Photo Recipe(フォトレシピ)
ワンランク上の星景写真を目指そう
”計画性”とシミュレーションの術
2024年9月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
この記事について
みなさん、こんにちは。星景写真家の北山です。早速質問ですが、みなさんは星景写真の被写体をイメージした時、どのようなものが思い浮かびますか?星景写真の被写体には、季節ごとに撮れるものから一生に一度しか撮れないものまで様々なものがありますが、ここで重要になるのが「どのような被写体があり、それがいつ撮れるものなのかを知り、そこに向けて準備をする」という計画性です。私はこの計画性こそが星景写真の本当の面白さだと思っています。今回は過去の写真展中から特に思い入れのある作品をピックアップし、計画の重要性とそこから生まれる作品の魅力についてお話ししたいと思います。また、記事の後半では、2024年10月に見頃を迎えるとされている「紫金山・アトラス彗星」の撮影のポイントについても簡単にご紹介したいと思います。
計画の重要性 1 撮影する日付を意識する
こちらは渋谷区の商業施設の展望スペースから撮影した東京タワー方面の夜景と星の作品です。方角は北東方向を撮影しています。都会の夜景をテーマに星景写真を撮影する場合、一枚撮りでは星の存在がほとんど分かりませんので、比較明合成(ライブコンポジット)をして星を線像にすることが基本の撮り方になります。
今回のように「撮影できるスペースが限定されていて構図が選べない」かつ「撮影できる時間が限られている」場所では、撮影する日にちが特に重要になってきます。この作品は1月中旬に撮影していますが、この頃は日没後に北東の地平線からおおぐま座としし座が昇ってきます。2つとも明るい星座ですので、比較明合成をするとより存在が明確になります。展望スペースは通年行くことができますが、晴天率と空の透明度が高い冬で、なおかつ撮影開始時刻に明るい星座がある1月中旬というタイミングがベストと考え、あとは直前の天気予報でこの日を撮影日としました。
このように撮影できるスペースが限定されている=構図に制約がある場合では、撮影するタイミングがとても重要になることを覚えておいてください。
計画の重要性 2 季節限定の風景も合わせる
先ほどと同じく「構図に制約がある場合」の別パターンをご紹介します。この作品は、富山県朝日町で撮影したもので、冠雪している北アルプスの山々と舟川べりに咲く桜、そしてチューリップが写っています。これに菜の花が加わると「春の四重奏」とも呼ばれている美しい光景となりますが、残念ながら私が訪れたタイミングでは、菜の花の開花があと少しという状況でした。
この作品の重要な要素が左下から右上に向かって並んでいる3つの星ですが、それぞれ、金星、火星、土星と並んでいます。2022年の4月は、夜明け前の東南東方向の空に明るい惑星が並ぶ美しい光景を見ることができましたが、主役級の星たちの見事な共演にどのような風景を合わせようかと考えて思いついたのがこの作品です。春の四重奏が見られるタイミングは4月上旬〜中旬までのわずかな期間で、このタイミングに惑星が集まるという偶然が起こり、このような作品を撮ることができたのです。次に似たような光景が撮影できるのは2054年になりますが、その頃私自身がどうなっているか、また撮影地がそのままの状態で残っているか検討もつきませんので、言ってしまえば「一生に一度の撮影」と言っても過言ではないでしょう。ちなみに春の五重奏というタイトルは、3つの惑星とチューリップと桜の共演というところからつけています。山は暗すぎたため、六重奏というタイトルをつけるのは適切ではないと感じ、控えました。
ある一定期間にしか見られない天文現象と季節限定の風景を合わせるという掛け算も星景写真の撮影アイデアとしてはとても重要なので、ぜひ覚えておきましょう。
計画の重要性 3 季節をずらして撮影する
最後にご紹介するのは船の上から撮影した手持ち星景写真です。大阪から北九州へと向かうカーフェリーの甲板から撮影しました。8月中旬から下旬にかけては、夜明け前の空にオリオン座が昇る様子を撮影することができます。薄明の美しいグラデーションの空に昇るオリオン座は私が星空撮影をしている中でも特に好きな瞬間で、8月になると必ず撮影しています。オリオン座は冬の星座ですが、冬に撮影すると日没後暗くなった時点ではすでに南の空高くに昇っており、地上風景と撮影するのは超広角で縦構図と制約があります。あえて季節をずらして撮影することで、構図の自由度が生まれると共に、その時にしか撮れない印象的な作品が撮れることも覚えておきましょう。
ちなみに、この作品は三脚を使わず手持ちで撮影を行いました。OM SYSTEM の強力な手ぶれ補正機構のおかげもあり、技術的進歩で従来撮れなかった作品にアプローチができるようになっています。みなさまも固定観念に縛られず、自由な発想で撮影をしてみてくださいね。
彗星の撮影計画を立てよう(紫金山・アトラス彗星)
さて、ここまでは星景写真の計画の重要性をお伝えしてきましたが、これから撮影できる天文現象をテーマに撮影計画を立てたいと思います。題材にするのは、2024年10月中旬に見頃を迎えるとされる「紫金山・アトラス彗星」です。この彗星が発見されたのは2023年1月9日で、経過観察の中、肉眼で見られるくらい明るくなるかも?と期待されるようになった彗星です。ただ彗星は水物と言われており、太陽に近づく過程で崩壊してしまうこともあります。
彗星を星景写真の被写体として撮影する場合は、太陽に最も近づく近日点前後が狙い目になります。紫金山・アトラス彗星の場合は、近日点は9月27日で、この頃は日出直前の東の空に見ることができますが、太陽にかなり近いため撮影は困難です。そのため、近日点通過後の日没後の西の空に見えるタイミングが良さそうです。期間としては10月15日〜末日まででしょう。11月以降も撮影はできますが、彗星が暗くなってしまうので、星景写真の被写体としては少々厳しくなります。
彗星は核の周りを覆うガスの雲(コマ)や尾が特徴的で、他の星とは異なるため見分けはつきやすいでしょう。
太陽に近づくにつれその特徴は顕著になり、順調に増光すれば標準や広角でも十分に存在感のある写真を撮ることができます。ただし、どれくらい明るくなるのか、またどれくらい尾が伸びるかは予測することが困難です。
彗星の撮影で活躍するレンズとは
彗星撮影で用意しておくべきレンズですが、「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」が使い勝手よいでしょう。35mm判換算で焦点距離80-300mm相当のズームレンズとなりますが、風景と一緒に撮影したり、彗星単体を撮影したりなど、色々撮り分けられるのに最適なレンズです。また絞りの開放値がF2.8なので、日没後空が暗くなってからの撮影でも扱いやすいです。彗星が明るくなり尾も伸びた場合は「M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II」あたりのレンズも活躍するでしょう。
肝心の彗星がいつどこに見えるかですが、以下は10月20日の18時40分ごろ関東周辺で撮影する場合のシミュレーションです。
西南西の空、おおよそ20度のところにいるのが彗星です。周辺に目印となる明るい星はありませんが、35mm判換算で焦点距離24mm程度の広角レンズを使い、構図の向かって左側に天の川が映るように撮影すると、他の星とは異なる写り方をする星に気づくはずです。広角で場所を特定できたら、徐々に焦点距離を標準、望遠と変えながら撮影をしていくと、画角から外れることなく彗星を大きく撮影することができます。望遠になればなるほど短い露光時間でも星の流れは顕著になりますので、赤道儀なども併用しながら出来る限り点像で撮影することを心がけましょう。
10月の末になればなるほど彗星は暗くなっていきますので、少しでも明るい彗星を撮影したいと思ったら、なるべく早めに撮影するのがおすすめです。ただし、15日すぎた頃はまだ月明かりが明るく撮影に影響してくる可能性もあります。彗星自体が明るくなればそういった影響をあまり考えなくてもよくなりますので、順調に明るくなることだけを期待して待ちましょう。
まとめ
今回は過去の写真展作品の中から3枚をピックアップして、星景写真撮影における計画性の重要性についてと、2024年10月に明るくなると期待されている「紫金山・アトラス彗星」の撮影に向けてのポイントをご紹介いたしました。撮影計画を立てるだけでもワクワクして楽しめますので、ぜひみなさんもお時間ある時に未来の撮影計画を立ててみてくださいね!最後までお読みいただきありがとうございました!
*35mm判換算焦点距離