Photo Recipe(フォトレシピ)
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季節の花をマクロで撮ろう~春編~
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撮影・解説 : 写真家 くにまさひろし
2024年5月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
春が来ると風景にも彩りが増えて、心がウキウキワクワクしてきますね。
そんな心に呼応するかのように、たくさんの花たちが咲き始めます。
春の花というと真っ先に思い浮かぶのは桜とチューリップではないでしょうか。
でも、桜やチューリップほど目立たなくても、春にはたくさんの種類の花があちこちで咲いていますよ。そんな花たちを、ウキウキした心のままに撮影しましょう!
1 しっかり観察が花マクロの基本
春になるとあちこちに黄色くかわいい花を咲かせるタンポポ。きっと皆さん、子供のころからおなじみの花ですよね。そんなよく知っているはずの花ですが、案外しっかりと観察したことはないのではないでしょうか?
花マクロ撮影の基本は観察です。撮りたいと思った花をいろいろな角度からじっくり観察すると、漠然と眺めていては見えなかったいろいろな姿が見えてきます。
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タンポポに近づいてよく見てみると、いろいろな形のシベがあることに気づきます。まっすぐ伸びていたり、Y字型だったり、眼鏡のようにくるりと丸まっていたり。そんな面白い形のシベを見つけたら撮影ボジションをよく吟味して、その形が伝わるように切り取りましょう。
タンポポなど地面近くの低い場所に咲いている花は、ファインダーを覗きながらの撮影が難しい場合もあります。
そんなときに便利なのが、OM-1、OM-5などのバリアングル液晶モニター搭載のカメラ。モニターの角度を調節してライブビューモードで撮影することで、寝転んで無理な体勢にならなくても、しゃがむだけで快適にローアングル撮影ができますよ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/1250秒 ISO 200 +0.7EV
2 いろいろな角度から見てみよう
春を代表する花の一つ、チューリップ。
チューリップというと真横から見たワイングラスのような形が真っ先に思い浮かびますよね。とてもかわいらしいその姿ですが、いつも横から撮っていたのではありきたりな写真になりがちです。
見る高さを変えたり角度を変えたりして、動きながらいろいろな方向から観察してみましょう。
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この作品は、真上から花の中にあるシベをとらえたものです。
まだ開きはじめたばかりのチューリップを選ぶことで、花びらの縁を前ボケとして取り入れました。完全に開いていると花びらの前ボケを作れませんし、チューリップのシベをはっきり見せるとあまりかわいくないですので(笑)、うまく前ボケが入る開き具合の花を探して撮りましょう。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/250秒 ISO 400 +0.3EV
マクロ撮影では微妙に構図やアングルを探りながら撮影することが多いため、三脚に固定するよりは手持ちでフレキシブルに撮影した方がスムーズです。この写真はレンズ内手ぶれ補正機構を搭載したマクロレンズで撮影を行いました。OM SYSTEMのカメラにはカメラの手ぶれ補正機構とレンズの手ぶれ補正機構が協調して手ぶれを抑える強力な5軸シンクロ手ぶれ補正を搭載する機種もありますので、それらのカメラと組み合わせるとピント合わせが難しいマクロ撮影でも、快適に手持ち撮影ができますよ!
3 光の反射を活用しよう
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シャガの群生の後ろに流れる小さな川の水面に太陽の光が反射してキラキラ輝いていました。その反射を背景に取り入れ、光の中から飛び出してくるような表現を狙いました。
水面は常に動いているので、シャッターを切るたびに反射ボケの入り方が変わります。
たくさん撮って、後からボケの入り具合のいい作品を選ぶといいいですよ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/400秒 ISO 200 +0.7EV
4 木漏れ日を活用しよう
桜やチューリップが終わるころ、藤の花が見頃を迎えます。
咲き始めのころにはあたり一面にいい香りが漂って、とても癒やされますね。特徴的な姿の藤の花の一輪を主役に選びました。
藤棚の藤は頭上に花が咲いているため、下から見上げると花や葉が密集した隙間に木漏れ日が見えます。
その木漏れ日を背景にして頭上の花をクローズアップ撮影すると、たくさんの光の円ボケを画面に写し込むことができます。
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この作品は、燦々と降り注ぐ春の優しい陽射しを浴びながらそよ風に揺られている姿をイメージして撮影しました。
風に揺られているイメージを表現するため、花を少し斜めに配置して動きを感じられるようにしています。
また、主役の背後にある花も面白いボケを見せてくれて、画面に変化をつけてくれました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/160秒 ISO 200 +0.3EV
5 光を意識して優しいグラデーションを描こう
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ピンク色からクリーム色のグラデーションが美しい一輪のバラ。そのグラデーションの美しさを表現するために、クローズアップで花の中心部分だけを切り取りました。
このとき花全体の姿を入れようとすると花の周囲の色が画面に入ってしまい、グラデーションの印象が弱まってしまいます。花全体を撮る必要はないので思い切って花の周囲をカットして、花びらだけで画面を埋め尽くしましょう。
撮影のコツは直射日光の当たっていない花を選ぶこと。晴れた日は撮影日和と思いがちですが、実は花にとっては汚い影が花びらに落ちたりコントラストが高くなって硬い描写になったり、あまりいい条件ではありません。主役の花への直射日光をカットすることでコントラストが弱まり、やわらかく優しいグラデーションを表現することができます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/500秒 ISO 200 +1.0EV
6 心のままに写そう
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ハナミズキは開花するまで、周囲にある花びらのような4枚の総苞がくるりと花を囲んで守っています。
まるで小さな赤ちゃんが春の訪れに心をウキウキさせながら深呼吸しているような、そんなかわいらしい姿に心惹かれて心のままにシャッターを切りました。
背景には奥に咲いている花を色のボケとして取り入れ、春らしいポップなイメージにまとめています。花を見ると、「かわいい」「癒やされる」「爽やか」など、きっと心を動かされることと思います。その気持ちや感情を大切にして、感じたことをどう表現するかを考えて撮ることが大事です。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/400秒 ISO 200 +1.3EV
7 シンプルな画面構成を意識しよう
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花びらの奥からひょっこり顔をのぞかせたツツジのシベが、まるで空に浮かぶ雲から外界の様子を伺っているように思えました。
主役のシベの背後には大きくボケたシベ。主役のシベと奥のシベは1cmも離れていませんが、マクロレンズでクローズアップすることで、そんなちょっとの距離でもここまでボケてくれます。
このときに他のシベの葯が画面に入るとそちらにも視線が奪われて、主役の印象が弱くなってしまいます。撮影ポジションを吟味してシンプルな画面構成とし、主役のシベだけに視線が集まるようにしました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/1250秒 ISO 400 +1.3EV
8 物語をイメージしよう
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こちらもツツジのシベ。雌シベです。
雌シベの周囲にある雄シベはクローズアップすることで完全にボケてしまい、ボケの中に雌シベだけが浮いているような不思議な世界を描くことができました。
その雌シベだけでも面白いのですが、ここでは手前に咲いていたツツジの雌シベも入れて変化をつけています。まるで雌シベ同士が追いかけっこをしているようなイメージを思い浮かべながら撮影しました。
なお、クローズアップ撮影に夢中になっていると、ついつい近づきすぎて足元の花を踏んでしまったり、ロープや柵の中、植栽など入ってはいけない場所に足を踏み入れたりしがちです。ファインダーの中だけでなく、周囲にも注意を払うようにしましょうね。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/500秒 ISO 200 +0.3EV
9 花と同じ目線になろう
群生に咲くネモフィラ。このように小さな花が密集して咲いている場所では、漠然と眺めていてもどの花を主役にしていいのか迷うかもしれません。
こんな時は姿勢を低くして、花と同じ高さの目線から眺めてみましょう。
すると、背が高くて飛び出していたり色や形が違っていたり、周囲の花とはちょっと違った花を見つけることができます。
そんな花を見つけられたらこっちのもの。ぜひ主役にしてあげましょう。
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このときは少し遠い場所に咲いていたため、90mm(180mm相当*)のマクロレンズではあまり大きく写せませんでした。そこで1.4倍のテレコンバーターレンズを装着して焦点距離を延ばし、大きく撮影しました。この90mmのマクロレンズにはテレコンバーターレンズが使用できるので撮影の幅が広がりますよ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO + MC-14
252mm相当*
Aモード F5.0 1/1000秒 ISO 200 +1.0EV
10 超望遠で切り取ろう
晴れた日、太陽の光による影が一輪のチューリップに逆ハートの模様を描いていました。その一輪を主役に周囲に咲く花を前ボケにしてシンプルな画面構成とし、逆ハート部分に視線を集めるよう意識しました。
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この作品はマクロレンズではなく、焦点距離100~400mm(200~800mm相当*)の望遠ズームレンズで撮影しています。開放絞り値がF5.0-6.3のズームレンズのため、あまりボケないと思われるかもしれませんね。でも使い方を工夫することでじゅうぶん大きなボケが得られます。
そのコツは、遠くの被写体を狙うのではなく、最短撮影距離付近、できるだけ近い場所にある被写体を撮ること。そうすることで被写界深度が浅く(ピントが合って見える範囲が狭く)なるので、主役の前後のボケも大きくなるというわけです。
M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
614mm相当*
Aモード F6.3 1/500秒 ISO 200 +1.0EV
11 多重露出で幻想的に表現しよう
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木漏れ日を背景に咲くシャガを、溢れる光に包まれた幻想的なイメージを狙って多重露出で撮影しました。多重露出は二枚の写真を重ねて一枚の写真を作るテクニックです。
しっかりピントの合ったカットと同じフレーミングのままピントを外してボカしたカットを重ねることで、霧に包まれたような一枚を撮影することができました。
どんな場面でも使えるテクニックですが、背景に光がある場所を選ぶと光が拡散したようになって、幻想的な作品を作ることができますよ。
M.ZUIKO DIGITAL ED 90mm F3.5 Macro IS PRO
180mm相当*
Aモード F3.5 1/1000秒 ISO 200 ±0.0EV
最後に
マクロレンズの面白さは、ズームレンズなどよりも近づいてクローズアップ撮影できるところにあります。ですが、単に大きく撮れるということよりも、近づくことで得られる大きなボケが最大の魅力なのです。
肉眼では見えない、ボケを活かした幻想的な世界はマクロならではの表現。
ぜひこの幻想的で不思議な世界を楽しんでください!
*35mm判換算焦点距離
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写真家 くにまさひろし
1971年生まれ。大阪在住。
身近にあるちょっとした幸せ「プチ・ハピ」をテーマに、花や虫たちの小さな世界をふんわりやさしく撮影している。
写真展 2020年「花色の息吹」(富士フイルムフォトサロン 大阪)、2021年「花の鼓動~Life~」(富士フイルムイメージングプラザ大阪)、2022年「花色の息吹」(OM SYSTEM GALLERY)、2023年 「Nature Flowers〜OM SYSTEM で撮る花々〜」(OM SYSTEM PLAZA)、2024年 「Nature Flowers〜OM SYSTEM で撮る春の花々〜」(OM SYSTEM PLAZA)
写真集 「花色の息吹」(風景写真出版)
OM SYSTEM seminars Speakers
日本風景写真家協会(JSPA)会員
一般社団法人 日本写真講師協会認定インストラクター
フォトマスターEX(総合)取得
クニさんの花マクロ写真塾 主宰
KuniphotoWorks:https://kuni-hiro.com/
ブログ:https://macro-daisuki.com/