写真撮影レポート「OM-D E-M1Xで星空を撮る」

2019年、最初の天体ショーを撮る

2019年、星空の撮り初めは南房総の小さな灯台のある海岸でした。
西からの季節風が非常に強く、三脚が飛ばされてしまいそうなほどです。そこで低く構えた三脚の風下側の脚を大きく開き、風への抵抗力を増すようにしてカメラをセットします。かなり頑丈な脚を使ってはいるのですが、長時間のライブコンポジットだと、カメラボディーの揺れさえも気になります。しかしE-M1Xのボディー剛性の高さで、そのような心配はまったくの杞憂でした。

この時のねらいは、南の水平線近くに現れるりゅうこつ座の一等星カノープスです。あいにく水平線近くには雲が出ていて、カノープスは切れ切れの光跡となってしまいました。しかし、かえって当地に伝わる「めら星」の伝説にはふさわしい姿かもしれません。興味のある方は「めら星」で調べてみてください。

2019年最初の見ごたえのある天体ショーは、1月2日未明の空で見られた、月齢26の細い月と明けの明星・金星の大接近でした。だんだんと明るくなってゆく空で、ギラギラと眩しく輝く金星、細い月のクレーターや地球照。双眼鏡で眺めるのは最高の美しさでした。

明け方の東の空に月と金星が大接近しています。朝焼けの中にはさそり座の頭部と木星が見えています。明け方の空のグラデーションと色がとても美しく描き出してくれました。

大口径超望遠レンズで、接近中の月と金星をねらってみました。月の地球照がきれいに見えています。時おり流れてくる雲もライブビューブースト2の表示速度優先モードで素早い構図合わせが可能で、シャッターチャンスのタイミングを外すことはありません。この後、月はもっと金星に接近します。

  • OM-D E-M1X
  • ZUIKO DIGITAL ED 300mm F2.8(フォーサーズレンズ)
  • 絞り値:F3.2
  • シャッター速度:2.0秒
  • ISO感度:1600
  • ポータブル赤道儀で追尾撮影

1月2日朝に金星と大接近した月は、1月6日に太陽の前を通過して部分日食を起こしました。雲に入ったところを減光フィルター無しでねらうことににします。太陽の光で雲に虹のような色がつく彩雲になることを期待したのですが…

PROズームの望遠端で、1.4倍の専用テレコンバーターを使用しました。欠けた太陽の縁は月の輪郭です。たいへんシャープな描写で、月面の凹凸がわかります。

太陽光を直接肉眼で見るのは、目を痛める可能性が高く非常に危険です。しかしミラーレスカメラのファインダーやモニターは一度撮像した映像を表示しているだけなので、まったく安全で安心できます。
このような撮影では、空や雲と太陽の光球の光量差がとても大きくて露出の決定が難しいものですが、ライブビューでヒストグラムや白飛び黒つぶれの警告表示を見ながら露出の決定ができるのは、太陽撮影の安全性とともに、ミラーレスカメラの大きなメリットです。

三脚なしの星空撮影

中央道で八ヶ岳方面に向かいます。通い慣れた道ですが、途中、あまりにもよく晴れているので、高速を早めに韮崎で降り、開けた畑地で星を眺めました。甲府方向の空はいささか明るいですが、大気の透明度はなかなか良いようです。オリオン座が中天に昇っています。

E-M1 Mark IIが発売された時に、手持ちでの星空撮影を試しました。強力な手振れ補正に期待してのことです。
この時に、明るい広角レンズやF1.8の魚眼レンズなら、2〜3秒程度のシャッター速度でブラさずに星空を撮ることも不可能では無いとの感触を得ました。ただ、成功率はあまり高くなく、完全に安心して星の撮影に使うことは難しそうだと思いました。
手振れ補正の効果は個人差があって、カメラの構え方や姿勢などによって、効果に違いが生じるようです。

今回のE-M1Xはどうかと、ここで試してみることにしました。まずは小手調べに明るい広角レンズ17mm F1.2 PROを装着してISO6400で試します。オリオン座とシリウスが引き立つように、丸く切り抜いたシートタイプのソフトフィルターをセンサーの前に置いての撮影です。この時、絞り開放で2秒露出が適正となる空の明るさでした。

ソフトフィルターで明るい星をにじませて、星座の形がよくわかるようにします。カラマツの枝の隙間からおおいぬ座のシリウスがのぞいています。手持ちカメラなので、シリウスが枝にかからないようにするポジション取りに何の苦労もありません。三脚撮影だと、微妙なカメラの移動はすごく面倒な作業なのですが。

カメラを手に前後左右に移動しながら何枚か撮影をしましたが、大口径F1.2レンズで2秒の露出では、ほぼ100%の成功率でした。たいへん満足できる結果です。E-M5 Mark IIやE-M1 Mark IIに比べてホールディングしやすくなったボディー形状も、この手振れ補正効果に一役買っているのかもしれません。

この結果に気を良くして、野辺山高原では冬の天の川の撮影に挑んでみました。オリオン座のベテルギウス、こいぬ座のプロキオン、おおいぬ座のシリウスが形作る冬の大三角に流れる天の川はたいへん淡く、光害がある空ではなかなか見ることも難しい対象になっています。

他に類を見ない大口径F1.8の明るい魚眼レンズで絞り開放、4秒露出から撮影を開始、8秒露出まで試しました。その結果、すべてのコマで画面中心付近の星は、ほぼ完璧に点像に写し止められることがわかりました。ただ、普通に立って構えている時は、画面周辺部の星がなかなか点像になりません。これは超広角レンズの原理的な現象で、カメラぶれによって発生する結像の位置ずれ量が画面中心部と画面周辺部で異なる為です。念のために書いておきますが、このレンズはF1.8という大口径魚眼レンズながら、絞り開放でも周辺部まで素晴らしい星像のレンズです。
そこで地面に腰を下ろし、両膝でカメラを持つ腕のひじを支えてシャッターを切ることにしました。静音シャッターで8秒露出の結果がこの写真です。

画面中央部を縦に淡い冬の天の川が流れています。南の地平線近くにはカノープスが南中です。カノープスを見た人は、長生きが出来るという言い伝えがあります。私は数えきれないくらいの回数を見ていますが、はたして?

画面全体でほぼ完全に点像に写し止めることができています。天の川、しかも淡い冬の天の川を手持ちで撮影出来るとは!こんな撮影が出来る日が来るとは、つい最近まで想像もしていませんでした。まったく驚きの手振れ補正性能です。

手持ちで星も写りピント合わせも楽なライブビューブースト2だと、星空の下の風景が、日中のスナップに近い感じで出来ます。
野辺山高原の農場に片隅に長年放置された四輪駆動車です。これは私が初めて野辺山に行った学生の頃、1970年代末頃には現役で働いていた車でしょう。当時、こんな車で星を撮る旅をしてみたいと思っていました。
手持ちでファインダーをのぞき、拡大MFでヘッドライトにピントを合わせます。低光量なのでさすがに画面のザラつきはありますが、構図合わせにもピント合わせにも支障はそれほどありません。

F1.2の大口径レンズで前ボケ・後ろボケを活かした雰囲気のある描写です。真冬の高原の凜とした冷たい空気感を表現するために、彩度を抑えた仕上げにしてみました。

三脚を使用すれば同様な撮影も不可能ではありませんが、手持ち撮影の自由さは、新しい星空写真の可能性を予感します。これまでの数十年間、星空は三脚撮影をするのが常識と思い込んできたこちらの思考回路をいったん解きほぐして、新しい星空写真を探求してみたいと考えています。これは、カメラ開発のエンジニアさんからの、撮影者への挑戦のような感じもします。

手持ち撮影をする一方で、三脚に据えたライブコンポジット撮影もしてみます。四輪駆動車のフロントウィンドウには、おおいぬ座シリウスの光跡が映っています。ここに放置されてから、この車の窓には何回星座が巡ったことでしょうか。

フロントガラスに映ったシリウスの光跡を確認しながらのライブコンポジット撮影。10分間の光跡です。

野辺山の帰り道、夜明けの中央道を走る車内助手席から手持ち撮影で南東の空に昇ってきた星たちを撮影しました。もう明るいのでシャッター速度は1/2秒ですが、走行中の揺れる車内からの撮影でも星は見事に点像に止まっていて、驚きです!

中央上部の明るい星は金星、その下の明るい星が木星です。これらの惑星のすぐ右に、さそり座の頭部が昇ってきています。画面右には富士山。