Photo Recipe(フォトレシピ)
春を感じる花写真
2023年3月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
みなさんは「春」にどのようなイメージを持っていますか。四季の中でも、寒い冬から徐々に暖かさが増して、生命のエネルギーが一気に開放されるのが春だと思います。開花する花の種類も豊富で、人間も植物も、春の訪れに喜びを感じているように思えます。それを写真で表現しようというのが今回のテーマです。桜が写っていれば、もちろん春の写真ですが、その写真にも“春らしさ”のエッセンスを入れていきましょう。春に咲く花の写真を撮るから春の写真なのではなく、春を感じるためのテクニックを取り入れて、春を表現してみましょう。
1. 紅白枝垂饗宴
二色の枝垂れ桜の枝振りが見事でした。主役は手前の白い桜ですが、奥に紅桜が入ることで色合いが華やかになりました。このボリューム感を強めるために、望遠レンズで撮影しています。広角に比べると望遠は密集感が高まり、花の重なりを感じさせることができます。美しい桜を前に、ついつい近づいて撮影したくなりますが、近い距離から広角で写すのと、離れた場所から望遠で写すのではまったく違った見え方になります。シーンによってベストなレンズは変わるので、迷った時はぜひ撮り比べてみてください。
2. 春の香
家の近くにある公園へ桜を撮りに出かけました。家族と一緒だったこともあり、軽い装備にするため、カメラにM.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macroのマクロレンズだけを付けて出かけました。中望遠ながら軽量でコンパクトなので、首から下げていても重さは感じにくく、それでいて花に寄れて、背景ボケや前ボケも作りやすいレンズです。マクロレンズは単焦点なのでズームはできませんが、自分が桜に近づいたり離れたりしながらフレーミングしていきます。気軽に花を撮影するときのレンズチョイスとして、マクロレンズを1本だけ持っていくというのもアリですよ。
3. 深山の春
街中で見られる桜といえばソメイヨシノがスタンダードで、密集して咲いている姿はボリューム感があり、とても華やかです。しかし、それとは違い、自然の中で見る野生種の山桜は花付きは少ないものの、控えめな姿に趣深さを感じます。ソメイヨシノは花が終わってから若葉が出てきますが、山桜は若葉と同時に開花するのが特徴です。満開を迎えた山桜を中心に、左右には花が終わりかけた山桜、背後には芽吹いたばかりの木々に囲まれ、春の季節の移り変わりを感じることができました。
4. 春の色合わせ
黄色とピンクは春を感じる色の組み合わせで、わたしの好きな色でもあります。早春にはロイバイ、フクジュソウ、タンポポなど黄色い花が見られますね。写真は菜の花と桜の組み合わせです。桜は主役にするのもいいですが、このように背景としてぼかすのもいいものです。しかし、白っぽい桜だと、ぼかした時に色を感じにくいので、ピンク系の桜がオススメです。写真の背景にした桜はピンク色の濃い河津桜という品種で、色の差がくっきりとし、主役を引き立ててくれました。
5. 黄色い絨毯
広大な河川敷に菜の花が所狭しと咲いていました。平面的に見えるのは順光を選んだこと、望遠で撮影したこと、そして、高い位置から撮影しているためです。順光は正面から光が当たるので陰影が少なくなります。そして、望遠は広角の逆で、遠近感がつきにくく平面的に感じやすくなります。さらに、低い位置から撮影すると前後の奥行きが出やすくなりますが、上から見下ろすことで平面的に見えるのです。このような全面的な花畑を撮るときは花のボリュームにムラが出ないように気をつけましょう。手前、奥、左右に花畑の終わりを見せない、画面を花で締められるぎりぎりのフレーミングをしましょう。また、一部でも花の少ない部分があると目を引いてしまうので、満遍なく咲いている部分を探して、そこを望遠で切り取りましょう。
6. 野原の金魚
姫金魚草とも呼ばれるリナリアという小さく、可愛らしい花です。白やピンク、黄色といった花色があって、花畑の中でどれを主役にして、どれを背景にするか迷ってしまいます。主役、背景の色選びでのポイントで大切なのは、主役が背景に溶け込まないこと。主役より背景が目立たないこと。背景が主役を引き立てること。これを基本に考えるといいでしょう。背景をぼかしたとしても主役と背景が同じ色同士では主役が溶け込んでしまいがちです。また、主役よりも目を引く色は画面に入れないようにした方がいいでしょう。理想的なのは主役が溶け込まず、邪魔をすることもなく、むしろ、主役を引き立ててくれるような背景です。写真のように、白い主役に対し、彩りがありつつ淡い色を選べばうまく合わせることができます。
7. 水彩の花園
チューリップの花の先端だけを狙いました。周囲は前ボケで覆って、見せたい部分だけを強調しています。かなりアップで撮影しているので機材はマクロレンズと思われるかもしれませんが、じつは望遠ズームで撮影しています。「M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO」の最望遠、かつピントが合うギリギリまで迫れば、ここまでのクローズアップも可能です。もちろんマクロレンズほどの倍率までは得られませんが、中〜大サイズの花であればこのような花の一部分を切り取るような写真も撮ることができます。オレンジの淡い色がまるで水彩画のように見えます。
8. 曲線の造形
黄、赤、ピンクと色の異なるチューリップが中心から円を描くように植えられていました。その半分を切り取るように撮影しました。大規模な公園では種類も豊富で、植え方にもさまざまな工夫があって、とても魅力的ですね。この中では黄色が目立つので黄色いチューリップにピントを合わせつつ、前後の赤系のチューリップはほんのりとぼかしています。花の色や植えられた造形に注目したのとともに、ここでのポイントはアングルを下げ気味にした点です。高い位置から撮るよりも花の重なりが増し、前後のボケも生じやすくなります。
9. 朝露のきらめき
朝露がついた草原でムスカリをローアングル撮影しました。低いアングルで撮影したことで、草に付いた朝露のボケを入れることができました。カメラの位置を花よりやや下にして撮っていますが、そんなローアングルでの撮影にはバリアングル式の液晶モニターが便利です。液晶画面を引き出し、ライブビューモードで撮影すれば、楽な姿勢でローアングル撮影ができます。私はほとんどの撮影でライブビューを使って撮影していますが、寝そべることなく、横位置、縦位置ともにローアングル、ハイアングルが撮りやすいのでとても助かっています。
10. 夕暮れ色に染まる
日中の光に比べ、夕暮れの光は弱々しく、暖色系の温かみを持っています。そんな夕暮れの光に照らされた藤を撮影しました。垂れ下がるひと房を主役にし、背景には同じように夕日の当たった藤をぼかして入れています。主役の花を見てみると逆光で光があたった部分が明るくなっています。背景の藤も同じ光が当たっているので、光が当たっていない部分は暗い紫色ですが、明るい部分がキラキラと丸く輝いているのです。しかも、ほんのりと赤みを帯びた光なので、オレンジ色のボケになっていますね。このように時間帯の変化による、色の違いには敏感になっておきたいものです。ちなみにホワイトバランスは晴天で、実際の色が補正されることなく、そのままの色合いで写るようにしています。オートホワイトバランスでは赤みが補正される場合もあるので注意しましょう。
11. 空を仰いで
ネモフィラは草丈の短い花なので、普通に眺める時は見下ろすようになりますが、見上げて見た姿は新鮮に感じます。しかし、丈の短い花を見上げて撮るときは、花との距離が近くなりがちです。花をクローズアップするというと望遠系のレンズをイメージしがちですが、丈の短い花を下から望遠で撮ると、距離が近すぎてピントが合わないか、アップになり過ぎてしまいます。そのため、ここでは標準ズームの広角側を選んでいます。画角が広いので花全体を写せるし、ほどほどの近距離でもピントが合います。
12. 喜びの季節
花たちが春の訪れを全身で喜んでいるように感じられますね。1枚目の桜の写真では望遠を使って花の密集感を出したとお話ししました。この写真はその逆である広角系の画角で撮影しています。広角の特徴は遠近感が生じること。ハナモモ畑を下から見上げると四方から枝が伸びるような迫力のある写真になります。撮影しているときも、まるで花に覆われているようで、シャッターを切りながら、体全体で春を満喫できました。風景を広く写す広角、アップで写す望遠という使い方だけではなく、遠近感を出す、密集感を出すという使い方も覚えておきましょう。
まとめ
ひと口に“春を表現する”と言っても、さまざまな方法があります。春に咲く花を撮るのはもちろん、やわらかな光を選ぶ、淡い色合いで組み合わせる、ふんわりとしたボケを作るなど、テクニックを使って、自分がイメージする春を表現してみてください。大事なのはただ撮るだけではなく、イメージすること。そして、それを表現するためのテクニックを使うことです。イメージがあっても表現するテクニックがなければうまく伝えることができないし、テクニックがあってもイメージを持たなければただ撮るだけに終わってしまいます。ひとつの花にじっくりと向き合って、工夫することが遠回りのようで、実は上達への近道です。花いっぱいの季節。ぜひカメラを持って、花を撮りに出かけてみてください。
*35mm判換算焦点距離