写真家・福田健太郎がOLYMPUS OM-D E-M1 Mark IIIで紡ぐ
森の5つの物語 <後編>

新しいカメラを手にした時のわくわく感は、いつも新鮮だ。今、私の目の前にあるのは、OM-D E-M1 Mark III。両手にすっぽりと収まるこの小さなボディーに、先進的な機能がぎゅっと詰め込まれているという。このカメラと、どこへ行こうか。何を撮ろうか。
季節は、秋から冬へ移り変わる頃。ひんやりとした風に誘われて、自然と私の心は北へと向いた。本州からカーフェリーに乗り、北海道の苫小牧まで。そこから道東方面へ車を走らせる。
冬支度を始める森の風景に出会うべく、自然に包まれた人気のない場所に車を停める。目的地は特にない。何を撮りたいのかはまだわからない。
自然の中を散策するのに、OM-D E-M1 Mark IIIはぴったりの相棒だ。ショルダーバッグには、カメラと交換レンズ数本のみ。はじめは三脚も持たない。身軽な格好で歩き始めると、旅の高ぶりは消え、気持ちは徐々に静まっていく。そこからが、私の旅の本当の始まりだ。(写真家 福田健太郎)

PART III
OM-D E-M1 Mark IIIで捉える、生命の気配

気に入った場所にはじっと留まっている。
時間は一切気にせずに、心ゆくまで。
森の中で感覚が野生を取り戻していく。
すると、今まで見えなかった生命の営みが見えてくる。

カメラの機動力はPROレンズと相性抜群。
心地よい距離感で生命との邂逅を捉えてくれる

肉眼では捉えきれない生命の気配。精緻に写るレンズの向こうに、その姿をはっきりと見出せる。動く被写体に即対応できるようあらかじめ割り当てたカスタムモード設定に切り替え、コンティニュアスAFと強力な手ぶれ補正で動物の目にピントを合わせ続け連写する。もちろん静音モード(電子シャッター)で相手を驚かせることもない。OM-D E-M1 Mark IIIの軽量ボディーだから、超望遠域からマクロまで、常に集中力を途切らせることなく最高の瞬間を捉えられる。

[福田健太郎の動物撮影カスタム設定]
撮影モード:Aモード
ISO感度:AUTO
AF方式:C-AF+MF
連写:静音連写L
AFターゲット:5点グループターゲット

超望遠レンズでも手持ち撮影。小動物の姿も鮮明に

5メートルほど離れた場所で忙しく動き回る朝のリス。M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROの向こうの、そのたくましい姿と生き生きした表情に惹かれて撮り進める。動く被写体のために割り当てたモードに切り替え、動きを読みひたすらに連写する。コンティニュアスAFで顔を上げた瞬間のキョロッとした表情を狙う。しばらくシャッターを切り続け、撮れたと確信が持てたところで撮影を終えた。俊敏で小さな生きものの瞬間を捉えるには、カメラ機能に頼る部分は大きい。高速AF+静音連写の手持ちショットで、瞳に映る森、フサフサとした毛並みや鋭いツメの先までシャープに写し取ることができた。

マクロレンズ+三脚ハイレゾショットが見えない世界を引き出す

森に入ってしばらく経つと心に余裕が生まれ、自然を見つめるまなざしも豊かになる。水場近くの岩肌にびっしり生えた、ごく小さな苔。湿潤な環境にある植物の形の面白さ、不気味さが目に入った。なるべく大きく画面いっぱいに写すことをイメージし、M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroで近寄ってみる。
可愛らしさよりグロテスクさを感じたので、ぼかさずにありのままを写し出すことを指向。苔の生えた岩と平行になるよう三脚にカメラをセットし、シャープで細密な描写にするため絞りはF8に。被写体にじっくり向き合い、深い緑から淡い緑の色と細胞のような不思議な凹凸まで三脚ハイレゾショットで描き出した。

晩秋の気配を繊細なピント位置で表現する

標高の高い山では紅葉は完全に終わり、人気のないブナの森は冬の装いを進めていた。あたりはひっそりと静まりかえり、冬を覚悟した木々の気配に満ちている。
葉を落とした木々の姿をそのまま見せるのではなく、別の角度から森の表情を捉えたいと考えた。ごくわずかな水たまりに映り込んだ森の姿が目に入る。オートフォーカスでは水に浮かぶ葉にピントが合ってしまうので、映り込みの木々にピントを合わせるためシングルAF+MFで合焦位置を微調整して撮影。太陽の光ももう届かない夕暮れ時、森に暮らす野生動物たちは動き出し始める頃だろうか。静まりかえる風景を表すため、F1.8でボケが大半を占める画面描写とした。

300ミリレンズで童話的なイメージを創る ※600mm相当(35mm判換算)

森の一本道は百年前の鉄道の名残。動物がふと現れてくれないものかと淡い期待を抱きながら歩いていた。そこへちょうど若いオスのシカがやってきた。私の姿に気づきこちらを振り返ったが、距離が保たれていたため驚かせずにすんだ。悠然と森の奥へと立ち去る後ろ姿に惹かれて超望遠レンズで撮影した。
奥行き感を伝える縦位置構図とし、手前の道からアーチ型にトンネルを入れて方向性を強めた。シカにピントを合わせ、絞りは開放付近で前後をぼかす。動物の自然なふるまいを撮れたのはM.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROのおかげ。OM-D EM1 Mark IIIの小型ボディーにふさわしいコンパクトなサイズ感は、撮影者の気負いも取り除いてくれる。森の奥に消えていくシカの姿は、まるで風景画のようだった。