空高い星にも色収差の変な色がついたりしていません。滑らかなボケの美しいレンズです。

43度の高さの北極星。その下を通過する画面中央のW字、カシオペア座。北極星の下を通過することを「下方経過」と言います。地上に余裕を持って下方経過するカシオペア座は、この地の緯度の高さを物語っています。

カシオペア下方経過
これはライブコンポジット撮影ではなく、通常のバルブでの長時間露出です。比較明合成とは違って暗い星の光跡が強くなりすぎず、2等星のカシオペア座の星がほどよく目立ちます。

湖面が氷結している摩周湖。背後からの月明かりで、正面の中央火口丘カムイヌプリと摩周カルデラの外輪山が照らされています。

摩周湖
背後からの月明かりで、正面の中央火口丘カムイヌプリと摩周カルデラの外輪山が照らされています。上弦の月が西の空に傾きつつあるところです。カムイヌプリの上には、うしかい座のアークトゥルス。

この夜が、今回の北海道滞在中で最低気温の夜となりました。車の車外温度計が早朝に示した気温はマイナス28度。私自身久々のマイナス20度超えでしたが、それでもこの時のE-M1Xは何ともありませんでした。
E-M1Xは、USB PD規格に準拠したモバイルバッテリーの給電で撮影が出来るようになりました。この撮影ではひとまず大丈夫でしたが、極低温時の長時間露出で大容量外部電源を保温しながら撮影できるようになったのは、条件が厳しい場合にとても安心です。