Photo Recipe(フォトレシピ)

情感あふれる桜風景を写す

撮影・解説 : 写真家 福田健太郎
2025年3月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
桜に魅了されるのは何故でしょう。桜の花が咲くころは卒業や入学、就職など人生の節目と重なり、別れと新しい出会いが待っています。また、桜は開花してから散るまでの時間がとても短く、一瞬の輝きと消えゆく様は、美しく儚いものでもあります。永遠ではない、移りゆくその姿に、私たちは自分の人生と照らし合わせることができ、だからこそ無常の美に魅せられるのだと私は思います。今年の春は、彩り鮮やかな桜のほかに、情感あふれる桜風景を写真で残してみませんか?
艶やかな夜桜

ライトアップで浮かび上がる桜はその存在を主張し、夜の雰囲気と相まって、艶やかな姿を見せてくれます。夕暮れどきには現地を訪ね、撮影を行いながら夜桜のロケハンを進めます。どこから撮影しようか、イメージを膨らませ、準備しておくことが大切です。この写真を撮影した日は雨が降っており、水たまりを発見していました。低い位置にカメラをセットして映り込みを活かし、上下対称のフレーミングで夜桜の印象度をアップできたと思います。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
46mm相当*
Mモード F5.6 1/2秒 ISO 3200 WB:4200K
幽玄な桜

霧に包まれた桜風景は趣があります。じつは悪天候とされる日も撮影のチャンスなのです。朝早い時間や雨降りの日は霧に包まれやすく、幽玄な世界に出合えるかもしれません。撮影のポイントは、風景に存在する濃淡をよく確認することです。フラットな光の中でも立体感を出してくれますし、霧のベールに包まれた柔らかさを伝える役割も果たしますので、作画の際に濃淡を盛り込みます。また、青みを帯びた色調となるシーンが多く、幽玄な雰囲気を誘うにはピッタリです。ホワイトバランスの設定でこの青みを無くすことなく、活用する選択も考えてみましょう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
36mm相当*
Mモード F8.0 1/2秒 ISO 400 WB:晴天
ライブGND(ND2/Soft)
憂いを持つ桜

華やかな桜とは対極の、憂いを帯びた桜もまた素敵です。曇天や日陰など、柔らかな光の中でこの桜の姿に心奪われることが多く、なるべく画面内に明るい空が入らないよう、落ち着いた色調でまとめるのがコツになります。桜からわざと離れ、望遠域のレンズで引き寄せる撮影が向いています。暗い色の山林などを背景に選ぶと桜の姿形や色が目立ち、見た目の明るさにこだわらず、露出のコントロールで暗めに仕上げても雰囲気が出ます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
132mm相当*
Mモード F8.0 1/20秒 ISO 200 WB:4400K
儚さ、移ろいゆく姿を見つめる
散った花の姿からも美しさを覚えます。この写真は川面に浮かぶ花びらを撮影したもので、桜の儚さ、うつろいゆく姿を届けたい思いが私の中にありました。スローシャッター効果で花びらをブラしていますので、肉眼で見たそのままの風景とは異なり、これは写真ならではの世界です。

このシーンではOM SYSTEMのデジタル技術、コンピュテーショナル フォトグラフィの「ライブND」を使用し、イメージどおりの描写を得ることができました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
114mm相当*
Mモード F16 13秒 ISO 80 WB:4400K
ライブND(ND128)

こちらはライブNDなしの写真。シャッタースピード1/10秒で撮影した写真では流動感がなく、花びらは止まって見えます。ライブNDの効果は抜群で、渓流や滝といった水が流れるシーンなど、いろいろな風景撮影で表現の幅を広げ、撮影を面白くしてくれます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PRO
114mm相当*
Mモード F16 1/10秒 ISO 80 WB:4400K
OM-1 Mark II ライブND設定画面
ライブNDはコンピテーショナル フォトグラフィの機能の1つで、シャッタースピード優先(Sモード)やマニュアル(Mモード)で使用する事ができます。使用するカメラによって、機能の有無や設定できるND段数に制約があります。
麗らかな春の陽気を届けたい
麗らかな春の陽気に包まれた桜は、なんとも心地よいものです。その印象を写真で表すにはいったいどうしたらよいのでしょう。いろいろな撮り方は考えられますが、「明るく、ふわっと、ぼかす」この3つを組み合わせたのがこの写真です。

花の繊細な質感を伝えるため、日向の花ではなく日陰の花を主役とし、絞り値はF4.0を選択。奥の風景をぼかしています。そして、ふわっと感を出すため、アートフィルターの「ファンタジックフォーカス」を使いました。見た目より少し明るめにも仕上げています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
18mm相当*
Mモード F4.0 1/160秒 ISO 200 WB:晴天
アートフィルター:ファンタジックフォーカス

通常撮影。
クリアに写り、こちらも良い仕上がりです。カメラの機能を上手に使い、自分の心とマッチする写真を作り上げてゆきましょう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
18mm相当*
Mモード F4.0 1/160秒 ISO 200 WB:晴天
煌めく桜風景を撮る
朝日が昇り、シダレザクラは光に照らされ輝いています。煌めく桜風景を見た目に近い仕上がりで再現したく、この写真はOM-1 Mark IIやOM-3等に搭載されている「ライブGND」機能を活用しています。

このシーンでは、空と地上風景の明るさ暗さの差が激しいことから、通常撮影では見た目に近い再現は難しいのです。明暗差を解消してくれるライブGNDの設定は素早く操作することができ、その効果をファインダーでしっかり確認することができるので安心です。
M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
32mm相当*
Mモード F8.0 1/200秒 ISO 200 WB:日陰
ライブGND(ND8/Medium)

こちらはライブGNDなしの写真。明暗差のとても激しいシーンでした。地上風景の桜に対して適正な明るさとなるよう、露出を合わせた場合、空はもっと明るいので白っぽく再現されてしまいます。この差を埋めてくれるのがライブGND機能です。
>M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
32mm相当*
Mモード F8.0 1/200秒 ISO 200 WB:日陰
OM-1 Mark II ライブND設定画面
境界線位置は自由に操作が可能で、このシーンでは桜のラインに合わせ斜めに設定しました。
OM-1 Mark II ライブGND設定画面
自然な写りとなるよう、フィルタータイプとGND段数を撮影現場でしっかり調整できます。
まとめ
魅力的な桜の風景はたくさんあります。満開の華やかな桜だけではなく、ひっそりと咲き誇る姿に美しさを感じることもあるでしょう。その時々で心に触れる桜は変わってくるものです。しっかり桜と向き合い、自分の心で感じた桜の姿を、テクニックやカメラの機能を上手に活用し、写真で伝えてゆきましょう。
*35mm判換算値

写真家 福田健太郎(ふくだけんたろう)
幼少期から自然や風景、その土地と人々の暮らしに憧れ、18歳のとき写真家を志す。写真家 竹内敏信氏の助手を経て、1997年より活動を開始。日本を主なフィールドに、自然にあふれる生命の姿を記録し続けている。写真集『泉の森』(風景写真出版)をはじめ著書多数。「春恋し -桜巡る旅」、「平成 桜 福島」、「MUGON」など、毎年写真展を開催し、作品を発表し続けている。