Photo Recipe(フォトレシピ)
ボケにこだわる、イルミネーション撮影!
撮影・解説 : 写真家 吉住 志穂
2025年11月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
11月の中旬にもなると、夜景やイルミネーションの撮影する機会が増えてきますね。
今回の記事では、「イルミネーション撮影のきほん」として、背景のぼかし方、多重露出や露光間ズームなど作例をふまえて、カメラの設定や撮影のテクニックをご紹介します。
イルミネーション撮影のきほん
用意するもの
カメラとレンズはもちろん、暗いシーンではシャッター速度が遅くなりがちなので、三脚があると安定します。カメラを乗せたときにぐらつかない程度の強度があるものを選びましょう。さらにケーブルレリーズやワイヤレスリモコン、2秒セルフタイマーを利用すれば、カメラに触れることなくシャッターが切れるので、より微細なブレをも防ぐことができます。三脚を広げる時は通行人の足に当たらないように配慮することも忘れずに。
OM SYSTEMのカメラは手ぶれ補正機能が強力なのに加え、高感度の画質も向上しているので、イルミネーションが明るい場所では手持ちでも撮影ができます。 しかし、必ずぶれないわけではないので、シャッター速度に注意しつつ、しっかとり構えてブレを防ぎましょう。また、暗い中では小さなライトを持っておくと便利です。カメラの操作に慣れないうちはライトで照らしながら操作しましょう。
基本設定
私の場合、撮影モードは絞り優先撮影(Aモード)を選ぶことが多いです。背景をぼかしたい場合は絞りを開け、風景的に夜景を撮る時はF8前後まで絞ります。しかし、手持ちで撮影する時は感度が高くなるのを防ぐため、絞りは開放付近を選んでいます。また、水面や乗り物など動きのある被写体の場合はシャッター優先撮影(Sモード)にして適切な速度を選んで撮影しています。
ISO感度の設定は手持ちで撮るか、三脚を使用するのかで変えたいですね。手持ちの場合はとにかくブレを防ぎたいのでISOオートにすれば自動で最適な感度が選ばれます。しかし、三脚使用時にオートを選ぶのは△。せっかく三脚を使用しているのに感度が上がってしまうのはもったい無いですよね。三脚を使っていればシャッター速度が遅くてもカメラブレの心配はないので、ISO感度をISO200に低く抑えて、画質を優先しましょう。
1. ベストタイム
夜景は真っ暗になってから撮影するというイメージがありますが、真っ暗になる前の時間におすすめのベストタイムがあります。それが日没からおおよそ30分後。日没時はまだ空が明るいので夜景は目立ちませんが、次第に空が暗くなり街の明かりが目立っていきます。それでいて空はまだ真っ黒ではなくトーンを残しています。これが日没から約30分後のベストタイムです。さらに空は黒くなり、日没から1時間後には空は完全に黒になります。日没から真っ暗になる間のわずかな時間が夜景撮影のベストタイム。数分ごとに様子が刻々と変わっていくので一日に一度しかないチャンスを逃さず捉えましょう。

日没から約30分後の撮影。空のトーンも残り、夜景も目立つベストタイム。日没から約20分後だと、空が明るくて、夜景がまだ目立たず、日没から約40分後だと、夜景は目立つが、空が暗い。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
24mm相当*, Aモード, 4秒, F16, ISO 200
2. ホワイトバランス
イルミネーションの光を表現するにはホワイトバランス(以下WB)の設定が重要です。ホワイトバランスとはさまざまな光源のもとでも白い被写体を白く写すための機能です。ホワイトバランスを変えて撮影した4枚の写真を見比べてみましょう。画像左上のAWB(オートホワイトバランス)での撮影では、自動で光の色を補正するのでビルの窓の色が白色に写されていますね。しかし、画像右下のWB晴天で撮影したほうが実際の色に近いのです。色の補正がかからないモードなので、夜景の色をそのままに再現したい場合はWB晴天を使います。また色を加えるフィルターとしてWB電球は青くなる、WB蛍光灯は赤紫色になるというのを知っておくと違ったイメージに仕上げる楽しさが出てきますよ。

こちらはWB晴天での撮影。イルミネーションを見て、仕上げたいイメージに合ったホワイトバランスを選びましょう。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
24mm相当*, Aモード, 1秒, F11, ISO 200
WB:晴天(5300K)
3. レンズ
標準ズームレンズが一本あればいろいろな撮影ができますが、シーンに合わせて広角ズーム、望遠ズームなど豊富な交換レンズで撮影の幅を広げることができます。単焦点レンズはズームができませんが、いずれのレンズも絞りの開放値が明るいので、背景を大きくぼかしたり、暗所でも速いシャッター速度が得られたりというメリットがあります。イルミネーションをぼかすにはぴったりですね。
45mm F1.8の単焦点レンズを使ってクリスマスマーケットのくるみ割り人形をクローズアップ。絞りの開放値が明るいので、手持ちでもISO感度を抑えることができます。絞り開放で撮影したので背景に輝く丸いボケを入れることもできました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
90mm相当*, Aモード, 1/20秒, F1.8, ISO 200
4. ボケ
背景をぼかすには「絞りを開ける」「焦点距離を長くする」「被写体に近づく」「被写体と背景が離れている」という4つの要素を取り入れます。大きくぼかすのが正解ではないので、ボケの要素を足し引きして理想的なボケ量を探っていきましょう。
ボケは背景だけではなく主役の前側にも現れます。「背景ボケ」に対して「前ボケ」と呼ばれ、主役を前後のボケで包み込むこともできます。前ボケの作り方は「絞りを開ける」「焦点距離を長くする」は同じで「被写体に近づく→前ボケになる被写体に近づく」「被写体と背景が離れている→被写体と前景が離れている」となります。
背景ボケ
2枚の作例は同じようなシーンですが、焦点距離と撮影距離が違っています。焦点距離が長く、被写体に近づくほど背景のボケが大きくなっているのがわかります。絞りでもボケ量は変えられますが、丸ボケを写すときに絞り込むと円形のボケが角張るので、焦点距離や撮影距離でボケ量をコントロールするといいですよ。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
80mm相当*, Aモード, 1/80秒, F2.8, ISO 1600
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
158mm相当*, Aモード, 1/160秒, F2.8, ISO 2000
前ボケ
光が雪のように浮かんでいるようです。前ボケを作るには主役より前側にイルミネーションがある必要があります。ここでは奥のツリーにピントを合わせ、手前のイルミネーションをぼかしています。コードが写ってしまいそうですが、大きくボケているのと、黒っぽい色なので目立ちません。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
220mm相当*, Aモード, 1/20秒, F2.8, ISO 200
前後ボケ
やや奥にある被写体にピントを合わせることで前後にボケをつくることができます。前ボケが入れば奥行き感も出ますし、主役を上下のボケでふんわりとボケで包むことができます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
300mm相当*, Aモード, 1/80秒, F4.0, ISO 200
5. スローシャッター
夜の撮影は暗いので自然とシャッター速度は遅めになります。それをプラスに考えてスローシャッターの世界を楽しみましょう。動いている人、乗り物、そして波立った水も撮ってみると肉眼で見るのとは違った世界に写るのでとても面白いですよ。三脚は必須なので、ISO感度は低く固定し、シャッター優先撮影(Sモード)で好みのシャッター速度を選びましょう。
夜の遊園地は被写体の宝庫。複雑な動きをする乗り物たちの光の軌跡を写しましょう。人が乗る部分がそれぞれ上下運動しながら全体的に回転する乗り物。暗く、動きが速いので乗り物自体は写りませんが、明るい光の軌跡だけが写って不思議な造形を描き出しています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
24mm相当*, Sモード, 13秒, F18, ISO 200
運河に浮かぶ美しい建物。0.5秒では水面はさざ波立って見えますが、30秒のスローシャッターになると波と波が重なり合って陰影がなくなり、穏やかな水面に感じられます。また黒い部分が消えるので、映り込みもより明るく感じられますね。ゆっくりと動く観覧車も30秒もあれば回転している様子が出てきます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
26mm相当*, Aモード, 1/2秒, F2.8, ISO 100
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
26mm相当*, Aモード, 30秒, F22, ISO 100
6. フィルター効果
光がメインの撮影では物理的なフィルターを使って雰囲気を変えてみるのも楽しいです。夜景撮影におすすめの2種類のフィルターをご紹介しましょう。ひとつはソフトフィルターで、光を滲ませることで柔らかな雰囲気を作り出すことができます。ポートレート、テーブルフォト、スナップなど、夜景以外のシーンでも活躍します。明るい部分ほど効果を強く感じるのでイルミネーション撮影にはぴったりですね。もうひとつはクロスフィルターです。表面に格子状に溝が掘られていて、点光源に光の筋が現れます。溝の本数と同じ4本、6本、8本のタイプがあります。光が強いほど光の筋は強く、はっきりと現れます。
OM SYSTEMのカメラには撮影時にクロスフィルターのような効果を追加できる撮影機能が搭載されています。アートフィルターの効果の1つ、スターライト効果です。
アートフィルターの種類によって効果が選べるものと選べないものがある、この効果単体では使えないなどの制約がありますが、市販されているクロスフィルター同様の効果を発揮しますので、イルミネーション撮影において大変魅力的な機能です。
またRAWで記録しておけば、撮影の後から画像編集ソフト「OM Workspace」でアートフィルターや、フィルター効果をかけることもできます。物理的なレンズのフィルターを持っていなくても、手軽にソフト効果を得られるのでとても便利です。
7. 多重露出&画像合成
OM SYSTEMのカメラには多彩な多重露出・画像合成機能が搭載されています。
多重露出モードでは、一枚目の撮影結果をファインダーや背面モニターに表示した状態で、二枚目の画像を撮影し、合成をする事ができます。さらに「再生画+多重」を選べば、軸となる画像に画像を次々と重ねていくことができます。
また、すでに撮影した画像同士を重ねる「画像合成」もあります。記録メディア内のRAW画像を2枚、または3枚を選択し、カメラ内で合成することができます。合成は画像編集ソフトウェア OM Workspaceでも可能です。
多重露出や画像合成のパターンとしては同じ構図でピントを合わせた画像にぼかした画像を重ねるやり方があります。芯はあるのに滲みのある柔らかな画像になって幻想的な写真になります。ボケ量はピントを外す度合いで変えることができ、ピントを外したい時はマニュアルフォーカスに切り替えるか、AFモードをAF+MFを選んでおくと便利です。
全く別のシーンにボケ画像を重ねるのもおすすめです。夜景の画像にハート型のイルミネーションをぼかした画像を重ねました。シャープな画像同士を重ねるのは難しいので、シャープな画像とボケ画像を重ねる方法からスタートしてみましょう。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
多重露出
8. 露光間ズーム
画像が飛び出したように写る「露光間ズーム」。シャッターを開いている間にズームリングを動かして画角を変化させることで、光の軌跡が放射状になって写ります。ズームを動かすという操作ができる程度のシャッター速度を選ぶ必要があるので、速くても2秒くらいに設定しましょう。広角から望遠、望遠から広角のどちらでも構いませんが、望遠側の画角でとどまる時間が長めになると光が中心から外へ放出したように写ります。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROのレンズを使い、シャッターボタンを押した後に、焦点距離の中望遠域64mmから、広角側の40mmまで、ズームリングを動かしました。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
80mm相当*, Aモード, 2秒, F18, ISO 80
応用編として、露光間ズームの作品に別作品を重ねて多重露出で仕上げてみました。
まずは画角変化を利用した露光間ズームで飛び出したような画像を作ります。その画像に多重露出、または画像合成でボケ画像を重ねると、宇宙空間のような輝きと動きのある写真になります。
まとめ
夜景やイルミネーションの撮影はいろいろな楽しみ方がありますね。スローシャッターならではの動感表現や露光間ズーミング、点光源のボケやアートフィルターを利用するなど、複数の機能やテクニックを駆使してイメージに合う作品に仕上げてみてください。目で見るのとは違った輝きの世界が広がりますよ。
*35mm判換算値
吉住 志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。高校生の頃から撮影を始め、それ以来、写真ひとすじで今に至る。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマにクローズアップを中心として作品を発表している。女性ならではの視点で捉えた作品が多く、写真展「花時間」では和紙にプリントし、掛け軸に仕立てた作品が好評を博す。また、写真誌やWebでの解説や撮影講座の講師を務める。
日本写真家協会(JPS)会員
写真展「Heartful Flowers」「Ants」「Yin&Yang」「花時間」など

