Photo Recipe(フォトレシピ)
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秋のお花・紅葉をきれいに写そう
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撮影・解説 : 写真家 吉住 志穂
2022年10月公開
記事内で使用した
レンズをご紹介
はじめに
秋には可憐な花が咲き揃います。ヒガンバナ、コスモス、ダリアなど、“秋の花”として誰しもイメージできる花がたくさんありますね。また、秋も深まれば、身近な木々も鮮やかに色づきます。そんな秋の花やモミジを美しく、可憐に写してみましょう。春とも、夏とも違う、秋らしさを表現するにはどのような工夫が必要なのか?花の魅力を引き出す光選びは?主役を引き立てる背景は?どのように構図やアングルを工夫すべきか?レンズの選択、カメラの設定なども合わせて、自分のイメージに近づけていくためのポイントをご紹介します。
1. ダリア 〜秋空に咲く〜
青空と白い雲を背景に入れて、爽やかな秋晴れの雰囲気を感じさせました。空の色を濃く出すために、順光を選んでいます。逆光と順光では空の青さに違いがあるので、一度空を見回してみるとよくわかります。また、望遠ズームレンズを使っていますが、その中でもいちばん短い焦点距離を選ぶことで、背景の写る範囲が広くなるので、雲の様子がわかるように写っています
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
80mm相当※
Aモード F4.0 1/800秒 ISO 200 ±0.0EV
2. ダリア 〜花びらの造形〜
マクロレンズはクローズアップが得意なレンズです。これはポンポンダリアなどとも呼ばれる球体型のダリアの花びらをクローズアップしたもの。ここまで大きく写すと、花というより形が目に入ってきます。通常のレンズではここまで大きく写すことはできないので、マクロレンズならではの撮り方といえるでしょう。このように自然が作り出す美しい形に注目してみるのもおもしろいですね。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
120mm相当※
Aモード F2.8 1/30秒 ISO 400 +2.0EV
3. ヒガンバナ 〜白い曲線〜
ヒガンバナの白色品種のシベだけをクローズアップしました。ヒガンバナはこの長いシベが特徴的なので、花弁は入れずに、あえてシベだけを狙いました。白いシベが映えるようにと背景には日陰を選び、黒と白の対比でインパクトを与えています。ここでもやはり、マクロレンズのクローズアップ能力の高さが役に立ちます。手持ちで撮りましたが、強力な手ぶれ補正が効いていて、ブレることなくシャープに撮ることができました。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
120mm相当※
Aモード F2.8 1/800秒 ISO 200 -1.0EV
4. ソバ 〜可憐に咲くソバの花〜
ソバの花をじっくりと見たことが無い方もいるでしょう。このような白く、小さな花をつけます。園芸種の花に比べると一輪だけでは主役になりにくい花ですが、ソバは鑑賞目的というより実を採るのが目的なので、広い敷地いっぱいに植えられています。そのため、群生を風景的に捉えたり、前後にボケを入れることで賑やかな雰囲気がでてきます。たくさんの花の中でも背の高い花を選ぶと自然と目を引きますから、あとは前後にボケを入れて主役を引き立てましょう。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F2.8 1/1250秒 ISO 200 +1.0EV
5. コスモス 〜秋色コスモス〜
絞りF値を開放(F値を小さく)にするとともに、被写体に寄れば寄るほど、大きなボケが得られます。マクロレンズでコスモスをクローズアップすると、ピントを合わせた中心部はシャープですが、手前や奥の花びらもボケる程です。もちろん、花に対して正面から撮れば、全体がシャープに写りますが、少し斜めから写しているので、カメラと被写体との距離に差ができ、前後がボケるのです。ボケが大きくなるということは、当然、ピント位置がずれやすくなります。特にコスモスは風で揺れやすいので、同じ構図で多くのシャッターを切るのと、その場で背面モニターを使ってピントの確認を忘れずに行ってください。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
120mm相当※
Aモード F2.8 1/1000秒 ISO 200 +1.3EV
ファンタジックフォーカス
6. キバナコスモス 〜ポップな花畑〜
花畑の前後をぼかすように低いアングルから写しました。すると、ピント面の前後、手前や奥にボケが生じます。風景写真のように、花畑全体をシャープに写すのも良いですが、ここは可愛らしい雰囲気にしたかったので、ボケを多く取り入れ、露出も明るめの補正をかけてハイキー調とし、心がウキウキするような、軽やかな雰囲気に仕上げました。日向の花畑では花の陰影が多く硬い印象になるので、日陰の部分を選んで写しています。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F8.0 1/320秒 ISO 1600 +1.3EV
7. コスモス 〜夕陽の中へ〜
夕陽をぼかすと丸いボケになりますが、そこに一輪のコスモスを重ねて、夕日の中にすっぽり入ってしまったように写しました。コスモスに近づけば、夕陽をもっと大きくぼかすことはできますが、秋の夕暮れの寂しい感じを出したかったので、あえて小さく写しています。陽が高いと、夕陽のボケが真っ白に飛んでしまうので、太陽が沈みかけて光が弱くなるのを待って写しました。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F3.5 1/8000秒 ISO 200 -1.3EV
8. ケイトウ 〜カラフルガーデン〜
ケイトウという花で、漢字で書くと「鶏頭」です。ニワトリのトサカのような花房をつけるのでこの名前がついていますが、同じケイトウでもトサカ系はまさにニワトリの頭のような姿をしていますが、この羽毛系のケイトウは花房がフサフサしています。このタイプのケイトウを花壇に植えるガーデンを見ると、異なる彩りを重ねて楽しむことができます。逆光で写すと、花房の輪郭が輝くので美しいです。プラス気味の露出補正をかけて、逆光でも明るく写るように調整しましょう。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F2.8 1/500秒 ISO 200 +1.3EV
9. バラ 〜重なるウェーブ〜
バラのシーズンは春と秋。花の付きは春の方が良いですが、秋にもバラが楽しめます。バラを撮りに出掛けると、必ずチャレンジするのがこのような中心部分のクローズアップ。渦巻くような花びらはバラならではの魅力です。花びらの色のグラデーションを見せたいので、曇りの日や日陰の花を選ぶのがおすすめ。バラの花びらは奥まっているので、日差しが強いと奥は影になり、外側は白く飛んでしまいます。そのため、光がやわらかい場所を探して狙います。中心部の形は花ごとに違うので、よく観察して、綺麗な重なりを探してみましょう。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
120mm相当※
Aモード F4.0 1/125秒 ISO 200 +1.3EV
10. モミジ 〜色付く木もれ陽〜
モミジの中でも色づいた部分とまだ緑の部分が混在していて、赤一色よりも彩りが豊かでした。この色付きの違いに季節の移ろいを感じますね。背景の色は赤いモミジをぼかしたものです。また、葉と葉の隙間から見える曇り空をぼかすことで、このような丸いボケになるので、あえて主役は小さめに配置し、背景の空間を広げたフレーミングで、煌めきの面積を多くとりました。背景をぼかしたり、丸ボケを背景に入れるのは花を撮る時によく使うので、感覚的には花とモミジのクローズアップ撮影は同じようなテクニックで撮影しています。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
300mm相当※
Aモード F2.8 1/320秒 ISO 1250 +1.3EV
11. モミジ 〜夕暮れの影絵〜
モミジをクローズアップするなら、枝先を狙うのがおすすめです。余計な枝が入りにくいですし、葉と葉が重なりにくいので、画面がすっきりします。また、葉の面に対してカメラの面を平行気味に据えると形が綺麗に見えます。ここでは夕暮れの日差しを背景に入れて、葉をシルエットにしました。周囲の赤色は紅葉したモミジの色です。明るい部分と重ねることで明暗差が生じ、モミジが黒く写るというわけです。形が綺麗な被写体は花でも葉でも作品になります。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
284mm相当※
Aモード F2.8 1/400秒 ISO 200 -1.0EV
12. アザミ 〜氷化粧〜
街中では木々が赤く色づく11月末。長野県の志賀高原では少し早めの冬景色が見られました。上を見上げると枝に霧氷がついていて真っ白に。草原でも枯れ草に氷がうっすらと付着していました。秋に花を咲かせたアザミが二輪、花びらを落とした姿で佇んでいました。アザミを少し小さめに配置して、親子や兄弟が寄り添っているかのように写しました。もう高地は冬支度。ひと月あとにはこのアザミも深い雪に包まれるでしょう。そこに植物の最後の輝きを見ました。
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レンズ:M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
270mm相当※
Aモード F2.8 1/400秒 ISO 200 +1.7EV
まとめ
秋の花には夏から冬へと移行する、どこか寂しげなイメージがあります。太陽も一日を通して傾き、順光と逆光の差がはっきりします。夏のギラギラとした光とは違う、優しげな光を感じてみてください。また、そのイメージに合わせて、ボケを利用してふんわり感を出したり、明るめの露出で撮ってみたりと、作品の中にいろいろな工夫ができますね。目の前の花をただ写すだけではなく、一輪全体を撮るか、部分をアップするか、群生として狙うのかを考えたり、季節感を意識して撮ることにもチャレンジしてみましょう。
※35mm判換算焦点距離
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吉住 志穂(よしずみ しほ)
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、花のクローズアップ作品を中心に撮影している。女性ならではの視点で捉えた作品が多く、2021年には写真展「夢」を開催。また、写真誌での執筆や撮影講座の講師を務める
日本写真家協会(JPS)会員
日本自然科学写真協会(SSP)会員
写真展「Heartful Flowers」「Ants」「Yin&Yang」「花時間」など