Photo Recipe(フォトレシピ)
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山の魅力と、山岳写真を撮るポイント ~その2~
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撮影・解説 : 山岳写真家 平野 篤
Official Home Page:Atsushi Hirano
2023年9月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
私は両親が山好きで、子供の頃からずっと山歩きを続けています。「何度も同じ山に登って飽きないのか」と聞かれることがありますが、山は訪れる度に違う顔を見せてくれるので、今も飽きずに楽しんでいるのだと思います。春は色とりどりの花が咲き誇り、夏はもくもくした雲が広がり、秋は紅葉の絨毯が色付き、冬は霧氷の銀世界が光輝きます。そんな非日常の世界を皆さんにも見てほしいですし、その感動を写真に残す楽しみを味わってもらえたらと思います。
山とOM-1
私の父は山で写真を撮る時にOLYMPUSのOM-1というフィルムカメラを愛用していました。私はそのカメラを譲り受けて今でも愛用しています。フィルムカメラの中でも特に小型・軽量で山との相性は抜群だと思います。名技術者である米谷美久氏が生み出したこの美しいカメラは、首にかけた瞬間から楽しくなり、どこへでも持ち出してシャッターを切りたくなる名機です。
今回、私が2回に渡り紹介している写真は全て、このOM-1と同じ名前を受け継いだデジタル一眼カメラOM-1で撮影しています。歴史的名機の特徴を受け継ぎ、更なる進化を感じられる機体となっています。
その特徴は以下のとおりです。
- 軽量・コンパクト
センサーサイズがマイクロフォーサーズであるOM-1の本体重量はバッテリー含みで599gです。一般的なフルサイズカメラは600g以上(機種によっては700g以上)なので、この時点でかなり軽量です。また、カメラの重量を考える時に大切なことは「レンズの重さも考慮すること」です。今回メインで使用したレンズはM.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II(35mm判換算焦点距離24-80mm相当) 、絞り値は開放でF2.8のズームレンズで、重さは382gです。もし一般的なフルサイズ用レンズで同等の焦点距離及びF値のレンズであれば700~800gはします。山好きな人のためにテントで例えると、1人用テント(1kg弱)と2人用テント(約1.5kg)くらいの違いがあるわけです。総重量で考えた時にどれだけのアドバンテージになるか伝わるでしょう。 - 防塵・防滴設計
これは前回記事でも説明しましたが、山では非常に重要な機能です。OM-1は防塵・防滴設計に特に力を入れています。また、耐低温-10℃を実現しており、気温が下がる山での朝晩や雪山においても問題なく使用できます。 - 撮影機能等
AF性能が非常に優秀でピントが正確且つ高速です。また、連写に関してもAF/AE追従で最高50コマ/秒(※使用可能なレンズは限定されます。)なので、野鳥など動物の撮影にも適しています。センサーサイズの小ささを感じさせない階調豊かで精細な描写も特徴の一つです。メモリーカードがダブルスロットル、電池容量が大容量で持ちがいいといった点もオススメポイントだと思います。
山で写真を撮ってみよう
尾瀬 燧ヶ岳に登り、尾瀬ヶ原へ
尾瀬は福島県、新潟県、群馬県、栃木県の4県にまたがる国立公園で、「はるかな尾瀬、遠い空」と唱歌に歌われる一大景勝地です。今回は主峰の一つである燧ヶ岳(ひうちがたけ)に登り、そこから尾瀬ヶ原に下りてテント泊し、翌朝は湿原の散歩を楽しんできました。
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御池登山口から燧ヶ岳に向かう途中には熊沢田代という湿原があります。この場所は牧歌的な雰囲気で私のお気に入りスポットです。木道を歩く登山者を入れることでスケール感が伝わり、ストーリー性も生まれます。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
38mm相当*
Aモード F2.8 1/3200秒 ISO 200 -0.3EV
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燧ヶ岳山頂に到着すると眼下に湿原や尾瀬沼を一望することができます。沼を全部入れようとするより大胆に切り撮ります。手前から奥にかけて春の残雪、雲が映りこんだ尾瀬沼、連なる山々を詰め込んだ1枚です。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
42mm相当*
Aモード F2.8 1/2000秒 ISO 200 -0.3EV
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朝、テントから出て少し歩くと尾瀬沼という湿原が広がっています。カメラを持って、ここをのんびり散歩するのが私の尾瀬の楽しみ方です。奥にそびえるもう一つの主峰である至仏山を眺めながら歩くことができます。絞りF値を小さくしてローアングルから撮影し、手前の木道をぼかすことで奥行を出しています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
70mm相当*
Aモード F2.8 1/80秒 ISO 250 -0.3EV
九重連山 天狗ヶ城へ朝駆け
九州では夜のうちに山頂まで登って朝日を見ることを「朝駆け」といいます。夜にヘッドライトを使って登るにはある程度の経験が必要ですが、だんだんと夜が明けてきて朝日が空を染める時間帯は格別です。今回は天狗ヶ城(てんぐがじょう)に朝駆けし、三方違う角度を撮影しました。
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中岳山頂側を望遠レンズで撮影しました。この日は雲を染める朝焼けが特別綺麗でしたので、空を主役に写すことにしました。雲が多くて朝日が出てこないかと残念に思っていたらこんな朝焼けが待っていたりする。こうやって山にハマっていく人は多いのではないかと思います。望遠レンズを用い、山頂で朝焼けを眺める登山者を入れることでストーリー性を演出しています。
M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
80mm相当*
Aモード F6.3 1/160秒 ISO 200 -0.3EV
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奥に浮かぶ由布岳の山並みを撮影しました。自分が歩く山域のことを深く知ることで、風景の見え方は変わってきます。私はこの方角に美しい双耳峰(二つの耳をもつ峰)が見えることをよく知っているため、一番綺麗に浮かび上がるタイミングでシャッターを切りました。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
68mm相当*
Aモード F2.8 1/80秒 ISO 250 -0.3EV
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朝日と逆側の星生山を写しました。実はこちら側はずっと分厚い雲がかかっていて景色が見えなかったのですが、ある程度の風が吹いていれば瞬間的に雲が晴れ、この方角に朝日に照らされた星生山が現れるのではないかと思っていたので、別の方角を撮りながら待っていました。案の定、一瞬だけ現れたので、その瞬間を見逃さず撮影しました。このように雲で景色が隠れている時は一発逆転のチャンスです。撮影のコツは、山頂付近ははっきり見えて、中腹あたりは雲が漂っている瞬間を狙うことです。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
38mm相当*
Aモード F8.0 1/60秒 ISO 320 -0.3EV
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山で写真を撮る時、地形や地質に着目するのもおもしろいと思います。阿蘇くじゅう国立公園では特徴的な火山地形を見ることができます。よく見渡せる高い位置から地表の質感や立ち昇る噴煙をよく観察して構図を決めます。絞りF値は大きくして全体がはっきり見えるよう撮影しました。地形好きにはたまらない1枚ではないでしょうか。
M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO II
46mm相当*
Aモード F13 1/320秒 ISO 200 -0.7EV
最後に
今回は山と相性がいいOM SYSTEM OM-1の特徴と、引き続き山の魅力や山で景色を撮るポイントをお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか。山を歩くと今まで見たことのないような美しい光景に出逢います。そしてその山を深く知ると更に深遠な風景に気付くようになります。
最初は無理せずに軽い装備で安全に山を楽しんでください。そして、お気に入りのカメラを首にかけて、気付いた景色を撮る楽しさをぜひ皆さんにも味わっていただけたら嬉しいです。
*35mm判換算焦点距離
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山岳写真家 平野 篤(ひらの あつし)
福岡県出身の山岳写真家。九州を拠点に日本各地の山を歩き、デジタルカメラとフィルムカメラで撮影を手がける。写真展の開催、アウトドアブランドやショップへの写真提供、額装写真の提供、執筆、トークイベントなど多岐に渡り活動。世界各国の風景写真を紹介するPhotography Community『humming magazine』のファウンダー。2022年にフォトエッセイ集「STADE MAGAZINE Issue Two」(STADE MAGAZINE社) 発刊、2023年に写真集「ENCOUNTER ONE」(humming magazine社)発刊。
Official Home Page:Atsushi Hirano
Instagram:@atsushi_mt.photo