自然写真家
海野和男
Tough×海野和男
マレーシアに行ってきた。今回はジャングルの虫の音をとろうという目的もあった。カメラもたくさん持って行ったけれど、他にも目的がある時は小さいカメラは重宝する。
TG-3はエクサィティングなカメラだ。平らなボディーでポケットに入れても邪魔にならないからいつも持ち歩いた。町を歩く時もいつも一緒だ。町を撮る写真家なら、重いカメラもいとわないだろうが、主なフィールドは自然の中という場合、町にまで重いカメラを持って行く気にはならない。それでいて、昆虫撮影には十分対応できるから撮りたいものがあった時には、さっとポケットから取り出して使える。小さなものの撮影では、むしろ一眼レフより有利なことすらあることを再認識した。
マレーシアはぼくにとって特別な国だ。ずいぶん昔の1969年にはじめて海外に出た時は東南アジアを周遊したが、一番長く滞在した国がマレーシアだった。自然の豊かさと、人の優しさに引かれ、それ以来ほぼ毎年のように撮影に出かけている。
今年もすでに2回目である。延べにすれば4~5年は滞在している計算になる。
マレーシアでは、まず空港でレンタカーを借りる。レンタカーを使うのは毎度のことで、最初に行った1969年もレンタカーを使った。当時、ぼくは21才だったが、マレーシアは22才からしか車が借りられなかった。けれど数えで22だからと車を貸してくれた。
最近はペナン島がベースで、そこからマレー半島の中部にあるキャメロンハイランドなどの山に出かける。いつもは涼しい山の上の町、タナラタに泊まるのだが、今回はイポーやゴーピンといった、山麓の町に泊まって、標高の高い場所には行かなかった。マレーシアで昆虫が多いのは標高が500mから1200mぐらいの場所だ。これは熱帯での普遍的な原則のようなもので、何処の国に行っても変わらない。日本の夏も同じようなものだ。
必ず訪れるのが、タパーという町からキャメロンハイランド方面に10kmほど行ったところにある、川から温泉が湧き出るKuala Wohという場所だ。昔はほとんど人がいなかったが、今は地元の人たちの水遊びの場所になっていて、土日などは大変混雑する。
温泉の出る川岸にはアカエリトリバネアゲハというマレーシアが世界に誇る大きなチョウが水を飲みに来る。ぼくが世界で一番好きなチョウで、マレーシアに行けば必ずアカエリトリバネアゲハを撮影に行く。この場所は45年間、まったく変わっていない。大雨などで、川の流れが少し変わったりして、わきでている場所が水の中に沈むとそこには集まらなくなるが、別の場所が水の上に出て、そこにチョウが集まって来る。昔は橋がなく、川を歩いて渡った。30年以上前に、川を渡る時に転んでOM2を水の中に沈めたことがあった。その時は途方に暮れたが、現地の昆虫を集めていた人がガスオープンに入れて低温で乾かせばよいと言った。湿気の多いので、標本が腐りやすく、その人は標本を乾かすのにガスオープンを使っていた。カメラをガスオープンに入れる※なんてとたまげたが、どうせ動かないのだからと、一か八かやってみた。裏蓋の外れるところははずしてオープンに入れてみた。数時間焼いて取り出すとなんと動くのだ。そのカメラはそのまま使って、日本に戻ってからサービスに出したらビスが1~2本錆びただけだったそうだ。TG-3なら水に落としてもまったく問題ないから、すごい時代が来たものだと、当時のことを思い出した。
※注)危険ですから、絶対に真似しないでください。
アカエリトリバネアゲハは温泉の水を飲んでいる時は、触れるほど近づける。だから魚眼レンズでの撮影が楽しい。今回はフィッシュアイコンバーター FCON-T01を使ってみた。カメラを砂地において、蝶の目線から撮影するのがぼくのスタイルだ。温泉の水だから、機械には悪いに違いないが、完全防水のTG-3ならまったく恐れる必要はない。いつものように魚眼にフラッシュを使う撮影もやってみた。TG-3にはRCモード(ワイヤレスRCフラッシュシステム)がある。このモードを使えばFL-600Rなどのフラッシュをワイヤレスで光らせることができるのはとても便利である。
マクロ撮影機能の中では、深度合成モードが面白い。深度合成モードはピントを少しずつ変えた写真を自動的に撮り、カメラ内で深度合成して全面にピントが合う写真にしてくれるモードだ。
また、フォーカスブラケットといって、カメラがピント位置を変えて、10枚、20枚、30枚撮ってくれるモードもある。10枚にセットしておけば、ピント合わせがしにくい小さな被写体も確実にピントが合いそうだ。けれど、このモードがもっとすごいのは30枚撮って、深度合成ソフトを使えば、今まで難しかった深度合成が素早くできることだ。生きている虫を深度合成するのは撮影に時間がかかるので難しかったが、TG-3なら数秒ぐらいじっとしていてくれたら撮れそうで期待してしまう。
マクロ撮影では被写体に超接近するから、カメラの影にならないようにアングルを考え、ライトガイドLG-1もつねに併用した方がよいだろう。
オウシツノゼミは大型のツノゼミだ。とはいっても体長8mmほど。深度合成モードで撮影。ライトガイドLG-1も併用。
吸水中のベニシロチョウの顔を深度合成モードで撮影。深度合成モードではカメラがまずフォーカスを合わせた場所にピントのあった写真(左側)を撮影。その後、フォーカスを変えて10枚ほど撮り深度合成を自動でしてくれる(右側の写真)
マクロ撮影でもRCモードが使えるのもすごいと思った。試しに深度合成モードのRCモードでエレクトロニックフラッシュFL-600Rを使って見た。ただRCモードではストロボのチャージに時間がかかるので1秒1コマといった感じで10秒ぐらいかけて10コマシャッターを切り深度合成をしてくれる。
チョウトンボの翅をエレクトロニックフラッシュFL-600RのRCモードで室内で撮影。
マレーシアでTG-3を使って見て、マクロ撮影領域の昆虫写真のほとんどのシーンがTG-3で撮影できることに感動。難しかったマクロ撮影がここまで完璧にこなせるカメラができたことに拍手を贈りたい。
海野和男(うんの かずお)
1947年、東京で生まれる。昆虫を中心とする自然写真家。テレビ番組など幅広い活躍でも知られる。日本自然科学写真協会会長。
海野和男のデジタル昆虫記 http://eco.goo.ne.jp/nature/unno/