Photo Recipe(フォトレシピ)
海外探鳥のすすめ
~旅支度と観察・撮影のノウハウと作例~
撮影・解説 : 川辺 洪
Official Home Page:BirdingHolic
2026年4月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
皆さんは、海外でバードウォッチングや野鳥撮影をしたことがありますか?
――私はかつて、日本国内でのみ活動していました。しかし、海を越えて世界を行き来する渡り鳥たちを何度も目にするうちに、ふと気づいたのです。
「鳥にとって、国境なんてものはないのだ」と。
国境とは人間が勝手に線引きした概念に過ぎず、鳥たちはそんなものに囚われることなく、自由に生きています。その瞬間、私の中で何かがぱっと開けたような感覚がありました。そして同時に、海外探鳥や異国の鳥たちへの憧れが、強く芽生えていったのです。
確かに海外への渡航は、言語の壁や土地勘のなさなどもあり、国内での活動に比べてハードルが高いものです。しかし、抑えきれない好奇心の前では、そうした障壁も決して大きなものではありません。
旅行の支度をしよう
海外旅行の準備のコツは、できるだけ荷物を少なく、軽く、必要最低限に抑えることです。旅行はできるだけ快適に楽しみたいものです。軽量かつコンパクトなOM SYSTEMの機材は、撮影時はもちろん、移動時の負担も軽減してくれます。以下にパッキングの例を紹介します。

ザックには、双眼鏡とカメラ一式に加え、サブレンズや予備バッテリー、モバイルバッテリー、機内で予習したい鳥の図鑑、上着などを入れています。ザック自体は防水性のあるものを選ぶと、そのまま現地での行動用としても使えます。
双眼鏡やカメラのような光学機器は、航空機の預け手荷物(受託手荷物)に入れると、衝撃による破損や光軸のズレが生じるリスクがあるため、必ず機内持ち込み手荷物に入れます。また、カメラのバッテリーやモバイルバッテリーは規定により預け手荷物には入れられないため、こちらも機内持ち込みとします。航空会社によって規定は異なるため事前確認が必要ですが、機内持ち込み手荷物の重量制限が7kgまでという場合もあり、注意が必要です。
さらに、身の回り品として小型のボディバッグを別に用意し、スマートフォン、財布、パスポート、筆記用具、常備薬などを入れています。

三脚、フィールドスコープ、長靴、帽子*、ポイズンリムーバー*、チックツイスター*、レインコート上下*、インフレータブル座布団*、日焼け止め*、トイレットペーパー*、充電器類、ドライヤー、カトラリーなどを入れています。
*印のものは、現地到着後に活動用のリュックへ詰め替えます。
画像には写っていませんが、これらに加えて、訪問先の気候に応じて衣類を選び、追加します。
ポイズンリムーバーやチックツイスターは、毒蛇や有毒の虫、ダニに咬まれた際の応急処置用として、携行しておくと安心です。
傘は手がふさがり、観察や撮影の妨げになるため、上下セパレートのレインコートをおすすめします。
ナイフやカトラリーは、現地の露店で果物などを購入して食べる際に便利です。ただし、規定により機内持ち込み手荷物には入れられないため、預け手荷物に入れる必要があります。
湿潤なボルネオやスマトラの熱帯雨林で
東南アジアの島嶼地域は、島ごとに多様に分化した固有種が多く、それらをターゲットに探鳥する楽しみがあります。雨が多く湿度も高いため、観察・撮影には防水性の高い機材が推奨されます。
1. コシアカキジ Bornean Crested Fireback
ボルネオ島の固有種であるキジの仲間で、日中でも暗い原生林の林床を歩き回っていました。こうした暗い環境では、撮影はスローシャッターになりがちです。低速シャッターでも強力な手ぶれ補正のおかげで、手持ちでもブレの少ないシャープな写真を撮ることができました。さらに、木に体を添えるなどの工夫をすることで、よりシャッタースピードを落とすことも可能です。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 PRO
600mm相当*, Mモード, 1/10秒, F4.0, ISO 125
2. ラジャーオオコノハズク Rajah Scops Owl
夜行性のフクロウ類は、日中はこのような藪の中でねぐらをとる種が多く見られます。「小さい・遠い」鳥を撮影した直後に、「大きい・近い」鳥の出現へ瞬時に対応するには、ズームレンズが最適です。レンズ交換の手間が省けるため、休息中の鳥に余計なプレッシャーを与えずに済みます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
246mm相当*, Mモード, 1/20秒, F5.4, ISO 200
3. スマトラハシリカッコウ Sumatran Ground Cuckoo
1916年以降、約80年間まったく記録がなく、絶滅した可能性も疑われていましたが、20世紀末に劇的に再発見された、まさに幻の鳥です。生態はほとんど解明されておらず、このような雌雄ペアで撮影された画像は、生態学的にも貴重な資料となるでしょう。2羽ともに顔へしっかりとピントを合わせることができました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II
246mm相当*, Mモード, 1/5秒, F5.4, ISO 200
4. Paralaxita属のシジミタテハのなかま
鳥を探して森の中のトレイルを歩いていると、すぐ近くにとても美しいチョウがとまりました。鳥を目的に訪れていても、こうした他の生き物をあわせて観察できるのも楽しみのひとつです。
望遠マクロ的な使い方により、鳥用の装備のまま撮影することができました。このような場面では、最短合焦距離の短いレンズの強みが活きます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
800mm相当*, Mモード, 1/10秒, F6.3, ISO 1000
どこまでも広がるモンゴルの平原で
モンゴルは大陸系の鳥の宝庫で、日本では非常に珍しい鳥が、現地ではありふれた種であることも少なくありません。ときに砂嵐が発生するため、防塵性能の高い機材が求められます。明るい環境がほとんどであるため、撮影に三脚は必須ではありません。その分、荷物も軽くなります。壮大な風景の中で鳥を観察するのは、最高の体験です。
5. アカツクシガモ Ruddy Shelduck
遠くに丘陵を望む平原を飛ぶ、アカツクシガモのペアを見つけました。風景のスケールが大きく、どのような被写体でも絵になる環境です。日本では、数少ない冬鳥として記録されています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
800mm相当*, Mモード, 1/1250秒, F6.3, ISO 200
6. ハジロクロハラアジサシ White-winged Tern
翼が白く体が黒い、美しい淡水性のアジサシの仲間です。日本でも渡りの季節に見られることがありますが、これほどの数が見られる機会はめったにありません。雄大な風景の中を群れで飛ぶ様子を、ズームレンズのワイド端を使って広角気味に撮影しました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
200mm相当*, Mモード, 1/2000秒, F6.3, ISO 200
7. Pulsatilla属のオキナグサのなかま
モンゴルでは、遅い春の訪れとともに草原の草花が一斉に開花します。鳥を目的に訪れていても、こうした植物を観察するのも楽しみのひとつです。サブレンズを携行すれば、より多様な表現が可能になります。このような構図では、バリアングルモニターを活用することで、地面に寝そべることなく撮影できます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-200mm F3.5-6.3
24mm相当*, Mモード, 1/1250秒, F5.0, ISO 200
霧の立ち込める秘境、中国の山岳地帯で
国土の広い中国には多様な環境がありますが、なかでも特に魅力的なのが山岳地帯です。何種もの見応えのあるキジ類が生息し、マシコ類やムシクイ類、チメドリ類も豊富に見られます。本場の中華料理が美味しいのも、大きな楽しみのひとつです。
8. ジュケイ Cabot's Tragopan
常緑広葉樹と松が混在する岩場の多い低山には、ジュケイという中型のキジが生息しています。山頂から延びる尾根を立体的に利用して生活しており、樹上に上がることも少なくありません。この雄は、すぐ下の藪にいる雌の様子をうかがうため、樹上でぴたりと動きを止めました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II
684mm相当*, Mモード, 1/50秒, F6.3, ISO 320
先ほど紹介したのと同じシーンです。ジュケイのとまったのが枝ぶりの良い松の木だったので、ズームレンズの特性を活かして思い切って引きの構図でも撮影してみました。環境を大きく取り入れた写真も、また面白いものです。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II
200mm相当*, Mモード, 1/50秒, F5.0, ISO 200
鳥が思いのほか近づいた場面では、ディテールを細密に表現できるアップの構図も試してみるとよいでしょう。顔だけでなく、体や足、尾羽などにクローズアップして撮影するのも楽しみ方のひとつです。その鳥ならではの色や構造を、よりじっくり観察することができます。切り取り方には、撮影者のセンスが問われます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II
800mm相当*, Mモード, 1/50秒, F6.3, ISO 200
雨が降ると、山地はたちまち霧に包まれます。視界がほとんど利かないほどの濃霧となったため、試しに撮影してみました。これほどの濃霧の中でも、AI被写体認識AFの「鳥モード」は鳥の顔にピントを合わせてくれて驚きました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II
420mm相当*, Mモード, 1/20秒, F6.0, ISO 80
こちらはジュケイの雌で、先ほどまでの雄とは大きく印象が異なります。このように、雌雄で色や大きさ、形などに違いが見られることを、生物学では「性的二形」といいます。
では、なぜ雄は派手で雌は地味なのでしょうか。キジのなかまは、雌が繁殖相手となる雄を選ぶという繁殖戦略をとっています。そのため雄は、目立つ色彩や美しい羽、派手な行動によって、自身の遺伝的な優位性をアピールします。結果として、雄は選ばれるために華やかに進化し、雌は外敵から身を守りつつ抱卵や育雛を行うため、目立たない姿へと進化したのです。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS II
584mm相当*, Mモード, 1/50秒, F6.2, ISO 125
さいごに
海外探鳥の経験がない方は、本記事をきっかけに、ぜひ一歩踏み出してみてください。すでに訪れたことがある方も、装備の選び方や作例を参考にしていただければ幸いです。
*35mm判換算値
川辺 洪
1987年、東京生まれ。探鳥家。幼少のころ、今は亡き父の影響で鳥の観察を始める。社会人になってからは国内のみならず海外へ赴きライフリストを数える。近年は、キジ類を求めてアジアの秘境を駆ける。
『BIRDER』(文一総合出版)にて記事「キジの棲むアジアの秘境を訪ねて」連載中。
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