瀬戸内海で2番目に大きな島、小豆島。人口は約26000人。海や山が近く自然が豊かな離島でありながらも、
スーパーや病院、小中学校など暮らしに必要な環境がある程度整っている島です。
特産物は醤油や素麺、オリーブ。瀬戸内海の新鮮な魚介類や、温暖な気候のもとで育ったみかんやレモンなどの柑橘など食文化が豊か。
そんな島の魅力に惹かれ、移住してくる人も多いです。最近ではIUターンあわせて年間約400人が移住しています。
一方で、島民の約4割が高齢者であり、日本の中でも特に高齢化が進んでいる地域でもあります。
そこで暮らす7人の女性で結成したのが小豆島カメラ。写真を通して小豆島の魅力を発信しています。
「見たい、食べたい、会いたい」をテーマに、四季折々の島の風景や、おいしい食べ物、人との出会いを撮りつづけてきました。
2013年に結成し、2014年からWEBサイトやFacebookで1日1枚の写真発信をスタートしました。
小豆島カメラの活動は、島のメンバーだけではなく、カメラメーカー「OMデジタルソリューションズ(オリンパスより映像事業を継承)」や、
写真雑誌「PHaT PHOTO」の出版社であるシー・エム・エス、写真家MOTOKOと共同で進めてきました。
活動するなかで意識してきたことは、観光地としての小豆島だけではなく、暮らす場所としての小豆島を伝えること。
住民が自らの力で自分たちの地域をつくっていくこと、発信していくことが大切だと考えてきました。
小豆島のファンをつくり、将来的に島で暮らしてくれる人が増えたらいいなと願っています。
小豆島カメラのメンバーは小豆島で生まれ育った人、島外から移住してきた人の半々で構成されています。住んでいるエリアも、普段の職業もばらばら。メンバー7人がそれぞれの生活を通して、小豆島の日々を発信しています。
大川 佳奈子Kanako Okawa
北海道生まれ。日本大学芸術学部卒業。東京都内の美容室に就職するも、島に住むことの憧れを持ち、北や南の島を転々とする。2006年に小豆島に移住。現在は小豆島国際ホテルに勤務。
太田 有紀Yuki Ota
小豆島生まれ。関西学院大学商学部卒。広告業とまちづくりに携わる経験を経て、2013年小豆島に戻る。瀬戸内国際芸術祭の福田地区担当として2年間勤務。現在は岡山県の港町に住み、小豆島へ船で通う暮らしをしている。
黒島 慶子Keiko Kuroshima
小豆島生まれ。醤油とオリーブオイルのソムリエ。京都造形大学情報デザイン学科卒業後、東京と高松のデザイン会社に勤務。2009年に小豆島に戻り独立。蔵や農園に通い続けながら、デザイン、撮影、執筆、問屋、レシピ作りを通じてつくり手と使い手をつなげる仕事をしている。玄光社より『醤油本』を出版。
古川 絵里子Eriko Furukawa
小豆島生まれ、小豆島育ち。阿蘇、清里、八ヶ岳、上高地と豊かな自然に囲まれた場所での生活を楽しみつつインタープリターとして働いたのち、2008年小豆島に戻る。のんびりカメラを持って歩くことで出会えるものや広がる世界があると感じている。
島好きインタープリター
坊野 美絵Mie Bono
大阪生まれ。関西学院大学社会学部卒。大阪のライブハウスで4年間勤めたのち、2013年に小豆島へ移住。小豆島観光協会の広報などを経て、現在はフリーライター。小豆島をはじめ香川県内のまちの情報や人物取材を中心に活動中。
文と写真
牧浦 知子Tomoko Makiura
兵庫県生まれ。関西で写真館アシスタント、ブライダルカメラマンとして勤務後、2013年に小豆島へ家族で移住。島の思い思いの場所へ足を運びポートレートを撮影する出張写真館「しまもよう」を始める。小豆島を拠点に、瀬戸内エリアへの撮影依頼も受け付けています。
しまもよう
三村 ひかりHikari Mimura
愛知県生まれ。名古屋大学および同大学大学院で建築学を専攻。地図制作会社を経てIT企業勤務。2012年に家族で小豆島に移住後、夫とともにオーガニック農園『HOMEMAKERS』を立ち上げ、野菜の栽培と週1日カフェを開く。至るマガジンハウスのウェブマガジン「コロカル」にて「小豆島日記」を連載中。
HOMEMAKERS Farm & Cafe
小豆島は小さいと思われがちですが、一周すると車でも3〜4時間かかる意外と大きな島です。ぐるりと海に囲まれた地形で、島民にとって海は身近な場所。浜辺でコーヒーを淹れて飲んだり、夏場はさっと泳ぎに出かけたり、冬場は焚き火を楽しんでみたり。思い思いの時間を過ごしています。
少し山を歩けば、瀬戸内海を一望できる景色が広がるのもいいところ。気軽に歩ける登山スポットがいくつかあります。島外からの観光客で賑わうのは寒霞渓。紅葉が有名ですが、春の生命力あふれる新緑の季節もおすすめです。
自然がすぐそばにあると、思わずシャッターを切りたくなるシーンばかり。風景を撮る人がいれば、植物や生き物に視点を向ける人がいたり。同じ場所でもいろんな切り取り方ができることに気づきます。
カメラとともに出かけていると楽しいのは、何気ないコミュニーケーションが生まれること。島で出会った素敵な人に声をかけて撮らせてもらうこともあります。
ふと食卓を眺めると、そこに並ぶのは地元でつくられたものばかり。島の暮らしで幸せを感じる瞬間です。
島を代表する産業である醤油や素麺は約400年の歴史を持ち受け継がれてきました。醤油産業は、その昔、小豆島が瀬戸内の海上交通の要所であったことから、大豆や小麦を手に入れやすかったこと、もともと塩業が盛んであったことなどから発展しました。醤油工場が集まる醤の郷では麹菌で屋根が黒くなった木造家屋が並び、独特なまち並みをつくっています。
一方、素麺産業は昔、お伊勢参りに出かけた島民が道中で三輪に立ち寄り、 素麺づくりの技術を持ち帰ったことがはじまりと言われています。雨が少ない瀬戸内の冬の寒風が素麺をつくるのに適していました。さらさらとなびく素麺とそれを職人が箸分けしていくさまは思わずシャッターを切りたくなる光景です。
島を歩くといたるところで目にするオリーブ。小豆島でオリーブの栽培が始まったのは1908年です。日本で初めて栽培に成功しました。春には白い花を咲かせ、秋にはぷっくりと実をつける姿はなんとも愛らしいです。
ほかにも柑橘をはじめとした果物も豊富。いちご、すだち、いちじく、柿、レモンなどが季節をめぐります。最近は島で一度途絶えた塩業を復活させたり、あらたにビール醸造に挑戦したりする人も現れるようになりました。
「と〜もせ、と〜もせ」の掛け声とともに畦道にあらわれるのは、火を灯した火手(ほて)を持って歩く人の列。水田にポツポツと赤い灯が浮かび上がるさまは、何度見ても美しいです。毎年7月の半夏生には、稲作地域の中山と肥土山でそれぞれ虫送りという五穀豊穣を願う行事が行われます。小豆島では現在まで伝統行事が途絶えることなく続いていて、独自の文化が築き上げられています。
5月に肥土山、10月に中山で行われるのは農村歌舞伎奉納。役者も裏方もすべて島民で芝居をつくりあげていきます。行事当日の農村歌舞伎舞台はたくさんの観客が集まりとても賑やかに。
10月には島民の一大行事、秋祭り奉納が行われます。秋祭りの時期には一週間、各地区で太鼓を担ぎまちを練り歩いたあと、奉納が執り行われます。島暮らしといえば、のんびりとした暮らしをイメージされやすいですが、年中通して行事や集まりに忙しく過ごしています。
「小豆島カメラってどんな活動してるの?」って聞かれることがよくありますが、基本的にはウェブサイトやFacebook、Instagramで1日1枚写真を発信しています。ウェブサイトでは撮影場所のMAPのリンク付けや、カメラの機種、レンズの種類などが分かるようにタグ付けをしています。島の観光情報や、カメラやレンズ選びの参考にしてもらえるように工夫しました。
はじめた当初は数十人にしか反応がなかったFacebookも今では10000人以上の方々にフォローしていただいています。日常生活でも、私たちの活動を知った島の人から「田植えするから写真撮りに来る?」「記念写真を撮ってほしい」など声をかけてもらうことが増えました。
一方で、時の流れとともに結婚、出産を迎えるメンバーの変化があり、毎日発信することが難しくなってきた一面もあります。ときには島にいるオリンパスカメラを愛用している友人にゲスト投稿をしてもらうことを試みるなどして、変化を受け入れながら、無理せずつづけてきました。
グループとはいえ、基本的には集まって撮影することはイベント時以外はほとんどありません。集まるとすれば月1回はミーティングを開いて、その時取り組んでいるプロジェクトの進行や今後やりたいことなどを顔を合わせて話し合うようにしています。他愛もない話に花咲くこともありますが、そんな時間がチームの雰囲気をつくってきたような気がします。
Webではほぼ毎日発信していますが、そうやって撮り続けてきた写真からテーマを決めてセレクトし、1〜2年に1回、写真展を開催しています。島外では東京や大阪のオリンパスプラザやPHaT PHOTOが主催する御苗場で、写真展やトークイベントを開催してきました。発信していると、島外の方からコメントをいただくことも多いですが、写真展やトークイベントではいつも小豆島カメラの発信を見てくれている方に出会ったり、直接感想を聞けたりする、私たちにとって刺激になる時間でした。インターネット上で発信しているだけでは、誰が見ているのだろうと、ときに手応えが感じられなくなってくることがあるので、直接お会いして言葉を交わすことは発信をつづけていくうえでやる気につながりました。
島内で展示させていただいたのは、小豆島ジャンボフェリーや二十四の瞳映画村など。自分たちでパネルを作り、設営にも挑戦しました。観光客だけでなく、地元の人も足を運んでくれて、思った以上に喜んでくれたことがうれしかったです。地元に長く住む人からは「小豆島のどこがいいん?」と聞かれることも多いのですが、自分の住んでいる場所を褒められると、みんななんやかんやでうれしそうにしているように見えます。島外に向けて島の魅力を伝えることと同じく、地元に島の魅力に気づいてもらうことも大切だと思っています。
思いがけずイベントも企画するようになりました。無印良品との共同企画をきっかけに「生産者と暮らしに出会う旅」をスタート。vol.2からは小豆島カメラ企画として、これまでvol.8まで開催をつづけることができました。
オリーブ農家に会いに行ったり、島のまち並みを散策してみたり、畑で野菜を収穫し料理を作ったり。私たち自身が島の魅力を再発見しています。イベントを楽しみながら参加者の皆さんには、オリンパスカメラを貸し出し、撮影にもチャレンジしてもらいました。初対面の参加者同士でも、お互いを撮り合うなどしながら、徐々に打ち解け、毎回和気あいあいとやっています。最後にはスクリーンにプロジェクターを投影してそれぞれが撮った写真を映し出して鑑賞会をしました。同じシーンを撮っていても、一人ひとり個性あふれる写真になるからおもしろいです。
ありがたいことに、イベントをきっかけにカメラを購入して、カメラ持参で参加しつづけてくれるリピーターの方がいたことには驚きました。後日、東京や大阪で写真展を開催した時には、島外在住のイベント参加者が会いに来てくれるようなうれしい出来事もありました。
驚いたことは、毎日の写真発信をつづけていると、徐々に撮影依頼のお問い合わせをいただくようになったこと。例えば、島外の出版社から雑誌の撮影依頼をされることが増えました。地元で暮らしているからこその視点やフットワークが強みになってきたのかもしれません。
島内の企業からはHPやパンフレットで使用する商品やスタッフの撮影などを頼まれることもありました。発信をつづけてきたことで、地元からも信頼されるようになってきたことはうれしいことです。今年からは行政からの依頼でまちのアーカイブ写真の撮影をはじめています。数十年後に写真を振り返った時にはどんな発見があるのでしょう。今から楽しみです。
依頼はその都度、チームで取り組んだり、時にはやりたい人、できる人が担当したりして引き受けてきました。小豆島カメラへの依頼のほかにも、それぞれ個人で声をかけてもらい撮影することも増えました。独立して本格的に出張写真館をはじめたメンバーもいます。カメラがそれぞれの本業に活かされているのを感じています。
写真を撮ることや発信することが好きで、2013年から小豆島カメラの活動を続けてきました。ほぼ毎日WebサイトやSNSに投稿してきた写真は2000枚以上アーカイブされています。それ以外にも撮影してきた写真をあわせればその10倍以上はあるはず。
当たり前にあると思っていた風景や行事、人々はもう数年後にはそこには存在しないこともあり、変わっていく島の様子を私たちは知らないうちにアーカイブしていたんだなと改めて気づきます。活動を続けていくことで得られたものがたくさんあります。
私たちには撮り続けてきた写真という財産があり、これは私たち小豆島カメラだけのものじゃなく、「小豆島」という地域の財産だと思っています。それから共に活動を続けてきた仲間や写真を通して地域の人々とのつながり。そして何年も撮り続けてきたことで得られた信頼、それが新しい仕事や次のおもしろいことにつながっていきます。
地域の活動を続けいていくことはとても大変です。大変な時もありますが、自分たちのできるペースで長く楽しく、自分たちがしたいことを続けていけたらいいのかなと思っています。