カメラアイコンPhoto Recipe(フォトレシピ)

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL 25mm F1.8で撮影したご来光の写真

ご来光の撮影にチャレンジ!

写真家 秦 達夫

撮影・解説 : 写真家 秦 達夫

2024年12月公開

カメラアイコン記事内で使用した
レンズをご紹介

はじめに

ご来光はとても人気のある被写体です。年末年始は日の出時刻もゆっくりとなり、早起きが苦手な方でも撮影し易くなります。その反面、気温が引く身体とカメラの寒さ対策とがとても重要です。しかし、安心してください。OM SYSTEMは耐低温特性に優れた設計になっており、寒気がやって来ても問題ありません。ここではご来光の撮り方やカメラ操作に付いてお話しします。

1 設定・基礎知識編

ご来光の印象はカメラ操作で大きく変わります。はじめの一歩としてカメラ設定のお話しから始めたいと思います。カメラを手にして設定を確認して下さい。

※カメラのメニュー画面や、設定画面がでてきますが、ご使用のカメラによっては表示が違う場合があります。詳しい使い方はご使用カメラの取り扱い説明書を参照ください。

1-1 ホワイトバランス

映像機器は光源もしくは天候によって色味が変わってしまう性質を持っています。それをコントロールするのがホワイトバランス(以下WB)です。具体的に説明すると昼光は色温度5300Kと表します。この場合、カメラ側の設定も色温度5300K(WB:晴天)にしておかないと色味がズレて写ってしまいます。日陰の中で撮影するのであればカメラのWB:日陰(7500K)を選ぶ事が重要です。今回のテーマのご来光はWBの選択で印象が大きく変わる被写体です。下記の例を参考に適切なWBを選びましょう。

ホワイトバランス

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIで撮影したご来光の写真

WBオート(以下Auto)での撮影。近年のWB(Auto)の性能は向上しており、ここで述べているほど赤味が抜けることはなくなりましたが、ご来光の赤味を色味のズレと勘違いし赤味を取る動きをしてしまう事があります。誤作動とまでは言いませんが、それを防ぐために早朝夕景撮影ではWB(Auto)を使わないのがセオリーです。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
36mm相当*
Aモード F5.6 1/640秒 ISO200 -1.7EV
ホワイトバランス : Auto(電球色残しOFF)

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIで撮影したご来光の写真

WB晴天(5300K)での撮影。WBが固定され本来のご来光の発色に近くなります。ご来光の撮影で、メインで使用しているWBです。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
36mm相当*
Aモード F5.6 1/640秒 ISO200 -1.7EV
ホワイトバランス : 晴天

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIで撮影したご来光の写真

WB日陰(7500K)での撮影。肉眼で見たときよりも赤味の強い印象の色味になります。赤味が欲しい時には「WB:日陰orくもり」を選ぶと良いでしょう。ただし、条件によっては違和感のある赤味になるので注意。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
36mm相当*
Aモード F5.6 1/640秒 ISO200 -1.7EV
ホワイトバランス : 日陰

1-2 ピクチャーモード

ピクチャーモードとは設定を変更することで発色をコントロールするモードです。被写体のイメージや好みに合わせて選択すると表現の幅が広がります。種類はi-Finish、Vivid、Natural、Flat、Portrait、モノトーン、カスタム、水中、カラークリエーター、アートフィルターがあり様々な被写体や状況に応じて選ぶ事が可能です。

■ i-Finish

■ Natural

■ Vivid

■ Flat

4つの作例を見ると発色の違いがわかります。撮影状況にもよりますが、ここでは一番艶やかなのは「i-Finish」次に「Vivid」となります。僕はご来光の撮影では「Vivid」を使用する事が多いです。皆さんは何を選びますか?

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

ピクチャーモードVivid での撮影。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
300mm相当*
Aモード F4.0 1/500秒 ISO200 -1.0EV
ピクチャーモード: vivid

またピクチャーモードの設定画面で上下ボタンを押し「階調」に移動し「Auto」を選ぶ。最良の階調を選んでくれますので、こちらもおすすめです。

階調:Auto

1-3 ゴースト・フレアー

肉眼では見ることができない像が写る。この現象を「ゴースト・フレアー」と呼びます。強い光がレンズに飛び込むとレンズ鏡胴内で乱反射が起き、その光がレンズ(ガラス)表面に映り込み光の像が現れる現象です。ご来光撮影は太陽そのものを撮影しているので強い光がレンズ内に必ず飛び込みます。

ご来光は光が強く、その影響が描写に現れます。プログラムモードで撮影してしまうと意図しない描写になる事があるので下記の事を注意しましょう。おすすめの撮影モードはAモード(絞り優先モード)です。

■ F22で撮影
絞り値F22で撮影されたものは、赤い像が浮かび上がっている事がわかります。これが「ゴースト」です。絞りを開け(F値を小さく)撮影すると「ゴースト」が目立ちにくくなっていることがわかります。

■ F4.0で撮影
ご来光撮影の絞りは開放から1段~2段絞ったF値で撮影しています。逆に夏のギラギラした太陽を表現したいときはF値を出来るだけ大きくして、あえてゴーストを映り込ませます。ゴーストが強い日差しの印象を強調してくれるからです。

1-4 光条

もう一つ、絞りによって肉眼では確認できない描写が発生するので紹介します。この現象の名前を「光条」(こうじょう)と呼びます。絞りの数字が大きくなるとハッキリ写るのが特徴。

■ F22で撮影
絞りF値を大きくしていくと光条はハッキリ写し出され、小さくしていくと薄れてきます。ゴーストと同じですね。

■ F4.0で撮影
太陽の存在感を引き出す時に絞りF値を大きくし光条を引き出すと良いでしょう。ご来光の場合は太陽の存在感と言うよりも情景を伝える事が重要ですから、太陽は控えめの表情が良いと思います。よってゴースト対策と同じ様に開放から1段~2段絞ったF値で撮影すると良いでしょう。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

絞り(F値)を一番大きくして撮影。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
80mm相当*
Aモード F22 1/50秒 ISO80 -1.0EV
ホワイトバランス : 晴天

1-5 露出補正

ご来光は強い光を放つため「露出補正」による調整が必要になります。
OM SYSTEMのESP測光(評価測光)であれば露出補正をマイナス側(-1.0~-2.0EV)を目安にすると良いでしょう。具体的な数字を提示しないのは日によって太陽の光の強さが異なっていたり、構図によって太陽と地表物の割合が異なり、撮影条件が変化するからです。

露出補正

露出補正を-2.0EVから+0.7EVまで0.3EVずつ補正値を変えて9枚撮影を行ってみました。好みによりますが上段左の-2.0EVから中段左の-1.0EVが頃合いの数字だと思います。皆さんはどの補正値の写真が好みでしょうか?

現場で適正露出を見極めるのは難しいため、慣れないうちはブラケット撮影(段階露光)を行いましょう。「Menu」ボタンを押し「カメラマーク2」内の「3.ブラケット撮影」を選び、「十字キー」下ボタンで「AE BKT」を選び「OK」ボタンを押します。露出ステップを好みのステップ(おすすめ3f 0.3EV)を選びます。選択が終わると自動で連写モードに切り替わりワンレリーズで3枚撮影できるようになります。

露出補正

2 撮影編

ご来光撮影は日の出1時間前に現場に到着するように心掛けましょう。撮影地はまだ暗く準備に戸惑う事もあり余裕を持った行動が重要です。僕は日の出時刻の1時間前からスタンバイしていますが、30分程前からでも良いと思います。黎明から日の出の時間はとても綺麗ですよ。

2-1 黎明

東の空が薄らと明るくなり始めるのは、日の出時刻の90分~60分ほど前からとなります。この時間を「天文薄明」と言います。星も確認する事ができます。この時間から撮影を開始できると作品の幅も広がりますが、まずは30分前にはカメラをセットし撮影ができるように準備しましょう。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

日の出時刻のおよそ30分前。月も確り写り空のトーンが美しい。

M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
28mm相当*
Aモード F5.6 2.5秒 ISO800 +1.0EV
ホワイトバランス : 晴天

2-2 周囲を観察する

スタンバイできたら後は日の出を待つだけではありません。周りの山々を観察しましょう。特に西側の高い山は日の出時刻よりも早い時間に紅く染まることがあります。この現象を「モルゲンロート」と呼びとてもフォトジェニックです。
夜明け前の撮影ではAFが上手く動かない事があります。そんな時はマニュアルフォーカス(MF)でピントを合わせましょう。太陽が顔を出してからも強い逆光状態ではAFが正常に作動しないことがあります。その場合も慌てずにMFに切り替え撮影します。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIで撮影したご来光の写真

朝日が当たり始めた白馬連峰。何の前触れもなく紅く染まり出します。日の出前は時計を見ながら要チェック。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
54mm相当*
Aモード F5.6 1/25秒 ISO400 -1.3EV
ホワイトバランス : 晴天 ライブGND : ND04,Soft

空と地表の露出が合わないときは「ライブGND」機能を搭載したカメラであれば、それを使用してみましょう。ライブGNDとはハーフND効果をカメラ内操作で引き出すコンピュテーショナル フォトグラフィの撮影機能の1つです。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

空が明るくなり始めると空と地表の露出差が生まれ空がオーバーになります。その境界線のあわせて「ライブGND」を使用すると、空の階調が引き出されていることがわかります。

M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
18mm相当*
Aモード F8.0 1/1.3秒 ISO400 -0.7EV
ホワイトバランス : 晴天 ライブGND : ND04,Medium

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

通常撮影の場合。

M.ZUIKO DIGITAL ED 8-25mm F4.0 PRO
18mm相当*
Aモード F8.0 1/1.3秒 ISO400 -0.7EV
ホワイトバランス : 晴天

2-3 前景を取り入れる

撮影に慣れてくると、ご来光だけを捉えても変化が無く面白みがありません。地域毎の変化のある地表物を構図に取り入れ撮影するように心掛けましょう。朝日は光が強く地表物はシルエットとして写ります。形の良いものを選び撮影すると良いでしょう。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

前景に山を配置し撮影。ピントは山の稜線に合わせています。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-45mm F4.0 PRO
52mm相当*
Aモード F8.0 1/60秒 ISO200 -2.3EV
ホワイトバランス : 晴天

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIで撮影したご来光の写真

岩礁と太陽の位置関係はカメラポジションで大きく変わります。太陽が顔を出す場所を予測しながらカメラポジションを考えましょう。

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
54mm相当*
Aモード F22 1/250秒 ISO400 -1.0EV
ホワイトバランス : 晴天

ダイヤモンド富士は大変

■ AM6:00頃

■ AM7:00頃

お正月にダイヤモンド富士が撮影できる場所として有名な「竜ヶ岳」本栖湖東側にある駐車場から約3時間で登ることができます。元日の日の出時刻は6:54と言う事でダイヤモンド富士を見るだけであれば登山開始は早朝4時頃で問題はありません。しかもお目当てのダイヤモンド富士現象になるのは7:40頃です。問題は撮影をしたいとなると話が変わります。山頂付近は前夜から滞在している登山者で溢れかえり眺めの良いポジションは既に三脚が並び撮影できる雰囲気ではありません。竜ヶ岳でダイヤモンド富士を狙うのであれば前夜から登り山頂で一晩明かす覚悟が必要です。覚悟を決めて撮影計画を立てる方は汗対策&防寒対策を入念に行ってください。標高1771mありますから気温は平地よりもかなり低くなります。それからチェーンスパイクを持参するようにして下さい。帰りの登山道が凍っていることが多く滑りやすいからです。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO IIで撮影したご来光の写真

元旦、AM 7:40頃のダイヤモンド富士

M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
32mm相当*
Aモード F22 1/1000秒 ISO400 -1.7EV
ホワイトバランス : 晴天

2-4 欲張っては駄目

ご来光が登り始めると一気に周りのものが輝き始めます。太陽と地表物を絡めた構図で撮影したくなりますが欲張ると露出の差が大きくなり失敗します。地表物の表情を引き出した撮影をしたい時は太陽を入れないフレーミングを心掛けましょう。

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

欲張って朝日と川霧をフレーミングしてしまい露出が合わず、早朝の紅く染まる雰囲気が損なわれてしまった。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
88mm相当*
Aモード F4.0 1/3200秒 ISO200 -1.3EV
ホワイトバランス : 晴天

写真家 秦 達夫がM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PROで撮影したご来光の写真

太陽をフレームアウトさせたことで露出が整い、朝日によって紅く染まる川霧を表現できました。

M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
144mm相当*
Aモード F4.0 1/8000秒 ISO200 -0.7EV
ホワイトバランス : 晴天

2-5 三脚を使う?使わない?

写真家 秦 達夫が撮影したご来光の写真

ご来光は光が強くシャッター速度もかなり高速になります。そう言った意味ではブレの問題はありません。しかし、日の出前の黎明の景色はシャッター速度が遅くブレの問題が発生します。それから冬の早朝は冷え込みが厳しく普段よりも身体がこわばっておりブレのリスクは多くなります。よって三脚を使用する事をおすすめします。

まとめ 寒さ対策も忘れずに

冬のご来光撮影は寒さ対策が重要です。対策を怠ると集中力を削ぎ、思わぬトラブルに見舞われるかも知れません。防寒対策の基本は重ね着です。アウトドア業界ではレイヤーなんて言い方をします。寒かったら着る、何でも良いので重ね着の枚数を増やす事で対策になります。新聞紙をお腹に巻くだけでも対策になります。しかし、レイヤーが増えると動き難く撮影も大変です。現在は優れた素材の防寒着が沢山販売されていますから新しいギアを着用して快適な撮影を目指しましょう。

車から降りて直ぐ撮影の時
アウターは風を通さない素材の厚めのジャケット。ライナーは保温重視の軽量ジャケット。シャツはウール素材がおすすめ。これでも寒いときはセーターを中に着込みましょう。ダウンジャケットを購入するときは表示内容を確認し「フェザー」よりも「ダウン」使用率の高い商品を選ぶようにしましょう。

アンダーシャツについては、綿製品は肌触りがよく心地がよいのですが、汗で濡れると保温力が下がり乾きが悪いので注意です。速乾吸水性の優れた素材を選ぶようにしましょう。
撮影は細かい操作が多く、またスマホを操作することもあるので指抜き手袋が便利。その上からオーバーグローブをすると良いでしょう。

*35mm判換算値

秦 達夫

写真家 秦 達夫

長野県飯田市遠山郷(1970年4月20日生まれ)。自動車販売会社・バイクショップに勤務。
後に家業を継ぐ為に写真の勉強を始め自分の可能性を感じ写真家を志す。
写真家竹内敏信氏の助手を経て独立。故郷の湯立神楽「霜月祭」を取材した『あらびるでな』で第八回藤本四八写真賞受賞。同タイトルの写真集を信濃毎日新聞社から出版。
写真集『山岳島_屋久島』『RainyDays屋久島』『Traces of Yakushima』
エッセイ『雨のち雨ところによっても雨_屋久島物語』他多数。
小説家・新田次郎氏『孤高の人』の加藤文太郎に共感し、『アラスカ物語』のフランク安田を尊敬している。
日本写真家協会会員・日本写真協会会員・Foxfireフィールドスタッフ
日本写真芸術専門学校講師

カメラアイコン記事内で使用した
レンズをご紹介

カメラアイコン合わせて読みたい:
フォトレシピ・インタビュー