Photo Recipe(フォトレシピ)

光と影を操り、都市に流れる時間を写す

撮影・解説 : 写真家 Amatou
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2025年10月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
OM SYSTEM OM-3は単なる高性能カメラではなく、撮り手の創造性を最大限に引き出すための表現ツールとして設計されています。今回はコンピュテーショナル フォトグラフィの機能の1つである「ハイレゾショット」の革新的な活用法と「ライブGND」、「ライブND」機能を中心に、都市景観撮影における新たな表現の可能性を探ります。
これらの機能を理解し活用することで、従来の撮影手法では実現困難だった表現領域へのアプローチが可能となります。
ハイレゾショットによる「時間の合成」という新発想
OM SYSTEMのハイレゾショット機能は本来高解像度撮影を目的として開発されましたが、その撮影プロセスには写真表現において極めて興味深い副次効果が隠されています。この機能には現在2つの撮影モードが存在しており、手持ちハイレゾショット機能では12枚(最大約5,000万画素相当)、三脚ハイレゾショット機能使用時で8枚(最大約8,000万画素相当)の画像を連続撮影し合成することで高解像の画像生成を実現しますが、この合成プロセスこそが「時間の合成」という新たな表現手法を可能にします。
具体的な計算として、手持ち撮影でシャッタースピード5秒に設定して手持ちハイレゾショットを実行すると、実際の露光効果は5秒×12枚で60秒相当の露光効果を得ることができます。日中の撮影ではシャッタースピードを5秒に設定してしまうと、露出がオーバーになってしまいますが、物理的なNDフィルターと組み合わせる事で露出を調整しています。この「時間の合成」により、雲の流れを絹のように滑らかに描写し、水面の波を平均化して鏡面のような表現を実現することが可能となります。
これは本来のハイレゾショット設計思想とは少し異なる使用法ですが、三脚の使用が困難な場所でも長時間露光表現を可能にする革新的なアプローチです。

この作品は、手持ちハイレゾショット機能とNDフィルター1000相当を組み合わせることにより実質96秒(8秒×12枚)の露光効果を得ています。上空に流れる劇的な空の表情を手持ち撮影でありながら長時間露光特有の流動的な雲の描写で捉えることができました。通常であれば三脚なしでは不可能な表現が、OM-3の革新的な機能により手持ち撮影で実現されています。
手持ち撮影の成功率を高めるためには、腕を胸に密着させて体全体でカメラをホールドするか、柵などを利用してカメラを安定させることが重要です。
風が弱く、雲の動きが少ない日は1コマのシャッタースピードを10〜15秒に延長し、合成総露光時間を120〜180秒相当まで引き上げることでより顕著な流動効果を得られます。また、露出は-0.3EV程度アンダー側で撮影しハイライトの余裕を確保することで後処理での階調調整幅を広げることができます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
24mm相当*
Aモード 8秒 F8.0 ISO 200
手持ちハイレゾショット(NDフィルター1000を併用)

ほぼ真上を見上げる撮影は通常のカメラでは構図確認が極めて困難ですが、カメラのバリアングルモニターを柔軟に活用することで無理な体勢を強いられることなく理想的なフレーミングを実現することができました。
現代建築のスカイラインを仰角で捉え、都市のスケール感と人間の視点の対比を表現することを意図しました。
2秒×12枚の手持ちハイレゾショットで実質24秒相当の露光効果を実現しています。短時間の「時間の合成」でも風が強い状況の場合は、雲の微細な動きが平均化され放射状に流れるような動的表現が可能となります。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
22mm相当*
Aモード 2秒 F8.0 ISO 200
手持ちハイレゾショット(NDフィルター64を併用)

20mm相当*の超広角レンズにより、橋の伸びやかなラインを強調しつつ、空の量感も十分に取り込むことで、画面内の力関係を明快に表現しています。
三脚の設置が困難なロケーションだったため機動性を優先して手持ちハイレゾショットを選択し、4秒×12枚の積層により実質48秒相当の長時間露光効果を狙いました。
雲が多いシチュエーションの場合、露光時間を数分相当まで伸ばすと雲が一様なベタ面になりやすいのに対し、48秒相当では雲の密度感や層の差がほどよく残り、空の表情が豊かに表現されます。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
20mm相当*
Aモード 4秒 F7.1 ISO 100
手持ちハイレゾショット(NDフィルター64を併用)
三脚使用時の超長時間露光表現
三脚を使用した三脚ハイレゾショットではさらに劇的な長時間露光効果を追求できます。8枚合成により、設定したシャッタースピードの8倍の露光時間相当の効果が得られるため、数分から十数分に及ぶ超長時間露光と同等の表現が可能となります。

この作例は、三脚使用のハイレゾショットが創造する「時間の流れ」の視覚化を象徴しています。50秒×8枚合成による実質400秒(約6分40秒)という超長時間露光により、空に展開する雲の動きを劇的に強調し、都市の静的な構造物との間に強烈なコントラストを生み出すことを意図しました。またモノクロプロファイルコントロールとの組み合わせにより色彩情報を排除し、光と影、形の純粋な美しさを追求しています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
46mm相当*
Aモード 50秒 F8.0 ISO 200
三脚ハイレゾショット(NDフィルター1000を併用)

この作例では三脚ハイレゾショットの可能性を極限まで引き出した作例です。60秒×8枚合成により驚異的な480秒(8分)という実質露光時間を実現しています。
480秒という長時間の露光により水面のあらゆる波動が完全に平均化され、理想的な鏡面状態を実現しています。
480秒という長時間露光ではわずかな振動も画質に影響します。三脚のセンターポールは極力最下段まで下げ、重心を低く保つことで微振動を抑制するようにしましょう。また、リモートケーブルやワイヤレスリモコン、またはセルフタイマーを使用しシャッターを押すことによる振動を排除しましょう。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
24mm相当*
Aモード 60秒 F8.0 ISO 200
三脚ハイレゾショット(NDフィルター1000を併用)
ハイレゾショットによる建築撮影での質感表現

複雑な幾何学的構造をハイレゾショットの高解像度特性で捉えた作例です。手持ちハイレゾショットにより通常の撮影では表現しきれない建築ディテールの微細な質感まで鮮明に描写されています。
建物表面のガラスパネル一枚一枚の境界線、金属フレームの質感、さらには反射面に映り込む周囲の建築物まですべてが精緻に表現されています。ブルーのビビッドを-2に調整することで建物の質感とディテールが際立つように仕上げています。
この調整によりガラス面の青みがかった反射が抑制され、建材本来の質感がより自然に表現されています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
32mm相当*
Aモード 1/125秒 F7.1 ISO 200
手持ちハイレゾショット、カラープロファイルコントロール
ライブGND・ライブND機能による精密な階調制御
都市景観撮影において頻繁に遭遇する高コントラスト状況ではライブGND・ライブND機能が真価を発揮します。この機能は物理的なハーフNDフィルターやNDフィルターの効果の一部をデジタルで再現し、画面内の明暗差を効果的にコントロールします。

都市の雨景において困難な撮影条件を克服した作例です。上部のビル群が昼光により白飛びするのを防ぐためライブGND機能を使用しました。
ライブGNDのND04は約2.0EV相当の減光効果を持ち、画面上部のビル群に適用することで、昼光による白飛びを効果的に抑制しています。
同時に手前の濡れた路面の反射は減光の影響を受けず、雨粒や水たまりのディテールまで鮮明に描写されています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
80mm相当*
Aモード 1/60秒 F2.8 ISO 200
ライブGND(ND04,Soft),カラープロファイルコントロール

ライブND機能は物理的なNDフィルターと異なり、ガラス要素を介さないため、マゼンタやグリーンの色被りが原理的に発生しません。
この特性により自然な色調を保持したまま長時間露光撮影が可能となり、後処理での色補正作業を大幅に軽減できます。
この作例ではさらに、ライブND機能(ND64)とNDフィルター(ND64相当)を併用して60秒という長時間露光を実現しています。ライブND機能で撮影された画像は、通常の撮影と同様にRAW形式でも記録する事ができるため、必要に応じて露出補正やカラーバランスの微調整も可能です。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
24mm相当*
Aモード 60秒 F9.0 ISO 200
ライブND(ND64), NDフィルター64を併用
都市夕景での色彩コントロール
都市夕焼けシーンでは夕焼け空だけでなく、都市の建造物をどのように表現するかが重要であり、難しいシチュエーションになります。カラープロファイルコントロールやアートフィルターを活用することでその場で感じた感動を撮影時の色彩制御により、後処理に頼ることなく理想的な色調を撮影時点で実現することができます。

夕暮れ時の劇的な色彩変化をカラープロファイルコントロールで理想的に表現した作例です。夕日の暖かな光が水面に反射して生まれる美しいグラデーションを、その場で感じた感動そのままに完成形として表現することを目指しました。
赤のビビッドを+2に設定することで、肉眼で見た時の鮮烈な色彩がそのまま写真に再現されています。
事前の色彩制御により撮影者は、「その時見た感動をその場で完成形に表現できる」という大きなメリットを享受できます。
後処理での調整に頼ることなくシャッターを切った瞬間に理想的な色調を得られることで撮影体験そのものがより豊かになります。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
150mm相当*
Aモード 1/6秒 F5.6 ISO 200
カラープロファイルコントロール

この作例はアートフィルター「ポップアートI」が生み出す創造的な視覚効果を示す代表例です。
撮って出しで高度な視覚効果を実現するこの機能により通常の撮影では表現できない幻想的で芸術的な都市景観を創造しています。
夕焼け空と夕陽を浴びた都市や水面が絵画のような鮮やかさで表現されています。この効果により現実の都市景観が芸術作品のような視覚的インパクトを持つ表現へと変化しています。
レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
76mm相当*
Aモード 1/5秒 F4.0 ISO 200
アートフィルター(ポップアートI )
まとめ
1. 都市は「線」と「面」と「時間」が交差する表現の舞台
都市風景撮影の最大の魅力は人工構造物と自然現象の予期せぬ相互作用から生まれる美しさにあります。
建築物の直線的な美しさと雲や水の流動的な動きが一つの画面内で調和する瞬間は都市でしか味わえない特別な体験です。
2. ハイレゾショットやライブGND・ライブND機能による都市撮影の自由度
ハイレゾショットの「時間の合成」機能は都市環境での長時間露光撮影に革命をもたらします。三脚設置が困難な歩道や橋上でも手持ちで数十秒から数分相当の露光効果を得られることで撮影場所の制約が大幅に軽減されます。
3. 都市撮影における注意点と配慮事項
都市風景撮影では撮影場所の安全確保と周囲への配慮が最重要です。
交通量の多い場所や高所での撮影では安全を最優先に行動し、特に長時間露光時では通行人の迷惑にならないよう注意深く撮影位置を選択することで作品作りと社会的マナーを両立することができます。
OM-3の革新的な機能群は都市風景撮影において新たな表現の地平を切り拓きます。
建築物の静的な美しさと自然現象の動的エネルギーが織りなす都市の多面性を一台のカメラで包括的に表現できる時代が到来しました。コンクリートとガラスに囲まれた空間にも光と影が織りなす詩的な瞬間が無数に存在し、ファインダーの中で新たな物語として結実するはずです。
時間と光を自在に操るOM SYSTEMの機材とともに都市という巨大なキャンバスにあなただけの表現を描いてください。
*35mm判換算値

Amatou
1995年千葉県生まれ。非現実的な都市景観の表現をコンセプトとしたファインアートフォトグラフィーをメインに撮影している。
その独特な世界観が評価され、International Photography Awards、Sony World Photography Awardsをはじめ、国際的写真コンテストで数多くの上位入賞を果たす。
また、YouTubeのチャンネルを運営しており、シチュエーションごとの写真の撮り方や効果的なレタッチ方法などを発信するなど、視覚芸術の可能性を探求し、写真がもつ表現力を視聴者に伝えている。
Instagram:@amatou_0429
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