Photo Recipe(フォトレシピ)
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海岸、干潟の野鳥を撮影してみよう
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撮影・解説 : 中村 利和
2024年11月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
海岸や干潟などの海沿いでは、どのような鳥に出会うことができるのでしょうか。
野鳥に興味のある人が干潟の鳥と聞くと思い浮かべるのはシギ、チドリの仲間でしょうか。他にもカモメの仲間やサギ、カモの仲間なども見られます。上空にはそれらの水鳥を狙って猛禽類が現れることもあります。
今回は海岸や干潟で出会えるシギ、チドリを中心に、撮影の楽しみや注意したい点についてお話しします。
遮蔽物がない
まず海岸、干潟などのフィールドはあまり遮蔽物がありません。なので水際などに鳥がいる時は隠れる場所がないので見つけることはわりと容易です。ただこちらが鳥を見つけやすいということは、当然、鳥たちもこちらに気がついています。撮影するのに、「隠れて待つ」ということが出来ないのです。
警戒のサイン
鳥にはここまでは近づいても大丈夫という、安心できる距離があります。その距離は鳥の種類によっても、住んでいる環境によっても、さらに同じ種類の鳥でも個体によっても違うので、一概に「ここまでは大丈夫」という距離は言えませんが、人がその距離より近づくと警戒し、遠ざかり、さらには飛び去ってしまいます。海辺での撮影はいかに鳥たちに警戒されず、自然な行動を撮影できるかが大切です。
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薄日のさす干潟で出会ったミヤコドリ。太陽の位置と、背景に人工物が入らないポジションを考えて驚かせないようゆっくりと移動してカメラを向けると、気持ちよさそうにミヤコドリは伸びをしてくれました。
海岸や干潟に降りている鳥の行動は主に、休む、食物を探し食べる、水浴びや羽繕いをするなどです。そのような行動中、鳥が警戒しているか見分けるサインは休んでいる鳥が首を伸ばして辺りを見渡したり、膨らんでいた羽毛がキュッと細くなったり、これまでしていた採食や水浴びなどの行動をやめたりすることです。そのサインを見逃さないよう、常に鳥たちの様子を観察することが大切です。警戒しているのがわかったら、静かに動かず、それ以上近づくのはやめましょう。
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ミサゴ
海沿いの水鳥が集まっているところは、それらを狙うハヤブサなどの猛禽も現れることがあります。また魚を主食とする猛禽ミサゴに出会うこともあるので、上空にも注意しましょう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
800mm相当*
Aモード F4.5 1/4000秒 ISO 400 ±0.0EV
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ミユビシギ
くちばしを翼の下に埋めて休むミユビシギですが、目はしっかりと開いて周りの様子を見ています。休んでいる鳥に近づくときは動きをゆっくりと、警戒していないかを確認しながら一歩ずつ進むようにして、目的の鳥が立ち上がったり、首を伸ばして辺りを見渡したりしたときは、それ以上動かないようにします。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-600mm F5.0-6.3 IS
1200mm相当*
Aモード F6.3 1/400秒 ISO 400 +1.0EV
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ハマシギ
日の出直後の全てが朝焼けに染まる時間、フィールドに到着して浜辺に出ると波打ち際で採食するハマシギが出迎えてくれました。この光の状態は長くはないので時間との勝負です。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*
Aモード F5.6 1/200秒 ISO 400 +2.7EV
内蔵テレコンON
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ズグロカモメ
春になって夏羽に換羽も終わり、名前通り頭が黒くなったズグロカモメ。目の周りだけ白く、正面から見た顔はとてもユニークで可愛らしい鳥です。この後、繁殖地に向かって旅立ちます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
800mm相当*
Aモード F4.5 1/800秒 ISO 400 +0.3EV
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ホウロクシギ
水の中を歩くホウロクシギ。進行方向の先で静かに待っているとだんだん近づいてきて、そのまま通り過ぎていきました。画面に水が入る撮影では天候も重要で、晴れていて空が青空だと水の色も青く、より綺麗な作品になります。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*
Aモード F5.6 1/1600秒 ISO 400 -0.7EV
内蔵テレコンON
自然な表情が見られるコツ
採食している鳥を撮影する場合、歩きながらどちらの方向に向かっているかを観察して、その後向かうであろう場所を予測します。目的の鳥を驚かさないよう、大回りして予測した場所付近で静かに座って待つと、餌探しに夢中でビックリするくらい近づいてくることもよくあります。こちらから追うのではなく、こちらへ来てくれるのを待つスタイルが鳥へのプレッシャーも少なく、自然な表情が見られるコツといっていいでしょう。
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ミユビシギ
まだ夏羽の残る2羽のミユビシギを波が背景になるように、カメラを地面スレスレの位置から撮影しました。手前に砂浜を大きく入れることで画面に変化をつけてみました。AI被写体認識AF(鳥)は鳥の位置を変えても追従してくれるので、構図を変えて撮影する時も便利です。
M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
800mm相当*
Aモード F6.3 1/1600秒 ISO 800 +0.3EV
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オバシギ
多くの鳥は水浴びをすると最後に羽ばたいて水を飛ばします。普段から観察していると、次の行動が予測でき、シャッターチャンスに備えることができます。水浴びするオバシギがいたので、羽ばたくのを待って撮影しました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*
Aモード F5.6 1/400秒 ISO 800 +1.7EV
内蔵テレコンON
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オバシギ
オバシギの手前にウミネコの群れが休んでいます。目的のオバシギの方に気を取られ手前にいるウミネコを気にせず不用意に近づいて飛ばれてしまっては意味がありません。海岸や干潟での撮影では、目的の鳥以外に、他の鳥、他の撮影者、海岸を散歩する人など様々なものの動きに注意して、鳥の動きを予測するようにします。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
800mm相当*
Aモード F5.6 1/2000秒 ISO 1600 +0.3EV
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ミユビシギ
冬の海岸では日本で越冬するミユビシギの群れが見られます。浜に降りていた群れが何かに驚いて飛び立ってしまっても同じ場所に戻ってくることも多いので、その場で静かに待っていると、波を背景に飛ぶミユビシギの群れを撮影することができました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 150-400mm F4.5 TC1.25x IS PRO
1000mm相当*
Aモード F5.6 1/1250秒 ISO 800 +0.3EV
内蔵テレコンON
まとめ
いかがでしょうか。
バードウォッチングを始めたばかりの人には苦手だという方も多いシギ・チドリですが、じっくり観察してみると、とても魅力的な鳥たちです。鳥たちにできるだけプレッシャーを与えないような鳥に優しい観察、撮影を心がけて、楽しんでいただけたらと思います。
*35mm判換算値
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写真家 中村 利和
神奈川県生まれ。日本大学芸術学部写真学科を卒業後、アシスタントを経てフリーランス のフォトグラファーとして活動。高校生の頃、野鳥の観察、撮影を始めて以来、身近な野鳥を中心にその自然な表情、仕草を記録。「光」にこだわり、鳥たちの暮らす環境、その空気感を大切に撮影を続けている。著書に写真集「BIRD CALL」青菁社 「鳥の骨格標本図鑑」文一総合出版(共著) 写真集「鳥の肖像」がある。日本野鳥の会 日本自然科学写真協会(SSP)会員