Photo Recipe(フォトレシピ)

雨の日こそ撮りたい。都市スナップ

撮影・解説 : 写真家 Amatou
2025年6月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
梅雨の足音が聞こえ始める頃、街は〈反射・逆光・拡散〉という三つの光学現象が同時に生まれる巨大なスタジオへ変貌します。
アスファルトは鏡となり、ネオンサインは濡れた壁面で多重反射し、空気中の水滴が光を柔らかく分散させます。
本フォトレシピでは、“光を掬い取る”
というコンセプトで撮影した11点の作例を通じて、雨天スナップの撮影術とOM
SYSTEMならではの機材面の考察を詳述しました。
カラープロファイルコントロール(COLOR)やカラークリエーター(CRT)などの機能が搭載されている機種をお使いの方は、そのトーン設計についてもご注目。
読み終えたとき、きっと「雨の日だから撮れない」ではなく、「雨の日こそ撮りたい」という視点へシフトしているはずです。
雨粒の質感を楽しむ
雨粒をまとったガラス壁を“前景フィルター”として採用した一枚です。 F1.2という設定で被写界深度を極端に浅く設定し、公衆電話を意図的に半フォーカスの位置に置き、ガラスに滴る雨に焦点をあてることで、主題を確定させつつ象徴性を高めました。ガラス面の雨滴は点光源を多重反射し、ミクロなハイライト群として画面中央に粒状のリズムを与えております。 カラープロファイルコントロール(COLOR)で赤・オレンジ・黄色の3色のVividを+4と上げることで背景の光がより印象的になりました。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
34mm相当*
Aモード F1.2 1/60秒 ISO 200
カラープロファイルコントロール
17 mm F1.8 IIレンズの最短撮影距離(カメラのセンサー面から0.25 m)を目いっぱい活かし、歩道脇のオブジェクトに残る雨粒へピントを合わせることで、滴の立体感や内部反射まで克明に描写しました。 カラープロファイルコントロール(COLOR)でトーンカーブを微調整し、ハイライトを抑えたシックな低彩度トーンを撮影時に確定。これにより、雨天の湿度と静けさを保ちつつ、奥のタクシーや街の色彩を必要最低限のアクセントとして残すことができました。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 17mm F1.8 II
34mm相当*
Aモード F6.3 1/160秒 ISO 800
カラープロファイルコントロール
奥行きを強調するために縦構図で撮影し、路面の反射による導線を画面右側に組み込みました。等間隔の光源がリズミカルな点滅列を形成し、視線を奥の歩行者へ導いております。
夕暮れ時の暗所での撮影でしたが、絞り値を F1.2
の開放としたことでシャッター速度を 1/160 秒
まで速くする事ができ、道路の奥を歩く歩行者をブレさせずに捉えることができました。絞り値が開放であるものの画面周辺の解像を保ち、スナップながら精緻な質感描写を可能にしております。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
34mm相当*
Aモード F1.2 1/160秒 ISO 200
OM SYSTEMのカメラの多くは IP53
相当の防塵・防滴構造を採用しており、写真のように雨粒がレンズ鏡筒や軍艦部に付着しても動作に影響はなく、設定操作も安心して続行できます。
実際の撮影では機材をタオルで拭く暇もなくシャッターを切り続けましたが、ファインダー曇りやダイヤル誤作動は一切発生せず、“雨そのものを被写体化する”という今回の撮影の自由度を大きく押し上げてくれました。
ただし、レンズやフィルターの表面に大きめの水滴が付着してしまうと、点光源のボケの中に水滴の影が映り込んでしまう事も。気になる方は、定期的にレンズ表面の水滴をブロアーで飛ばすようにしましょう。
反射や映り込みに注目する
雨夜の撮影では、標準から中望遠域の画角が効果的に機能します。カラークリエーター(CRT) でシアン系の Vivid を +4 に設定し、近未来的な都市の光を強調しました。ビル壁面の大型ディスプレイが放つシアン光を逆光源として取り込み、人物を完全なシルエットで表現。シャッター速度をできるだけ速く設定したことで、雨粒もクリアに描写できています。さらに傘の骨格を透過した光が有機的なジオメトリを描き、視覚的アクセントが付加されております。絞り開放 F1.8 により背景のネオンが柔らかく溶ける一方、優れたレンズコーティングがフレアと色かぶりを最小限に抑えています。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II
50mm相当*
Aモード F1.8 1/1600秒 ISO 400
カラークリエーター
雨脚が強いときは、水たまりに生じる波紋を狙うのも一興です。35 mm判換算50 mm相当の標準画角で歩道の水たまりを真俯瞰に切り取り、ネオンの赤紫色を“液体スクリーン”に投影することで抽象的な一枚に仕上げました。雨粒が落ちるたびに広がる波紋が幾何学模様を描くため、円形が崩れないシャッタースピードを選び、静と動のリズムを同居させています。ここではアートフィルターからネオノスタルジーを選択して、ネオンの赤紫をいっそう際立たせました。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II
50mm相当*
Aモード F1.8 1/320秒 ISO 2000
アートフィルター(ネオノスタルジー)
アスファルトの窪みにできた水たまりを天地逆転で捉えました。
赤い看板が水面を染め、落ちる雨粒が生む波紋は映り込んだ建物を揺らめく油絵へと変化しています。右下に映る人物の傘シルエットと足元の現実(アスファルトの質感)が組み合わさり、虚像と実像、カラーとモノクロ、静止と動きが複雑に交錯する構図になりました。
撮影時にカラープロファイルコントロール(COLOR)
を活用し、レッドとブルー系の Vivid を +側、その他の Vividを −側
に調整。これにより赤と青が強調され、雨天のグレー環境でも視覚的な印象を残すことができました。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II
50mm相当*
Aモード F6.3 1/125秒 ISO 800
カラープロファイルコントロール
ED 8 mm F1.8 Fisheye PROを用い、周辺部のディストーションをあえて活かして狭い路地を“トンネル状パース”に変換しました。青緑に光る自販機の列は放物線を描きながら湾曲し、視線を画面奥の階段へと自然に誘導するナビゲーションラインに。雨で濡れたモザイクタイルの床はコントラストが高まり、魚眼収差と相まって万華鏡のようなリピートパターンを生み出しています。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 8mm F1.8 Fisheye PRO
16mm相当*
Sモード F9.0 1/2.5秒 ISO 400
動きを取り入れてみる
シャッタースピードを1/1.3秒に設定し、雨に濡れた路面にネオンが描くカラーフィールドと、行き交う人々の足跡を同時に溶かし込んだ一枚です。OM SYSTEMの強力な手ぶれ補正によりこのような表現が可能になります。水たまりの反射は固定された鏡面として鮮鋭に残り、その上を流れる靴の残像が時間のレイヤーを重ねます。雨夜のストリートに潜むリズムと多層的な光のドラマを可視化しています。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
34mm相当*
Sモード F11 1/1.3秒 ISO 400
シャッタースピード1/4秒、カメラの手ぶれ補正をS
IS2(縦ぶれ補正)に設定し、被写体の動きに合わせて流し撮りをしました。交差点のネオンを横方向に長く引き伸ばしつつ、自転車はシルエットとして中央に静止させた青と赤の光跡が交差し、横断歩道の反射が速度感を増幅させています。流し撮り時は脇を締めて、被写体の速度に合わせて腰を回して撮影すると成功率が上がりますが、OM
SYSTEMのS IS2はさらに高い安定性をもたらします。
カラークリエーター(CRT) でブルー系 Vivid を +3
に設定することで撮って出しでも近未来感ある夜景の表現が可能です。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 17mm F1.2 PRO
34mm相当*
Sモード F13 1/4秒 ISO 400
カラークリエーター
日中でも流し撮りを行いました。シャッター速度を 1/2.5 秒 に設定し、横パンでビル群を絵筆のストロークのような水平ストリークへ変換しました。正午の明るい環境下でも撮影できたのは、OM SYSTEMのライブND機能のおかげです。並んだ水平線はスピード感だけでなく “都市の時間軸” を可視化し、ブラーにより背景看板の雑多な情報を整理して抽象的な表現を実現しています。さらに カラークリエーター(CRT) でブルー系 のVivid を +3 に設定し、画面全体をクールトーンで統一することで、雨天特有の湿度感を低温イメージとして際立たせました。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II
50mm相当*
Sモード F14 1/2.5秒 ISO 800
カラークリエーター、ライブND(ND16)
ライブND機能を使用し、シャッター速度を 1.6 秒で撮影しました。1.6 秒の間、歩行者の歩くスピードに合わせてカメラを動かすことで、街頭ビジョンの光を水彩の筆跡のように引き伸ばした抽象描写を可能としました。寒色トーンが雨の日の体感温度を高め、ブラーが生む “時間の重ね描き” が一枚の中に複数の瞬間を封じ込める写真ならではの時間芸術を体現しているといえます。OM SYSTEMの手ぶれ補正と色表現により撮ることができた1枚です。

レンズ:M.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8 II
50mm相当*
Sモード F13 1.6秒 ISO 800
カラークリエーター、ライブND(ND64)
まとめ
1. 雨は “減光条件” ではなく創造条件
濡れた路面やガラスは人工的なリフレクターとなり、通常は捉えにくい下方向や側面からのライトを得られます。反射光と透過光を組み合わせることで、昼夜を問わず立体感のある画づくりが可能です。
2. OM SYSTEMのライブ ND/手ぶれ補正機能が自由度を拡張
OM SYSTEMの防塵・防滴性能は天候による機材への不安を排除軽減し、ライブ ND機能と 強力な手ぶれ補正により長秒・流し撮り・スローシャッターを手持ちで実践する事ができます。
3. カラーコントロールで現場完結型ワークフロー
被写体のシアンやレッドを強調したり、シックなトーンにしたりと、撮影前や撮って出しの段階でカラープロファイルコントロールやカラークリエーターを活用し、トーン設計を確定することができます。
最後に、公共の場や人のいるスナップ撮影ではプライバシーの配慮が最優先です。シルエット化・流し撮りなどでぶらす・ピント外してぼかす・傘で顔が隠れるなど、人物の判別ができない写し方を徹底しましょう。被写体が特定できる可能性がある場合は 必ず声を掛けて了承を得ることを心がけることで、作品作りと社会的マナーを両立することができます。
雨が降った時は、カメラを持って雨粒が踊る街へ一歩踏み出してみてください。濡れた世界は、光と色彩が躍るもう一つの都市景観として、あなたのファインダーの中で息づくはずです。
*35mm判換算値

Amatou
1995年千葉県生まれ。非現実的な都市景観の表現をコンセプトとしたファインアートフォトグラフィーをメインに撮影している。
その独特な世界観が評価され、International Photography
Awards、Sony World Photography
Awardsをはじめ、国際的写真コンテストで数多くの上位入賞を果たす。
また、YouTubeのチャンネルを運営しており、シチュエーションごとの写真の撮り方や効果的なレタッチ方法などを発信するなど、視覚芸術の可能性を探求し、写真がもつ表現力を視聴者に伝えている。
Instagram:https://www.instagram.com/amatou_0429/
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