カメラアイコン Photo Recipe(フォトレシピ)

コンピュテーショナルフォトグラフィで撮る星空

写真家 北山 輝泰

撮影・解説 : 写真家 北山 輝泰

Official Home Page:Starry Works

2025年12月公開

カメラアイコン 記事内で使用した
レンズをご紹介

この記事について

みなさん、こんにちは。星景写真家の北山です。OM フォトライフでは、これまで星景写真にまつわる様々な記事を執筆してまいりましたが、今回はコンピュテーショナルフォトグラフィ機能を使って撮る星空についてご紹介いたします。作品のワンランクアップを目指している方におすすめの内容ですのでぜひ最後までご覧ください。

コンピュテーショナルフォトグラフィとは

コンピュテーショナルフォトグラフィとは、カメラ内で複数枚の写真を合成して、一枚撮りでは表現できない写真を作り出す先進的な機能です。従来、パソコンを使わないと作れなかった写真や、特殊なフィルターを使って撮影していたような写真をカメラ内合成で作れるようになります。以下がコンピュテーショナルフォトグラフィの機能一覧です。

  • ・ライブND機能
  • ・ライブGND機能
  • ・ライブコンポジット機能
  • ・ハイレゾショット(手持ち/三脚)
  • ・深度合成
  • ・多重露出

特にこの中でも「ライブGND機能」、「ライブコンポジット機能」、「ハイレゾショット(手持ち/三脚)」が主に星空撮影で使えるおすすめの機能になります。

ライブGND機能

GNDとは「グラデーションND」の略です。ND撮影とは、光量がある被写体を撮影する際に、レンズ前面から入ってくる光の量を減らして、遅いシャッタースピードで撮影できるようにすることを言いますが、GNDとは光量を減らす部分と減らさない部分とを分けて撮影したい時に使う方法です。ライブとついているのは、その一連の作業をモニターでリアルタイムで確認しながら行えることを意味しています。物理的な角形フィルターを使って撮影を行う通常のGND撮影とは異なり、画像合成で作り出す電子的なフィルターになりますので、M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PROや、M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PROなどの前玉が繰り出していて角形フィルターしか取り付けられないレンズでもGND撮影を行うことができます。

GND撮影が必要になる撮影シチュエーションとしては、主に

  • ・朝 / 夕の薄明の空と星空を撮影する時
  • ・明るい都市夜景と星空を撮影する時

です。以下がその作例です。
GNDの効果が分かるようにBefore、Afterの2枚をご紹介いたします。

諏訪湖を見下ろす高台から撮影。日の入りの瞬間を狙ったが、手前の風景を基準に露出を決めると空は白飛びしてしまう。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
14mm相当*, Mモード, 1/200秒, F5.0, ISO 500

同じ構図でライブGND機能を使って撮影を行った。空の白飛びが抑えられて自然な写真にすることができた。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
14mm相当*, Mモード, 1/200秒, F5.0, ISO 500
ライブGND(ND08,Soft)

黎明の時間に月と金星を撮影した。日の出が迫っていることもあり、地平線付近が明るく写ってしまった。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
34mm相当*, Mモード, 1秒, F1.8, ISO 2000

空の半分から地上にかけてGNDを少しだけかけて撮影した。明るさが抑えられ、月と金星の美しさが際立つ写真になった。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
34mm相当*, Mモード, 1秒, F1.8, ISO 2000
ライブGND(ND02,Soft)

薄暮の時間に昇る満月を撮影した。地上の夜景に露出を合わせると月が露出オーバーになってしまう。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当*, Mモード, 1/5秒, F5.6, ISO 640

夜空の半分から上にGNDをかけて撮影した。月の白飛びが抑えられ、クレーターが見えるようになった。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当*, Mモード, 1/5秒, F5.6, ISO 1250
ライブGND(ND08,Soft)

NDの濃度は【2】【4】【8】の3種類から選ぶことができ、数字が増えるほど減光率は大きくなります。境界線のグラデーション方式は【Soft】【Medium】【Hard】の3種類から選ぶことができ、順に境界線がはっきりとしていきます。境界線の傾き及び位置調整は画像のどの部分にND効果を付与したいかを決めるためのもので、十字キーや前後のダイヤルを使って、ライブビュー上に映し出される線を見ながら調整を行うことができます。

星景撮影で私が良く使用しているのはNDの濃度が【2】または【4】で、グラデーション方式は【Soft】です。私が好む地上景色は割と起伏に富んだものが多いため、Softを選択していますが、例えば水平線がはっきりしているような海岸で撮影するような時はMediumまたはHardでもいいでしょう。

ライブコンポジット機能

続いてご紹介するのが「ライブコンポジット機能」です。コンピュテーショナルフォトグラフィという区分が生まれる以前からある機能で、OM SYSTEMのカメラを代表する機能と言えるでしょう。ライブコンポジットとは、カメラ内で比較明合成を行える機能のことで、リアルタイムで合成結果を確認できることから”ライブ”コンポジットとついています。
比較明合成とは、一定間隔で撮影した画像を比較しながら明るくなった箇所のみ合成する技法です。代表的な撮影被写体は以下の通りです。

  • 星の日周運動
  • ISS(国際宇宙ステーション)の通過
  • ・蛍の飛翔
  • ・花火
  • ・車、船、飛行機などの光跡撮影

この機能が優れているのは以下の2点です。

  • ・ライブビュー上で合成結果をリアルタイムで確認できること
  • ・合成した後の結果が一枚のデータ(JPEG、RAW)で手に入ること

合成結果をリアルタイムで確認できるメリットは、星の光跡がどれくらい繋がったかを確認し、自分の理想とする長さで止められることと、撮影中の意図しない余計な光の映り込みによる失敗に即座に気がつけることです。長時間かけて撮影を行わなければならない星の光跡撮影では、一つの失敗がもたらす影響が大きいため、確認しながら撮影を行えることはとても重要です。
次に合成した後の結果が一枚だけデータで保存されるメリットは、明るい都市夜景を被写体にした撮影や、薄暮から夜までの明るさが変わる時間帯での撮影時などに、一コマあたりのシャッタースピードが早くなってしまうようなシチュエーションの際、膨大なデータを撮影することなく一枚の比較明合成写真を作れることにあります。もちろん、場合によっては一コマずつのデータが必要になる場合もありますが、その時はインターバル撮影機能を使うようにしましょう。

冬の星座の主役であるオリオン座をライブコンポジットで撮影した。点像に比べると動きがはっきりとした写真になり、夜空を駆け上がるオリオンの姿を表現することができた。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
28mm相当*, Mモード, 60秒, F5.6, ISO 6400
ライブコンポジット 11コマ

北の空を横断する国際宇宙ステーションをライブコンポジットで撮影した。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
16mm相当*, Mモード, 5秒, F1.8, ISO 200
ライブコンポジット 288コマ

ハイレゾショット機能

最後にご紹介するのが、こちらもOM SYSTEMのカメラの象徴的機能「ハイレゾショット」です。ハイレゾとは、ハイレゾリューション(高解像度)の略で、撮影時にイメージセンサーを微小にシフトさせながら連写した写真を合成し、高解像度の写真を作る機能です。強力な手ぶれ補正性能を持つOM SYSTEMのカメラだからこそ出来る、高解像の撮影機能として多くのカメラマンに愛されています。ハイレゾショットには、三脚ハイレゾショットと手持ちハイレゾショットの2種類の方法がありますが、星景写真ではどちらも使います。ちなみにOM-1やOM-3シリーズの場合、三脚ハイレゾショットは8枚の画像、手持ちハイレゾショットは12枚の画像を合成して1枚の写真を作ります。

なぜ星空撮影でハイレゾショットを使うかですが、合成する過程で高感度ノイズが少なくなるという効果を得られるためです。高感度ノイズとは、ISO感度を高くした時に発生する特有のノイズ(ざらつき)ですが、作品の印象を左右するものですからできる限り目立たせたくないというのが本音です。ハイレゾショット時の合成で高感度ノイズが減る理由は、天体写真の高感度ノイズ除去でしばしば使われる「加算平均合成」に近い合成がハイレゾショット時に行われているからです。

三脚ハイレゾショットと手持ちハイレゾショットの使い分けについてお話しします。はじめに三脚ハイレゾショットですが、星景撮影で使用するとライブコンポジットに近い星が線像の写真を作り出すことができます。ただよく見ると星空の光跡の明るさや量に違いがあるのが分かります。比較明合成とは異なる合成方法のためこのような結果になりますが、フィルム時代から星空撮影をしているような方にはフィルムの長時間露光に近い写りをするこちらの撮影方法が馴染みがあるかもしれません。また別の使い方としては、月を被写体に撮影する際に、焦点距離が足りず月の大きさが物足りないなと感じることがありますが、最大で約8,000万画素で撮影できる三脚ハイレゾショットを用いれば、トリミングをしても解像度が高い写真を残すことができます。

三脚ハイレゾショットで夏の大三角形が空を昇る様子を撮影した。1コマあたり60秒の露光で8枚撮影を行ったため、合計で480秒分の動きが合成されている。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
24mm相当*, Mモード, 60秒, F2.8, ISO 1600
三脚ハイレゾショット

こちらは、ライブコンポジット機能で撮影した写真。同じ480秒分の光跡が写っているが、星の存在感が激しい写真になっている。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
24mm相当*, Mモード, 60秒, F2.8, ISO 1600
ライブコンポジット 8コマ

M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROに1.4倍のテレコンバーターをつけて撮影を行った。富士山から月が昇る様子だが、月の大きさが少し物足りない。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 300mm F4.0 IS PROMC-14
840mm相当*, Mモード, 1/400秒, F7.1, ISO 200
三脚ハイレゾショット

同じ写真を約1500万画素までトリミングした。焦点距離に換算するとおよそ1940mm相当*で撮影した月の大きさとなり、迫力際立つ作品にすることができた。

トリミングをしたもの

次に手持ちハイレゾショットですが、こちらは手もち撮影時の手ブレを検知して、風景がずれないようにイメージセンサーの位置調整をしながら合成を行う機能です。”手持ち”ハイレゾショットという名称の通り、本来は三脚を使わない撮影時に使う機能ではありますが、星景撮影では三脚に載せて使用します。合成結果ですが、12枚合成する過程で本来であればズレてしまうはずの星の位置が一つに重なります。代償として、風景がずれてしまったり、画像隅の星がわずかにいびつな形になってしまうことがありますが、撮影する被写体を選べばそこまで気になりません。ちなみに私の場合は、赤道儀を使って追尾撮影をする際に手持ちハイレゾショット機能を使うことが多いです。

天の川が昇る様子を一枚撮りした。高感度で撮影したため、若干高感度ノイズが気になる写真になってしまった。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
28mm相当*, Mモード, 15秒, F2.8, ISO 6400
通常撮影

同じ構図で手持ちハイレゾショットを使って撮影を行った。1コマあたり15秒で12コマ分合成したため、本来であれば180秒分星が光跡となって写るはずだが、合成の過程で星の位置を重ね合わせてくれている。ただし地上風景はぶれてしまっている。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO
28mm相当*, Mモード, 15秒, F2.8, ISO 6400
手持ちハイレゾショット

赤道儀を使って星を追尾しながら手持ちハイレゾショットで撮影を行った。一枚撮りよりも高感度ノイズが少なく、かつ高画素の写真が手に入るため、赤道儀を使った星野写真や天体写真と手持ちハイレゾショットはとても相性が良い。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
80mm相当*, Mモード, 30秒, F2.8, ISO 3200
手持ちハイレゾショット

終わりに

今回はコンピュテーショナルフォトグラフィ機能を使って撮る星空についてご紹介いたしました。星景撮影のスタートは1枚綺麗な星景写真が撮れる設定や機材の扱い方を身につけることですが、撮影経験を積み余裕が生まれてくると、色々な撮影に挑戦してみたくなるはずです。

今回ご紹介したコンピュテーショナルフォトグラフィ機能はまさにそのステップアップの撮影に役に立つ機能と言えるでしょう。今回も最後までお読みいただきありがとうございました。星景写真家の北山輝泰でした!

*35mm判換算値

北山 輝泰

北山 輝泰

1986年東京生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業。在学中、授業で天体望遠鏡を 使った撮影を行なったことがきっかけで、宇宙への興味関心が強まる。卒業後、福島 県鮫川村に移住し、村営の天文台で星空のインストラクターをしながら、本格的に天 体写真と星景写真を撮り始める。その後、天体望遠鏡メーカーに就職。2017年に星 景写真家として独立をし、国内、海外問わず、各地で星空の撮影を行っている。また、天文雑誌「星ナビ」のライターとして、定期的に執筆活動も行なっている。オーロラ、皆既月食、皆既日食など様々な天文現象を見て行く中で、この感動をより多くの人と共有していきたいという想いを持ち、2018年に「NIGHT PHOTO TOURS」を立ち上げる。自身が代表を務める傍ら、講師として、夜をテーマにした様々な撮影ワークショップを企画・運営している。

Official Home Page:Starry Works

カメラアイコン記事内で使用した
レンズをご紹介

カメラアイコン合わせて読みたい:
フォトレシピ・インタビュー